著者
津田 誠 齊藤 秀俊
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

神経障害性疼痛はモルヒネも著効しない慢性疼痛で,その慢性化機序は依然不明で特効薬もない。代表者は,同疼痛モデル動物を用いて脊髄ミクログリアが痛みの発症に重要であることを示してきた。現在,脊髄でのミクログリアは疼痛発症期に相関した即時的な活性化を示すと理解されている。本研究では,疼痛の慢性期から活性化し始める新しいタイプのミクログリア細胞群(CD11c陽性)の神経障害性疼痛における役割を解明するため,H28年度は以下の項目を検討した。項目2 CD11c陽性ミクログリア遺伝子プロファイルと獲得細胞機能の特定セルソーターで分取した脊髄CD11c陽性細胞の遺伝子発現解析の結果,細胞貪食に関与する分子の発現が増加していた。また,リアルタイムPCRでの検証においても当該分子の発現増加を確認した。さらに,磁気ビーズを用いたMACS法により神経損傷CD11c-Venusマウスの脊髄からミクログリア細胞を分取し,リアルタイム培養細胞イメージング装置でCD11c陽性細胞のイメージングを行った。項目3 CD11c陽性ミクログリアの神経障害性疼痛における役割<1> CD11c陽性ミクログリア細胞を除去する:神経障害性疼痛におけるCD11c陽性ミクログリアの役割を明らかにするために,CD11cプロモーター制御下にジフテリア毒素受容体(DTR)を発現するマウス(CD11c-DTR-EGFPマウス)を用いて検討した。神経損傷2週間後にジフテリア毒素を脊髄くも膜下腔内投与し,その2日後にCD11c陽性細胞がほぼ完全に消失した。しかし,その一週間後にCD11c陽性ミクログリア数がわずかに回復したため,ジフテリア毒素を1週間ごとに投与することで数週間にわたり同細胞を除去する至適条件を決定した。
著者
宮里 心一 深田 宰史 田中 泰司 花岡 大伸 伊藤 始 鈴木 啓悟 杉谷 真司 宇津 徳浩 井林 康 津田 誠
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.F5-0089, 2023 (Released:2023-02-20)
参考文献数
56

市町村は多くのインフラを管理しているが,そのメンテナンスに苦労している.特に北陸地方のコンクリート構造物では,塩害やASRによる劣化が生じやすく,早急な対応が望まれる.このような背景を踏まえて本稿では,地元の大学・高専教員が連携して,市町村が管理する道路橋を対象にした,メンテナンスの合理化に向けた支援について論ずる.はじめに,新潟県上越地区・富山県・石川県・福井県の41市町に対してヒアリング調査を実施し,課題とニーズを抽出した.次に,これらを改善すべく,コンクリート橋に対する点検・診断・措置の手順案を策定し,また技術展示会を開催し,さらに実橋を用いた補修効果の評価に取り掛かった.以上により,市町村の実情を起点とした,官学連携による道路橋の維持管理の合理化に向けた実績とその評価を整理した.
著者
平井 儀彦 山田 稔 津田 誠
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.436-442, 2003-12-05
参考文献数
40
被引用文献数
3

登熟期の気温の違いがポット栽培したイネ個体の暗呼吸量と穂の乾物成長に及ぼす影響を定量的に検討するため,4月,5月,6月の3時期に播種することで登熟期の気温を変え,気温の差が登熟;期の暗呼吸速度と乾物生産に及ぼす影響を調査した.出穂日は4月播種では8月4日で,5月と6月播種ではそれぞれ4月播種より14日と28日遅かった.4月播種における出穂後6日目〜19日目の平均気温は,5月と6月播種より約4℃高かった.回帰法により成長呼吸と維持呼吸を推定すると,穂の暗呼吸速度は主に穂の成長に関わっており,穂の維持呼吸は4月播種と5月播種では高く,6月播種で低かった.茎葉部の暗呼吸速度は主に穂への炭水化物の転流に関わっており,茎葉部の維持呼吸は4月播種と5月播種で高く,6月播種で低いと推定された.つまり,出穂期の違いによる平均気温の上昇は必ずしも維持呼吸を増大させないことが示唆され,維持呼吸は登熟期の気温に直接影響されるだけでなく,それまでの生育前歴によっても変わると考えられた.また,穂の乾物成長は維持呼吸の増加にともなう暗呼吸量の増大によって低下することが定量的に示された.
著者
津田 誠
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.755-759, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
22
被引用文献数
5

