著者
山本 隆一
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.85-93, 2016-04-30 (Released:2016-05-13)
参考文献数
7

我が国は医療の情報化自体は先進的であったし,現在でも情報システムの導入率という観点では世界の最高水準にある。しかし,情報化の目的は,事務処理の合理化が主体であり,情報を公益目的に利用する二次利用の面においては遅れていたと言わざるを得ない。しかし最近になって,我が国にも大規模な医療情報データベースが構築されるようになったが,それに伴い,公益利用とプライバシー保護の対立的な問題が顕在化してきた。例えば高齢者の医療確保に関する法律に基づいて作成されたレセプトおよび特定健診・保健指導のデータベースは一般的な公益利用に関して根拠法には記載がないために,利用に際して厳格な匿名化が求められ,安全管理に関する要求も厳しく,公益研究にとって使いやすいデータベースとは言えない。一般に,公益目的の研究を行う研究者がプライバシーの侵害を意図的に行う可能性はないと考えられるが,法的な要求自体が曖昧であるために,研究が促進されない可能性もある。医学は診療情報の公益利用なしには発展はあり得ないので,明確で研究者にとっても患者にとってもわかりやすい法制度の整備が強く望まれる。改正個人情報保護法が2015年9月に成立したが,政令や指針の整備は2017年と思われる法の実施までに議論される。医療に関するデータベース研究者はこれの議論を注視すべきであるし,必要な場合は適切な提言を行うべきと考えられる。
著者
佐藤 元
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.2_63-2_78, 2005 (Released:2010-02-02)
参考文献数
77

公衆衛生政策は私的権利の制限(私権制限)を伴うことが多い。私権に関わる例としては,公衆衛生情報と個人のプライバシー,コミュニケーション政策と表現の自由,検疫・隔離や強制的入院と個人の自律や自由,安全衛生基準と経済活動の自由などの間に見られる対立が挙げられる。国家・自治体は公共の福祉のために私権を正当に制限し得るとされるが,公衆衛生領域における政府の責務と権限が拡大する中,人権保護に関する議論を整理し制度を整えることは重要な課題である。本稿は,現代の米国における議論を総括紹介し,今後の議論に資すことを目的とした。公衆衛生政策を人権保護の観点から検討する際には,正当性,合理性,経済的負担と効率,私権制限の程度,公平性,政策相互の整合性が系統的に評価されることが望ましい。また,こうした評価を制度化し実効性のあるものとするためには,正当な法的手続きと政治過程の透明性確保が重要と考えられる。前者は,実質的正当性と形式的正当性の両者からなる。
著者
福田 吉治
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.31-39, 2012 (Released:2012-04-28)
参考文献数
35

【目的】 所得,学歴,職業等の社会経済的要因に伴う健康水準の違い,すなわち健康格差が注目されている。本研究は,主要な生活習慣病および健康関連生活習慣と所得との関係について,一般住民の意識ならびに実態を調べることを目的とした。【方法】 一般住民の意識調査として,山口県の4つの自治体から無作為に抽出した30~59歳の男女650名を対象に,裕福な人がそうでない人に比較して健康問題になりやすいかどうかについて自記式郵送調査を行った。実態調査として,国民生活基礎調査(平成19年)を用い,所得と健康問題との関連をRelative Index of Inequality(RII)を指標に分析した。【結果】 一般住民の意識調査では,650名のうち363名より回答があり(回答率55.8%),うつ病を除く全ての疾病(糖尿病,高血圧,脳卒中など)で裕福な人ほどなりやすいと回答した者の割合が高かった。喫煙や過剰飲酒は,裕福な人ほど少ないと回答した者の割合が高かった。実態調査では,脳卒中,心臓病,うつ病,喫煙で,所得が高い人ほどその割合が有意に低かった。【考察】 本研究から,生活習慣病やそのリスクとなる不健康な生活習慣は総じて所得の低い者に現れやすいが,一般住民には逆の意識があることがわかった。健康格差についての認識,すなわち,社会経済的に不利な状況は生活習慣病のリスクを高めることの認識を高めることが,それらのリスクを低下させることに繋がると考えられる。
著者
岡部 信彦
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.33-40, 2011 (Released:2011-05-17)
参考文献数
7
被引用文献数
1 or 0

