- 著者
-
川合 謙介
- 出版者
- 医学書院
- 巻号頁・発行日
- pp.331-346, 2011-04-01
はじめに
迷走神経刺激療法(vagus nerve stimulation:VNS)は,てんかんに対する非薬剤治療の1つであり,抗てんかん薬に抵抗する難治性てんかん発作を減少,軽減する緩和的治療である。植込型の電気刺激装置により,左迷走神経を間歇的かつ慢性的に刺激する(Fig.1)。難治性てんかんに対する緩和的な電気刺激療法としては最初に臨床応用されたもので,欧米へ導入されてからおよそ15年が経過した。難治性てんかん発作に対する抑制効果は根治的ではないものの,無作為化二重盲検試験で確認された信頼度の高いものであり1,2),1999年の米国神経学会指針でクラス1エビデンス認定を受けている3)。欧米では,既に長らく薬剤抵抗性で開頭手術の適応もない難治性てんかん発作に対する緩和的治療の重要な選択肢となっている4)。
したがってVNSは,必ずしも新しい治療と呼ぶにはふさわしくないのだが,日本でも2010年1月に薬事承認,7月に保険適応が得られ,ようやく臨床場面での通常使用が可能となった。本稿では,わが国でのこのようなタイミングを踏まえて,VNSの歴史,関連する解剖および生理学的知識,作用機序,治療適応と臨床効果,安全性と副作用,実際に治療を行う場合の注意点などについて概説する。