痛みを連想すると,恐らく多くの人はあまりいいイメージを持たないだろう.熱いものを触った時の痛み,どこかに手足をぶつけたときの痛み.一見,私たちにとって有害なものと思えるこのような痛みだが,私たちはこの感覚を経験し学習することで,痛みを伴う外傷を未然に避ける防御行動を習得することができる.このような生理的な痛みは急性疼痛と呼ばれ,私たちが安全に生きていくために必要な生体警告信号としての重要な役割を担っている.一方で,がんや糖尿病,脊髄損傷,手術の後遺症,HIV感染,多発性硬化症など多くの疾患で発症する慢性化した耐え難い痛みは,患者のQOLを極度に低下させ,疾患そのものの治療や,精神にも悪影響を及ぼしてしまう.また,四肢の切断や帯状疱疹ウイルス感染などの場合,患部の外傷は治癒したにもかかわらず,痛みだけが慢性的に残ることがある.このような疾患では,自発痛に加え,通常であれば痛みを起こすはずのない軽度な刺激,例えば衣服が肌に触れるという軽い刺激によってさえも強い痛みが出るアロディニア(異痛症)が特徴的である.すなわち,本来痛みが有する生体防御信号としての役割がこれらの疾患では完全に破綻しており,慢性化した痛みそのものが病気であるといえる.この慢性疼痛は,神経系の損傷や機能異常に起因することから「神経障害性疼痛」と総称される.全世界で数千万人が慢性疼痛で苦しんでおり,適切な痛みのコントロールが必要であるが,実際は強い鎮痛薬であるモルヒネにさえ抵抗性を示す症例が少なくなく,未だ有効な治療法も確立されていない.現在の疼痛研究における大きな課題の1つは,この神経障害性疼痛メカニズムの解明と有効な治療法の開発であり,その克服に向けて,様々な視点から研究が進められている.本稿では,まず末梢から脊髄,さらに脳へ至る痛覚伝達経路を概説し,神経の障害後に脊髄後角神経回路がどのように変化して神経障害性疼痛を引き起こすのかを,神経細胞および非神経細胞のグリア細胞に注目した最新の研究成果を交えて紹介する.
著者
津田 誠
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

正常動物の脊髄腔内ヘインターフェロンγ(IFNγ)を投与することで,脊髄ミクログリアの活性化および持続的なアロディニア(難治性疼痛様の痛み行動)が発現した.脊髄におけるIFN γ受容体(IFN γ R)の発現細胞をin situ hybridization法により検討したところ, IFN γ R mRNAはミクログリアに特異的に検出された.さらに,IFN γによるアロディニアは,ミクログリアの活性化を抑制するミノサイクリンによりほぼ完全に抑制された.したがって,IFN γはミクログリアに発現するIFN γ Rを刺激して,ミクログリアを活性化し,持続的なアロディニアを誘導することが示唆された.そこで,実際の難治性疼痛モデル(Chungモデル)におけるIFNγの役割を, IFN γ R欠損マウス(IFN γ R-KO)を用いて検討した.野生型マウスでは神経損傷後にアロディニアの発症およびミクログリア活性化が認められたが,IFNγR-KOでは両者とも著明に抑制されていた.以上の結果は,IFN γが難治性疼痛時におけるミクログリアの活性化因子として重要な役割を果たしている可能性を示唆している.P2×4受容体発現増加因子としてfibronectin(FN)を同定した.本年度は, FNによるP2×4発現増加分子メカニズムを明らかにすべく,Srcファミリーキナーゼ(SFK)に注目した.ミクログリア培養細胞において,Lynキナーゼが主なSFK分子であること,さらに脊髄における発現細胞もミクログリアに特異的であることを明らかにした.さらに,Chungモデルの脊髄では, Lynの発現がミクログリア特異的に増加した.Lynの役割を検討するため, Lyn欠損マウス(Lyn-KO)を用いた.野生型マウスでは神経損傷後にアロディニアの発症およびP2×4の発現増加が認められたがLyn-KOでは両者とも有意に抑制されていた.さらに,Lyn-KOミクログリア培養細胞では, FNによるP2×4発現増加が完全に抑制されていた.以上の結果から,Lynは難治性疼痛時のP2×4発現増加に必須な細胞内シグナル分子であることが示唆された.
著者
井上 和秀 齊藤 秀俊 津田 誠 増田 隆博
出版者
九州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

ミクログリア特異的IRF8欠損マウスでは、社会的認識能が選択的に低下していることが認められた。また、正常では脳内の定位置で細胞突起を動かしているミクログリアが、IRF8欠損マウスでは細胞体ごと脳内を移動していることを見出した。また、時期特異的・ミクログリア特異的IRF8欠損マウスでも、同様の突起形成異常と形態変化が再現されることを見出し、IRF8がミクログリアの形態の維持に関与する転写因子であることを明らかにした。ミクログリアの形態・機能異常が脳の回路形成に影響を及ぼして高次機能の発現に混乱をもたらし、ミクログリアの正常な活動が脳の回路形成や高次機能の維持にも寄与すると考えられた。
著者
津田 誠
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.5, pp.349-353, 2007 (Released:2007-05-14)
参考文献数
62

