- 著者
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青木 光広
- 出版者
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
- 雑誌
- 日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
- 巻号頁・発行日
- vol.119, no.9, pp.1194-1200, 2016-09-20 (Released:2016-10-07)
- 参考文献数
- 29
- 被引用文献数
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急性めまいに対するプライマリーケアとして大切なことは患者の訴える症状の鎮静化とともに, 危険な原因が潜んでいないかを鑑別することである. そのためには専門的な知識に基づく理論的な診療が鍵となる. まず, 症状が強い場合は補液, 制吐剤, 抗不安薬で症状の鎮静化を行う. 急性めまい例では詳細な病歴を聴取することは困難なことが多いが, 少なくとも心血管疾患や中枢疾患の既往は聴取する. 名前を言ってもらうことに加えて, パ行 (口唇音), ガ行 (口蓋音), タ行 (舌音) の発音による構音障害やバレー徴候による上肢麻痺の有無をみる. 聴覚の左右差, 顔面温痛覚の左右差, ホルネル徴候, カーテン徴候の有無など平易な診察で脳幹障害のスクリーニングが可能である. 麻痺がなければ, 鼻指鼻試験や回内回外試験で小脳上部障害を観察する. 起立可能な場合, Lateropulsion は脳幹・小脳障害を示唆する所見となる. 開眼が可能なら, 注視眼振検査, 異常眼球運動, 自発眼振の有無を検査する. 垂直方向への注視障害や眼振は高位中枢障害を疑う所見となる. また, 最も発症頻度が高いとされる良性発作性頭位めまい症 (Benign Paroxysmal Positional Vertigo: BPPV) の鑑別診断として, Dix-Hallpike 法は必須である. 検査陽性時の診断率が高いことから, BPPV を疑う病歴がなくても可能な範囲で行うべきである. しかし, ルーチンに診察しても, 前下小脳動脈領域の限定的な梗塞のように末梢性めまいとの鑑別が極めて難しい場合もある. そのため, 中枢性が完全に否定できない場合は脳幹・小脳症状の発現がないか経過観察していくことが重要である. 急性めまいに対するプライマリーケアとして, ルーチンワークを確実に行うことで危険なめまいをスクリーニングすることは可能である. また, 中枢性を疑う所見を認めた場合は必要に応じて速やかに他科あるいは他病院へ紹介できる対応が必要である.