- 著者
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高橋 正雄
- 出版者
- 医学書院
- 雑誌
- 総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
- 巻号頁・発行日
- vol.42, no.3, pp.274, 2014-03-10
昭和35年に三島由紀夫が『近代能楽集』(新潮社)の一編として発表した『弱法師』は,俊徳という盲目の青年を主人公とする戯曲である.俊徳は5歳の時に空襲の炎で両眼を焼かれて失明し,実の両親とはぐれてしまったために,その後15年間他家で養育されたのだが,養父母は,俊徳のことを,「あの子は一種の狂人です」として,その奇妙な性格を次のように語っている.「あの子の性質には,私どもにどうにも理解できない妙なところ,固い殻のようなものがあるのです」,「あの子には感動というものがないのです.実の御両親が現われたときいても,あの子はまるで感動を示しもせず,ここへ来るあいだも至極つまらなそうな顔をしていました.そうかと思うと些細なことに,急に激して手に負えなくなったり……」.
養父母は,このように俊徳の不可解な性格を語り,それを聞いた実の親は,「すっかりひねくれて育ってしまった」と慨嘆するのだが,実は俊徳には,空襲時の光景がありありと蘇るというフラッシュ・バックを思わせる症状も記されている.