予防接種は,生体を感染から守るもっとも重要な医学的予防法である。抗菌薬さらには抗ウイルス薬が使用できるようになった現代においても,その重要性は変わらない。予防接種は,個人の健康を守ることがもっとも重要な目的であるが,個人というよりは次世代の健康をも守ろうとするものもある。あるいは広く集団に免疫(herd immunity)を与え感染症の伝播を制限し,ある疾患が社会全体に広がることを防ぎ,さらにはやがてその病気を人類から追放しようとするものもある。天然痘の根絶達成,ポリオの根絶計画(polio eradication)・麻疹排除計画(measles elimination)に,ワクチンは欠かせない手段である。予防接種は多くの場合は健康な人に対する医療行為であるため,確実に安全であることが求められる。しかし生体に異物を投与する以上,正常な生体反応を超えた,予期せぬ,あるいは極めて稀であると考えられる異常反応が出現し,重大な健康被害が生じることが残念ながら皆無とは言えない。予防接種を行おうとする時には,そのメリットとデメリットについて適切に判断していくことが必要である。大多数が助かるのであればごく少数の被害は止むなし,とする考え方も極端である一方,少数といえども健康被害が発生する可能性がある以上ワクチンは危険・不要である,という意見もまた極端である。予防接種にあたっては,常に適切なバランス感覚を持つ必要がある。
著者
阿部 彩
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.255-269, 2012 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22

本稿は,厚生労働省「21世紀出生児縦断調査」を用いて,子どもの健康格差をアメリカ,カナダ,イギリスの先行研究を比較対象として分析した。この結果,まず,日本においても,社会経済階層,特に貧困層と非貧困層の間において,子どもの健康格差が存在することが確認された。これは,入院,ぜんそくの通院などのデータによって確かめることができる。子どもの健康格差が所得水準のどの層によっても現れる線形のものであるのか,または,ある一定の水準以下で顕著に表れるという貧困研究の知見に近いものなのかについて,本稿からは両方を支持する結果が出ており,統一的な結論は出ていない。次に,子どもの健康格差を生じさせるメカニズムとして考えられる二つのメカニズム,過去の健康悪化のエピソード(「健康ショック」)の頻度の違いと,それからの回復力がSES によって異なるかを検証した。「健康ショック」の頻度については,入院,ぜんそくを取れば,低所得層の子どもの方が高所得層の子どもに比べて統計的に有意に多い割合で入院,通院している。特に所得五分位の第1分位(最低層)において他の分位に比べて高い割合の罹患率となっている。後者のメカニズムについては,現在の健康状況を表す変数として入院,「健康ショック」を過去の入院とした分析の結果,「健康ショック」からの回復力はSESの高い層ほど高いことが確認できた。
著者
木村 和子 奥村 順子 本間 隆之 大澤 隆志 荒木 理沙 谷本 剛
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.459-472, 2008 (Released:2010-05-26)
参考文献数
19
被引用文献数
2 or 0

目的:インターネット上の輸入代行業者を介して個人輸入した医薬品の保健衛生上の問題を明らかにする。方法:輸入代行業者のウェブサイトで頻出する未承認医薬品を個人輸入し,製品外観,真正性,合法性,有効成分含量,サイト,取引実態を調査・分析した。結果:PROZAC®とその後発品,POSTINOR®並びにNootropil®/Nootropyl®とその後発品計166サンプルを入手した。同じ商品名でも製造販売国,包装単位,製剤,流通経路は多様であった。「PROZAC」4サンプルが無許可製造品,Piracetam1サンプルが製造販売国で不許可品だった。含有量は表示量の85-118%。製造販売国で処方せん医薬品であっても,処方せん要求はなかった。添付文書は主に先発品119サンプル(72%)に同封され,英語,フランス語,スペイン語,中国語,タイ語だった。先発品の33%に記載者不明の日本語説明書があった。サイトには未承認薬の商品名や効能効果が記載され,国内発送もあり触法性が疑われた。代行業者によって価格に10倍開きがあり,配送に10日以上かかるものや不着もあった。考察:未承認薬は日本人の使用について未評価の上,処方せん薬を素人判断で使用するのは危険を伴う。流通は不透明で無許可製造品,不許可品も混在した。医薬品の発送者の国際的監視が必要である。消費者は安全性の観点から個人輸入を差控えるべきである。
著者
周 燕飛
出版者
The Health Care Science Institute
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.151-168, 2009