神経因性疼痛は,神経系の損傷や機能不全による難治性疼痛で,触覚刺激で激烈な痛みを誘発するアロディニア(異痛症とも呼ぶ)が特徴的である.この病的な痛みには,今現在も有効な治療法は確立されていない.近年,痛み情報の受容や伝達に関わる分子が次々と明らかにされてきている.その中の一つがATP受容体である.神経を損傷した神経因性疼痛モデルにおいて出現するアロディニアは,イオンチャネル型ATP受容体(P2X)の拮抗薬およびP2X4受容体アンチセンスオリゴの脊髄内投与で抑制される.脊髄内におけるP2X4受容体の発現は,ミクログリア細胞特異的に著しく増加する.ミクログリアにおけるP2X4受容体の過剰発現には,フィブロネクチンのβ1インテグリンを介したシグナルが関与している.P2X4受容体が刺激されたミクログリアは,脳由来栄養因子BDNFを放出する.BDNFは,脊髄後角ニューロンの陰イオンに対する逆転電位を脱分極側へ移行させ,抑制性伝達物質のGABAにより脱分極が誘発される.従来までは,神経因性疼痛の原因として,痛覚伝導系路における神経細胞での変化のみに注目が集まっていたが,以上のようにP2X4受容体の役割から得られた知見は,脊髄ミクログリアを介在するシグナリングの重要性を示し,新しい神経因性疼痛メカニズムを明らかにした.この新しいメカニズムは,難治性疼痛発症機序の解明と今後の治療薬開発に大きく貢献する可能性がある.
著者
哈 布日 津田 誠 平井 儀彦
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.32-38, 2014 (Released:2014-01-27)
参考文献数
22
被引用文献数
1

塩ストレスと同時に水ストレスが作物生産を低下させることが増えると指摘されているので,塩濃度と量が異なる土壌においてイネの水利用と乾物生産および根成長の関係を明らかにした.容量の異なるポットに1~10 kgの土壌を入れ,各土壌1 kgあたり1gと2 gの塩化ナトリウム (NaCl) を入れた溶液を土壌重の50%加える2区およびNaClを加えない区を設けた.耐塩性品種IR4595-4-1-13と普通品種日本晴を移植して,その後給水しなかった.葉身の伸長停止で成長が止まったものとし,その日のイネの乾物重とNa+含有率および土壌残存水分量を測定した.地上部と根の乾物重は土壌の量が多いほど大きく,土壌NaCl濃度が増えるほど低下した.地上部乾物重は,地上部Na+含有率の増加にしたがい低下した.土壌残存水分量は土壌の量とNaCl濃度が高いほど多かったため,蒸発散量は土壌NaCl添加によって低下した.そして地上部乾物重は蒸発散量に比例的に大となった.土壌残存水分含有率はNaCl無添加土壌では根が十分に成長して低い値であったが,塩濃度が高く量が多い土壌では根の成長が小さく土壌残存水分含有率は高かった.以上から塩土壌においてもイネの乾物生産は蒸発散量に比例的に大となると同時に蒸発散量の低下はイネ根の成長阻害によって利用できる土壌水分量が減少するためであると考えられた.

1 0 0 0 OA ATPと痛み

著者
津田 誠 小泉 修一 井上 和秀
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.116, no.6, pp.343-350, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
50

ATP受容体が痛みの発生と伝達にどのように関与しているかについてその可能性も含めてまとめた.イオンチャネル型ATP受容体のなかでも,P2X3はカプサイシン感受性の小型脊髄後根神経節(DRG)神経細胞に局在し,急速な不活性化を伴う内向電流の発現に寄与し,末梢側ではブラジキニンに匹敵するような痛みを引き起こす.さらに, nocifbnsive behavior および themlal hyperalgesia 発現に関与している事が推測される.脊髄後角ではP2X3はDRG中枢端からのグルタミン酸放出を促進することにより痛み伝達を増強するようである.一方,P2X2とP2X3のヘテロマー受容体は,カプサイシン非感受性のやや中型DRG神経細胞に局在し,比較的緩徐な不活性化を伴う内向電流の発現に寄与する.行動薬理学的にはこのヘテロマー受容体は mechanical allodynia の発現に関与していることが推測されている.なおGタンパク共役型ATP受容体は,痛みとの直接の関与については未だ証明されていないが,それを示唆する状況証拠はかなり蓄積されており,特に病態時の関わりについて今後の研究が待たれる.
著者
津田 誠
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

イネにおける白穂発生は,非生物的ストレスによる減収要因である.白穂発生程度の違いを明らかにするために,新しい遠赤外線乾燥法を用いて穂に含まれる水分の構成を調べた.穂の水分には蒸発しやすい部分(成分1),やや蒸発しやすい部分(成分2)があった.成分2は生育と気象変化に対して安定していたが,成分1は不安定であった.二つの成分が占める割合は品種で異なり,成分1が多い品種ほど塩害による白穂発生が大きい傾向があった.