著者
吉田 健史
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.46-50, 2015-01-01

急性呼吸窮迫症候群acute respiratory distress syndrome(ARDS)に対する人工呼吸器管理は,ガス交換を改善し呼吸仕事量を軽減させる最も重要な治療手段である。人工呼吸器管理はARDSの治療において必要不可欠である一方,それ自体が,肺傷害を悪化させ,死亡率を増加させる一因になることが示されている〔人工呼吸器関連肺傷害ventilator-induced lung injury(VILI)〕1)。そのVILIを規定する因子は,stressとstrainである2)。stressとは肺実質にかかる圧のことであり,strainとは(機能的残気量から変化する)肺実質の歪みのことである。これらstressとstrainを制限するために,我々はプラトー圧と1回換気量を制限する肺保護換気戦略を行ってきた3)。 この肺保護換気をさらに促進させるため,人工呼吸器管理中に自発呼吸を温存するかどうか長年議論されている。人工呼吸器管理中の自発呼吸の役割に関しては,酸素化能の改善,ICU滞在日数および挿管日数の減少など,自発呼吸の有用性を報告する研究4〜6)がある一方で,severe ARDS患者に対する早期の筋弛緩によるfull supportが予後を改善させる7〜9)という,従来の自発呼吸の研究結果に相反する臨床結果が近年示された。さらに,人工呼吸器管理中に自発呼吸を温存すると,肺保護換気戦略に従ってプラトー圧と1回換気量を制限していたとしても,実はstressとstrainを制限できていない10〜12)ことが明らかになってきた。したがって,このコラムでは人工呼吸器管理中の自発呼吸を残すpartial ventilatory supportと筋弛緩によるfull supportの役割を論じる。Summary●人工呼吸器管理中に自発呼吸を温存した場合,プラトー圧と1回換気量はstressとstrainのよい指標にはならない。●人工呼吸器管理中の自発呼吸は,肺保護換気戦略に従ってプラトー圧を制限したとしても,経肺圧を増加させている危険性がある。●人工呼吸器管理中の自発呼吸は,肺保護換気戦略に従って1回換気量を制限したとしても,pendelluft現象のために肺局所の過伸展を引き起こしている危険性がある。●筋弛緩によるfull supportにより,経肺圧の厳格な管理が可能となり,pendelluft現象を防ぐことができる。●自発呼吸を残すpartial ventilatory supportと筋弛緩によるfull supportはARDSに対する人工呼吸器管理において相反するものではなく,ARDSの重症度と肺保護換気戦略を念頭において,むしろ一連の治療のなかで同時に行われる管理方法である。

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