本研究は,介護施設における介護職員不足が発生する要因として,これまであまり触れられてこなかった4つの仮説を検証した。具体的には,(1)介護施設が地域的に買手独占状態にある可能性(地域的買手独占仮説),(2)淘汰されるべき不採算事業所が市場に残存している可能性(不採算事業所残存仮説),(3)労働市場における求人増と市場賃金の上昇によるマクロ経済的ショックによる可能性(外部市場ショック仮説),及び(4)介護報酬の引き下げによる政策ショックの可能性(政策ショック仮説)である。<br> 分析の結果,「地域的買手独占仮説」,「外部市場ショック仮説」および「政策ショック仮説」が支持されたが,「不採算事業所残存仮説」は支持されないことが分かった。また,支持された上記3つの仮説は,とりわけ,正社員の介護職員不足に強い説明力を持つことがわかった。したがって,規制緩和による不完全労働市場の改善,労働需給がひっ迫する地域における介護報酬の加算,実験的方法による介護報酬の適正水準の算出などが,今後の介護職員不足の解消に有効な方策として提案できる。
著者
田村 誠
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.73-88, 1999

米国で急成長を続けるマネージドケアは,従来,民間における医療保障の領域において主に普及してきた。しかし,昨今,メディケアやメディケイドといった公的医療保障の分野でも積極的にマネージドケアの仕組みが取り入れられてきている。確固たる公的医療保障を有するわが国には,公的医療保障分野におけるマネージドケアの仕組みや課題を知ることは有意義であると考える。<BR>本論文では,まず,公的医療保障分野におけるマネージドケアの仕組みと課題を整理した。実際に取り上げたものは,メディケアにマネージドケアを導入した「メディケアHMO」,メディケイドにマネージドケアを導入した「ケースマネージメント・モデル」と「HMOモデル」である。いずれのものも,90年代に入って,急速に加入者数を増やし,課題も少なくないものの,今後も着実な成長が見込まれている。<BR>次に, 米国の公的医療保障に導入されたのと同様な方法で, わが国にもマネージドケアが導入されたと想定した場合の「効果」と「課題」について検討した。<BR>「医療費抑制効果」は, ある程度見込まれるものの, 米国ほど劇的にあるかどうかは疑問であった。「医療の質の向上」が起こるかどうかは,予測困難であった。「課題」としては, 米国の公的医療保障制度に導入された場合に生じた固有の問題と同様なものと,マネージドケア全般に共通する問題が想定された。後者の問題として論じたものは,過少医療に関わる問題と,わが国の医師患者関係との親和性の問題であった。
著者
大島 伸一
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.49-57, 2015-04-30 (Released:2015-05-12)
参考文献数
5

超高齢社会の急速な進行によって,医療需要の重心が高齢者層に大きく移動しており,医療のあり方,医療提供のあり方について,バラダイムの転換が求められている。20世紀は「治す医療」を展開し,大きな成果を得た時代であった。治すとは臓器の傷害の原因を見つけ,これを取り除くものである。60歳台までは,病気は一つの臓器に一つの傷害として現れるため,「治す医療」への要請は高かった。しかし,平均寿命が80歳を超えた21世紀では,老化という過程に生活習慣病が加わる慢性の全身疾患という病態への医療需要が最大なものとなる。高齢者では,全身との適正な均衡状態を考慮に入れずに,一臓器の傷害を治そうとすれば,全身と個別の臓器機能との調和に不都合が生じ,全身状態が悪化する。そのため高齢者の医療ではただ治すだけでなく,その人が求める生活が実現できるように自立機能を整えて支えてゆく医療が必要となる。もう一つは,病院中心の医療から地域全体で診てゆく医療へのパラダイムの転換である。日本は,これまで誕生から死までの全てを病院で行う医療の提供体制を構築し,皆保険制度で支えてきたが,その限界がはっきりと見えてきた。今後は,財源にもサービス提供にも限りがあるという理解のもとに,医療の有効,効率的な提供方法として,病院には病院にしかできない機能に特化し,医療・介護を一体的に地域全体で提供してゆく体制に変えなければならない。
著者
江原 朗
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.113-123, 2013-09-20 (Released:2013-09-27)
参考文献数
22

