著者
津田 誠
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.5, pp.349-353, 2007 (Released:2007-05-14)
参考文献数
62

神経因性疼痛は,神経系の損傷や機能不全による難治性疼痛で,触覚刺激で激烈な痛みを誘発するアロディニア(異痛症とも呼ぶ)が特徴的である.この病的な痛みには,今現在も有効な治療法は確立されていない.近年,痛み情報の受容や伝達に関わる分子が次々と明らかにされてきている.その中の一つがATP受容体である.神経を損傷した神経因性疼痛モデルにおいて出現するアロディニアは,イオンチャネル型ATP受容体(P2X)の拮抗薬およびP2X4受容体アンチセンスオリゴの脊髄内投与で抑制される.脊髄内におけるP2X4受容体の発現は,ミクログリア細胞特異的に著しく増加する.ミクログリアにおけるP2X4受容体の過剰発現には,フィブロネクチンのβ1インテグリンを介したシグナルが関与している.P2X4受容体が刺激されたミクログリアは,脳由来栄養因子BDNFを放出する.BDNFは,脊髄後角ニューロンの陰イオンに対する逆転電位を脱分極側へ移行させ,抑制性伝達物質のGABAにより脱分極が誘発される.従来までは,神経因性疼痛の原因として,痛覚伝導系路における神経細胞での変化のみに注目が集まっていたが,以上のようにP2X4受容体の役割から得られた知見は,脊髄ミクログリアを介在するシグナリングの重要性を示し,新しい神経因性疼痛メカニズムを明らかにした.この新しいメカニズムは,難治性疼痛発症機序の解明と今後の治療薬開発に大きく貢献する可能性がある.

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