- 著者
-
前嶋 康浩
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.151, no.3, pp.100-105, 2018 (Released:2018-03-10)
- 参考文献数
- 10
- 被引用文献数
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心機能の維持にはオートファジーが最適なレベルに保たれていることが欠かせないが,その詳しい分子機序についてはいまだ解明されていない.私たちは,アポトーシスを誘導するキナーゼであるMst1にはオートファジーを阻害してタンパク質の品質管理システム機構を負に制御する機能があることを発見した.ストレスにより活性化されたMst1は心筋細胞においてオートファゴソームの形成を抑制し,p62の集積とアグリソームの蓄積を促進することや,Mst1はBeclin1のBH3ドメインにあるThr108をリン酸化し,Beclin1とBcl-2またはBcl-xLとの結合を強化してBeclin1のホモ二量体を安定化させることを見出した.その結果,Vps34複合体IのPI3キナーゼ活性が抑制され,オートファゴソームの形成が阻害されることを見いだした.実際に,心筋梗塞モデルマウスや拡張型心筋症患者における不全心筋において,心筋内のMst1活性が上昇してオートファジーを抑制し,心筋障害を惹起していることを示唆する所見が観察された.この他にもオートファジーが心保護効果を発揮する分子機序が次々と明らかになってきており,オートファジーによる心保護作用を活性化させる戦略は心不全に対する新規の薬理学的な治療標的として有望であると考えられる.