著者
大内 香
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.136, no.4, pp.210-214, 2010 (Released:2010-10-08)
参考文献数
34
被引用文献数
1

抗体は,キメラ化,ヒト化,および生産効率向上など多くの技術的革新を経て,臨床応用されるようになってきた.本稿では,固形癌の治療においてパラダイムシフトをもたらした抗体医薬トラスツズマブを例に抗体医薬の課題と今後の展望について述べる.HER2を標的としたヒト化モノクローナル抗体であるトラスツズマブは,固形がんに対して最初に効果が確認された抗体医薬であり,固形がん治療薬という抗体医薬の新たな有用性を示した抗体である.HER2は上皮増殖因子受容体ファミリーの一つであり,転移性乳癌では約25~30%の患者さんで過剰発現が認められる.HER2の過剰発現はがん細胞の増殖を促進し,HER2過剰発現腫瘍は予後不良であることが知られている.トラスツズマブはHER2に特異的に結合し,抗体依存性細胞障害(ADCC)誘導やHER2からのシグナル伝達阻害を介して抗がん効果を発揮する.トラスツズマブはHER2分子を過剰発現した腫瘍に対して高い効果を示すことから,HER2過剰発現の乳癌患者を特定したうえで治療が行われる.すなわち,トラスツズマブによる乳癌治療はHER2発現の診断に基づく個別医療の概念が,実際に治療に取り入れられた例でもある.トラスツズマブは,転移性乳癌および術後乳癌に用いられているが,昨年臨床胃癌での有用性も示された.トラスツズマブ耐性の機序としてはADCC活性の低下やHER2以外の増殖シグナル伝達の増加が考えられている.今後の抗体薬の展望として,改変形IgG1による物性,動態や活性の向上,IgG1以外の分子形,低分子抗体,New scaffold proteinなどの抗体様分子の開発が進められている.新規技術と,新規標的分子の同定,病態の解明およびバイオマーカーの同定によって,抗体医薬がこれまで以上に多種多様な形態,疾患で治療に応用されていくことが期待される.

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