- 著者
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小林 伸行
高野 正博
- 出版者
- 一般社団法人 日本心身医学会
- 雑誌
- 心身医学 (ISSN:03850307)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.11, pp.1045-1050, 2010-11-01 (Released:2017-08-01)
- 参考文献数
- 10
術後の機能性慢性疼痛(CPSP)は臨床的にあまり認識されていない問題である.数十年前には開腹術後のCPSPは明らかなイレウスの所見がない場合でも腹膜癒着による閉塞によるものと考えられていた.頻回の手術でより複雑化しポリサージャリーと呼ばれていた.不必要な手術を避けようという努力でこのような患者は減少してきた.CPSPの危険因子が調べられている.その中にはうつや不安などの術前の心理的因子が挙げられるが,報告によって結果はまちまちである.最も確かなのは術後の急性疼痛である.術直後の疼痛管理が慢性化の予防に有効と考えられている.しかし,一度CPSPが出現すると対策が困難で心身医学的配慮が必要となる.そこで,当科で経験した2症例を提示した.1例は心理的ストレスが身体化した典型的症例で,もう1例は器質的疾患を基盤に心理的因子が増悪因子となっていた症例である.しかし,患者がその相互関係を理解するのは困難であった.結論として心理的因子は必ずしもCPSPの危険因子とはされていないが,治療するには心理社会的配慮が必要なときがある.