著者
伊藤 実
出版者
Japanese Society of Agricultural, Biological and Environmental Engineers and Scientists
雑誌
生物環境調節 (ISSN:05824087)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.17-20, 1969-08-31 (Released:2010-06-22)
参考文献数
4

土壌の保水性をpF曲線から検討することは土壌の作物への水分供給の研究にとって重要である.しかしすでに明らかにしてきたように, 土壌の乾燥処理の仕方によってその保水性は変化することがわかった.このことから, 土壌の保水性を考究するには土壌のうける乾燥の強さや過去の履歴を知ることが必要となる.ここでは土壌の乾燥程度と粒子との関係について考察してみる.粒子自身の保水性に変化を生ずるようになるのは多くの場合風乾程度 (≒pF6前後) の乾燥をうけるときである.他方, それ以下の乾燥では粒子そのものの保水性の変化よりも粒子系としての保水性の変化を示すことになる.すなわち, 乾燥があまりつよくないと, 粒子そのものに変化はないが, 粒子が互にくっついて集合的なものとなり, 土壌の保水性は単体粒子系としてよりも集合体粒子系としての性質を示すことになる.このために集合体粒子が土壌に占める割合が多くなると (乾燥が次第に進んでいくと考えられる) , 集合体粒子は水分を保持する比表面積が単体粒子よりも小さいことから, 土壌全体の保水性は低下していく.そして, 一度このような土壌体になったものにふたたび水を加えても, この低下した比表面積分は保水性には影響を与えず, 全体として保水性が低下した状態のままで存在することになる.しかしながら, これらの集合体に超音波をあてて集合体を構成している粒子を単体粒子系にしてその保水性をみると, それは生土粒子のそれとほとんど同じ特性をもっている.このように, ある範囲までの乾燥程度では土壌粒子そのものの保水性に変化はないが, 構造的なものによる保水性の変化を示す.しかし, いったん風乾状態をへると保水性に関して土壌粒子はもはや生土の粒子とは質的に異なるために, 土壌系全体が生土とはちがった値をとることになる.土壌と作物との関係をpF曲線からみるとき, 土壌の乾燥に関する履歴もその研究対象にする必要があることが以上のことからわかる.作物の地下環境の1つである土壌水分は圃場を形成する土壌の過去や将来うける乾燥との関連でとらえ, 作物生育に影響する有効水分量やしおれ点などの土壌水分恒数をきめて, 作物に供給する水分量を計画することが重要となる.

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