著者
松田 祐典
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.117-123, 2021-04-15

私は2010年から産科麻酔の世界に足を踏み込み,多くの時間を周産期診療に投じてきた。本稿の依頼を受けてすぐに,そこで得られた多数の奇異な臨床経験から,読者諸氏にどれが最も教訓となるかと,私のログブックを紐解いた。 産褥搬送でヘモグロビン1.9g/dL,ヘマトクリット6%で,大動脈遮断バルーンを挿入して救命した症例か? それともEisenmenger症候群の分娩管理で,硬膜外麻酔と循環制御に難渋した症例か? はたまた,明らかな気道確保困難が予測されたHELLP症候群妊婦で,気道超音波を併用して全身麻酔をかけた症例か? しかし,これらはすべてなんだかんだで巧みにマネジメントできた経験であり,このような英雄譚から学べることは案外少ない。 そこで,私は再度ログブックを見直した。所々ハイライトされている症例が目に飛び込んできたが,なかなか自身の日常臨床を大きく変えた症例はみつからなかった。あきらめかけていたその時,とっておきの一例に惹きつけられた。本症例は臨床的のみならず,私の個人的な印象に残った症例である。この“物語”を通じて,読者に産科麻酔の奥深さが伝われば幸いである。

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