著者
本田 由紀
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.31-39, 2017-05-25 (Released:2017-06-13)
参考文献数
17

日本の少子高齢化は世界的に見ても突出した速さで進行している。日本がこのように特異なほど急速に少子高齢化を遂げている原因は,戦後の1960年代を中心とする高度経済成長期に形成され,その後の1970年代から80年代にかけて社会に普及と深化を遂げた,「戦後日本型循環モデル」の特徴と,それが90年代以降に崩壊を遂げたことに求められる。「戦後日本型循環モデル」は,仕事・家族・教育という3つの社会領域が,互いに資源を一方向的に流し込み合う循環構造を形成していたことを特徴とする。経済成長を前提とし,仕事からは家族に賃金が流れ込み,家族からは教育に対して費用と意欲が流れ込み,教育からは仕事に対して新規労働力が流れ込むという循環である。しかし,バブル経済の崩壊をきっかけとして,1990年代以降に雇用や賃金が不安定化したことにより,この循環モデルは崩壊を迎えた。それに直面していた団塊ジュニア世代が,結婚や出産など家族形成に困難を抱えていたことが,少子化をもたらした。今後は,少子高齢化した社会を維持してゆく上でも,少子高齢化を可能な限り食い止めるためにも,仕事・家族・教育の間に,互いに双方向的に支え合う関係性を作り出してゆくことが求められる。家族成員,特に女性が育児と仕事を両立できるようにするためには,一定範囲の労働時間や職務で安定的な働き方の増大,育児や介護といったケア役割を担う社会機関の拡充,家族の教育費負担の軽減などが不可欠である。

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