著者
奈良 勲
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.85, 2018-01-15

ホモ・サピエンス(理性の人)としての人類は,古代にはボディーランゲージ,象徴的壁画(絵文字),そして文法の確立されていない単純なことばを媒介にして,ホモ・ファーブル(創造の人)として相互のコミュニケーション手段を考え出し,歴史の経過に伴い,各地域の文明化と文字文化が創造されてきた.しかし,古代文明を築きながらも,その民族の一部は文字文化を発展,継承することができなかった.例えば,これまで世界の四大文明は,メソポタミア・エジプト・インダス・黄河文明であると言われてきたが,近年そのほかにも文明化された地域が存在していたとの報告がある.いずれにせよ,小規模な文明を構築していた民族のなかには,文字文化を残していない民族もあり,仮にそれらの文明の遺跡は温存されていたとしても,文字文化は消滅している. 日本の歴史的な伝説や神話を含む『古事記』には,古代の事象が文字として記録され温存されているため,その文明と文化などを知る大きな手掛かりになっている.日本人の主な生活基盤は農耕民族として受け継がれてきたが,文字文化は朝廷および武士の時代に伝承されてきた.明治維新から太平洋戦争までは初等・中等教育としての尋常小学校,旧制中学,旧制高校,そして戦時中の旧制(帝国)大学は戦後に新制大学へと変遷してきた.このような長い歴史を経て日本語は古文から現代語へとさま変わりしてきた.

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