- 著者
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中嶋 紀覚
八代田 真人
- 出版者
- Japanese Society for Animal Behaviour and Management
- 雑誌
- 動物の行動と管理学会誌 (ISSN:24350397)
- 巻号頁・発行日
- vol.55, no.4, pp.143-153, 2019-12-25 (Released:2020-01-28)
- 参考文献数
- 77
放牧は行動学的見地及び動物の臨床症状の観点からアニマルウェルフェア上有用と考えられているものの、健康に対する効果の検証例は少なく、特に放牧の生理学的及び免疫学的効果は明らかになっていない。本稿の目的は、近年の知見を元に生理学的、免疫学的、栄養学的観点から放牧の影響を評価し、その影響度をどのように評価するべきか明らかにすることである。栄養面では、タンパク質とエネルギーの摂取アンバランスやエネルギー不足が放牧によってしばしば引き起こされ、家畜のホルモン生産、繁殖、免疫を害することが報告されている。また、放牧は免疫関連細胞の動態に変化を与えることが示されているものの、免疫機能への効果は明らかになっていない。一方で、多様な植生を持つ草地に放牧することはミネラル摂取バランスの改善に有効であることや林内放牧が酸化ストレスの軽減に有効であることが報告されており、放牧方法とこれら項目との関連性が示されつつある。しかしながら、これらの効果は放牧条件に依存しているため、放牧に関わる条件を考慮した上で生理・免疫・栄養学といった多面的指標を用いて放牧の効果を評価していくことが今後必要不可欠である。