医師数の増加によって医師1人あたりの患者数が減少すれば,医療機関は赤字経営に転落する。このため,小規模な市町村では診療が成立しない診療科もあり,また,人口に対する医師数も診療科ごとに上限があるはずである。そこで,2000年と2010年の医師歯科医師薬剤師調査および国勢調査を用いて,各診療科の診療が成立する人口規模と診療科群ごとの医師密度(医師数/人口)について実証研究を行った。診療が成立する(50%以上が医師の従業地となる)市区町村の人口規模をもとめると,内科ではすべての人口規模,小児科,外科,整形外科,眼科では1万人以上,循環器内科,消化器内科,皮膚科,精神科,泌尿器科,脳神経外科,耳鼻いんこう科,産婦人科では3万人以上,神経内科,放射線科,消化器外科,麻酔科では5万人以上,呼吸器内科,糖尿病内科,リハビリテーション科では7万人以上,腎臓内科,心療内科,呼吸器外科,心臓血管外科,形成外科,婦人科では10万人以上,血液内科,リウマチ科,乳腺外科,肛門外科では20万人以上,美容外科,小児外科,産科では30万人以上,アレルギー科では50万人以上であった。また,診療が成立する人口規模では診療科ごとの医師密度はほぼ一定であり,多くは総計値の±30%以内であった。
著者
高橋 慶 池田 真也 馬奈木 俊介
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
(Released:2017-11-20)
参考文献数
25

地域経済の持続可能性の確保は重要な課題である。持続可能性の定量的な評価方法として有効なものに,将来世代の福祉を現在の資本ストックの価値に換算するキャピタル・アプローチがある。それに基づいた経済指標である,新国富指標(Inclusive Wealth Index,IWI)を用いれば,その増加から持続可能性を判別できる。日本において,IWIの成長を妨げる一つの要因が健康資本の減少である。ところが,健康資本には長命の価値のみが考慮されており,影響が大きいはずの疾病による損失が考慮されていない現状にあった。
著者
中村 健太
出版者
The Health Care Science Institute
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.19-37, 2007

医薬・バイオ分野では,大学や公的研究機関の役割が重要である。本稿前半では,TLO法や日本版バイ・ドール法など公的部門に対して導入されたプロパテント政策が,バイオ特許の価値に如何なる影響を与えたかを検討し,特許を介した産学間技術移転の可能性を探った。分析によれば,これらの政策は,大学研究者が自らを出願人として「重要な」研究成果を特許化するように促してはいない。一方,公的研究機関が出願人である特許については,政策導入以降,その価値を高めつつあることが確認できた。すなわち,公的部門を対象としたプロパテント政策は,公的研究機関の研究者と大学に属する研究者の出願性向に対して,異なる影響を与えていると示唆される。後半では,産学連携が活発に行われている米国の事例を対象として,研究提携契約の特徴を検討した。大学から企業へは排他的ライセンス,或いは,排他的ライセンスを前提としたオプションが企業へ与えられることが多い。研究契約には,権利の帰属や特許化の決定主体,特許の維持管理費用の負担など様々な契約項目が存在する。通常,企業・大学共に個々の事項について,最大限の権利獲得を目指すため,両者の利害は一致せず,機会主義的行動も起こりかねない。しかし,成果の排他的ライセンスを所与とすることで,両者は利害の一致を見るため,個別の契約事項に関する交渉は容易であり,研究提携全体としての取引費用は節約される可能性がある。ただし,リサーチツール問題などで象徴的に語られるように,こうした契約形態による技術移転が常に社会的に望ましい効果を持つとは限らない点は十分に留意する必要がある。
著者
大久保 豪 宮田 裕章 友滝 愛 岩中 督
出版者
The Health Care Science Institute
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.435-450, 2012

目的:近年,医療水準の評価を目的として,現実に行われた医療に関するデータを収集し,実証的な分析を行う,大規模臨床データベースが構築されるようになっている。本研究の目的は医療水準の評価を目的とした臨床データベースの正当性を明らかにすることである。<br>方法:BeauchampとChildressの生命倫理の4原則(自律尊重原則,無危害原則,仁恵原則,正義原則)に基づいて,臨床データベースの正当性を分析した。分析にあたっては,既存の資料や現在実施されている臨床データベースに関する資料を参考にした。<br>結果:自律尊重原則に基づく方法として≪データ登録に関する患者意思の尊重≫と≪登録目的,登録情報の開示≫が挙げられた。仁恵原則に基づく方法として≪登録情報の漏洩予防≫と≪登録される情報の匿名化≫が挙げられた。正義原則に基づく方法として,≪参加に係わるコストの削減≫,≪参加条件の設定≫,≪データ利用の受付条件の設定≫,≪データ分析結果の公表内容の吟味≫,≪データ分析の限界に対する配慮≫,≪データ分析結果の公表対象の吟味≫,≪資金提供元の明示≫といった方法が重要であると考えられた。一方で,臨床データベースは現実に行われた医療をそのまま記録するものであり,無危害原則に基づいて正当性を高める必要性は低いと考えられた。<br>結論:臨床データベースの構築,運営にあたっては,正確性,有用性,実現可能性を鑑みながら,本研究で明らかになった方法によって正当性を高めていくことが求められる。正当性の確保に当たっては,継続的な検証が重要である。
著者
市原 美穂
出版者
The Health Care Science Institute
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.97-109, 2015

