- 著者
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畑 啓生
- 出版者
- 日本生態学会
- 雑誌
- 日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
- 巻号頁・発行日
- pp.721, 2005 (Released:2005-03-17)
サンゴ礁には、なわばり性で藻食性のスズメダイによる海藻の畑、すなわち藻園が点在している。多くのスズメダイの藻園は多種の藻類が入り混じった混作であるが、クロソラスズメダイは一種の糸状紅藻ハタケイトグサ(仮称、Polysiphonia sp.)の単作藻園を例外的に持つ。クロソラスズメダイは単作藻園を維持するために、藻食者の徹底した排除に加え、単作に侵入する藻類の除藻を行なっていた。このように、クロソラスズメダイとハタケイトグサとの関係が、ヒトと栽培植物に例えられる栽培共生の関係にあることを私はこれまでの研究で明らかにしてきた。本研究では、ハタケイトグサがクロソラスズメダイの藻園外にも分布しているのか否かを明らかにすること、ハタケイトグサと他のスズメダイ類の藻園内やなわばり外に生息しているイトグサ類との系統関係を明らかにすることを目的に琉球列島石垣島と西表島周辺サンゴ礁域にて調査を行なった。 その結果、ハタケイトグサはクロソラスズメダイの藻園外では発見されなかった。クロソラスズメダイが藻園から排除されると、ウニやブダイ、ニザダイ類などの藻食者によってハタケイトグサは数日のうちに完全に食べ尽くされることや、実験ケージを用いて藻園からクロソラスズメダイと藻食者を囲い出すと、本来除藻されるべき藻類に被覆されてハタケイトグサが消失することから、ハタケイトグサはその生存を絶対的にクロソラスズメダイに依存していることが明らかとなった。さらに、ハタケイトグサを始め、スズメダイ類の藻園内外から採集したイトグサ属藻類の18SrDNAに基づく分子系統樹を作成した。この系統樹を元に、スズメダイ類とイトグサ属藻類との栽培共生の進化について議論を進めていく。