著者
八瀬河 裕美 大江 直美 小田 実
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3P3009, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】症状としての肩こりは、日常において頻度の高い訴えの一つであるが、その病態は未だ解明されておらず、科学的指標も確立されていない.総じて自覚症状の表現方法に基づいて定義され、他覚症状の有無は問題とされていない.我々は、僧帽筋上部線維・肩甲挙筋の循環動態を評価する目的で近赤外分光法(near-infrared spectroscopy : NIRS)を用いていくつかの知見を得たので報告する.【方法】対象は外呼吸器に問題がなく、肩関節疾患の既往のない者20名(男性13名、女性7名、平均年齢27.3±4.1歳)とした.肩こり群の判定は圧痛所見の有無に関わらず自覚症状のある者とし、肩こりなし群は圧痛所見がなく自覚症状のない者とした.肩こり群は9名、肩こりなし群は11名であった.方法は、レーザー組織血液酸素モニターOMEGA MONITOR BOM-L1TRW(オメガウェーヴ株式会社、東京都)を用い、C7棘突起と肩峰を結ぶ上角内側縁から中枢よりに送受光部一体型プローブを当て、OPSITE FLEXIFIXで固定した.全対象者に研究の趣旨を説明し、同意を得た上で実験を行った.1分間の安静坐位の後、両手に2kgのダンベルを把持した1分間肩甲骨最大挙上運動と3分間の安静を交互に3回繰り返した.評価項目は1回目と2回目のStO2の回復時間(StO2が運動終了時点から回復期における最大時点までの1/2回復に要する時間:以下Tr1、Tr2)とした.統計学的検討は、2群間の対応のない比較にはMann-WhitneyのU検定、対応のある比較にはWilcoxonの符号付き順位検定を用、危険率が0.05未満を有意差ありと判定した.【結果】Tr1は肩こり群:17.1±5.5秒、肩こりなし群:10.5±2.8秒であり、肩こり群のほうが有意に延長した(p<0.05).Tr2は肩こり群:14.1±4.7秒、肩こりなし群:11.2±3.3秒で差はなかった.また、肩こり群においてはTr2が有意に短縮していた(p<0.05).しかし、肩こりなし群はTr1とTr2の間に有意差は認められなかった.【考察】肩こり群にTrの延長が認められ、諸家の報告を支持する結果となった.高桑らは、Trは筋内毛細血管密度の増加、ミオグロビン濃度の増加、ミトコンドリアの大きさ・数の増加,酸化酵素活性、酸素運搬能力などを総合的に反映し、筋の有酸素能力を反映している.Trの延長は筋の有酸素能力が低下した状態であると報告している.坂井らは、肩こり患者の深部組織は健常者のそれと比較して虚血状態にあると報告している肩こり群ではTr2が短縮した.等張性運動は、α運動ニューロンを発火させ、Ia群線維の発火を中止させる.Ia群線維の抑制は、γ-loopによりγ線維の発火を抑え、リラクゼーション効果を生んだと考えられた.運動による熱産生は血流量を増加させ、Trの短縮として現れたと考えられた.今後、年齢・罹患歴・運動習慣などを考慮した更なる検討が必要である.

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