著者
平野 実 小池 祐一 広瀬 幸矢 森尾 倫弘
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.76, no.11, pp.1341-1973_2, 1973-11-20 (Released:2008-12-16)
参考文献数
11
被引用文献数
16 5

研究目的:声帯は発声中,極めて高頻度の激しい運動を行う振動体である.このような声帯の構造を主として組織学的レベルで検討し,振動体としてみた声帯の特長的構造を解明することを目的とする.研究方法:1) 正常人声帯10例について,パラフィン包埋切片標本を作製し,各種染色を施して,声帯膜様部中央の構造を組織学的に検討した.特に声帯遊離縁部における粘膜固有層の構造に主眼をおき,弾力線維,膠原線維の分布上の差を検索した.2) 人摘出新鮮喉頭3例を用いてVan den Berg類似の装置を使用して吹実験を行い,声帯の振動状態をストロボスコープで観察,写真に記録した.その後同一喉頭の組織標本を作製して,ストロボ所見と組織像との対比を行い,振動部位の検討を行つた.研究結果:1) 人声帯は組織学的に粘膜上皮,粘膜固有層,声帯筋の3部分から構成される.声帯遊離縁部では上皮は重層扁平上皮から成り,この部の粘膜固有層は,弾力線維および膠原線維の分布の差によつて,浅層,中間層,深層に区別される.上皮直下の浅層は組織そのものが疎であり,中間層は弾力線維が主,深層は膠原線維が主でともに密な組織より成る.各層ともそれぞれの中では,ほぼ均質の構造をなす.固有層浅層と中間層との結合は疎で明確であるが,固有層中間層と深層,固有層深層と声帯筋との結合部は密で互いに入り組んでいる.弾力線維,膠原線維はともに声帯の長軸に対して平行に走る.また,この領域には大きな血管や喉頭腺などの存在を認めない.2) 摘出喉頭による吹鳴モデル実験で,ストロボ所見と組織像とを対比してみると,粘膜表面にみられる波動は重層扁平上皮領域内のみに生じる.従つて,振動に最も強く関与する部位は声帯粘膜固有層の中でも,弾力線維の最も密な,いわゆるLig. vocaleのある部位に相当することになる.まはストロボで観察される最大開大位の場合の粘膜側方移動距離は代表的1例では0.8mmであり,組織像での計測で上皮より声帯筋迄の距離1.5mmより小さい.3) 以上の2つの研究結果から,声帯の振動に関与する重層扁平上皮領域は組織学的には4層に分けられ,発声時にはこれら全体が一様に動くとは考えにくい.声帯を振動体として物理的にモデル化して考えると,声帯筋を主体とするボディーと上皮および固有層浅層からなるカパーの二重構造が想定され,固有層中間層および深層は両者の移行部と考えてよい.喉頭調節や呼気圧の状態によつては,移行部やボディー迄波動が及びこともあると考えられる.しかし,概て粘膜波動の主役は粘膜固有層浅層であろう.

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