「どこで」「どのように」「誰に看取ってもらいたいですか」この3つの問いかけを,地域への出前講座で必ず尋ねる。8割の方が「それはやはり自宅でしょう。家族に看取ってもらいたいけど,そうはいってもそれは無理でしょう」と答える。日本の年間死亡者数は団塊世代が75歳になる2025年には今より約40万人増え160万になると推計されている。医学の進歩によってもたらされた長寿社会は,何らかの支援を受けて生活をしながら看取りに至る期間が長くなっている。その上,社会構造の変化で,地域力は薄れ,家族の介護力は年々弱くなっている。その長期のケアの期間を,誰が,どこで,どのように担うのかが大きな課題となっている。<br>一人で自立して暮らせなくなった時,住宅環境が連続している場所に住み替えて,5人くらいの人がともに暮らす「かあさんの家」は,この課題を解決するために,2006年に開設した。医療や介護のサービスは外づけで利用し,多職種がチームを組んで個別ケアにあたる。公的サービスを補完する形でインフォーマルサポートで,365日24時間の生活支援を行う。宮崎の地域の人的資源をネットワークして,住民も巻き込んでの地域包括ケアである。最後までその人が生きてきた場所で,馴染の人たちに囲まれて時を過ごし,その家族が悔いのない看取りができるように,寄り添いながら補完する。ホームホスピスの実践は,看取りの文化を地域や家族に取り戻すムーブメントとなっている。
著者
玉井 真理子
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.99-105, 1999-03-30 (Released:2012-11-27)
参考文献数
12

新生児医療をめぐる倫理的問題に関して,「親による治療拒否」と「選択的治療停止」に焦点をあてて論じた。新生児と家族との関係には,1)お互いに家族としての歴史のない,2)患者本人である新生児の意思を確認するすべがまったくない,3)問題になる疾患に対するイメージを持ちにくい,4)子どもの人権全体を守る法的仕組みが貧困である,などの独自性がある。「親による治療拒否」に関しては,アメリカでは,ベビー・ドゥ事件(1982年)ののち児童虐待防止法が改正され,医療上の放任についての例外規定も設けられたが,日本での議論は進んでいない。「選択的治療停止」に関しては,親が罪の意識を抱かないように医療側が決めてしまうというパターナリズムが日本にはあるが,親か医療者かどちらが決めるのがいいのかということより,情報を共有し一緒に決めるプロセスが重要である。また,親が納得のいく意思決定をすることができるように,心理士などが関与することが望ましいと思われる。
著者
辻 哲夫
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.125-139, 2015-04-30 (Released:2015-05-12)
参考文献数
3
被引用文献数
1 or 0

日本においては世界に例のない高齢化が進んでいる。とりわけ,団塊の世代が後期高齢者(75歳以上の者)になる2025年を一つの目安として社会の常識やシステムの変容が迫られている。具体的には,誰もができる限り自立を維持する予防政策の展開が今後の王道である一方,誰もが人の世話になるような虚弱な期間を経て死に至るのも普通となった中で,地域でその人らしく生活し続け,生きていてよかったと言えるような生活の質を確保することが,大きな課題である。それを実現しようとするのが,地域包括ケアシステムであり,本稿では,地域包括ケアの理念と意義を確認したうえで,その具現化を目指す実践モデルとしての柏プロジェクトの構造と手法を紹介する。そのポイントは,在宅医療を含む多職種連携の推進と24時間対応の在宅医療・看護・介護サービスを併設した拠点型のサービス付き高齢者向け住宅の整備である。併せて,医療介護の総合的な確保に関する今回の制度改正を実施していく上で大きなカギとなる在宅医療・介護の連携を推進する事業の具体的な進め方について,柏プロジェクトの実践を念頭に置きながら説明し,終わりに,我々のライフスタイルと意識も超高齢社会にふさわしいものとなるよう変革することが求められていることを訴えている。