著者
辻 順行 高野 正博 久保田 至 河野 洋一 徳嶺 章夫 嘉村 好嶺
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.47, no.9, pp.993-1001, 1994 (Released:2009-06-05)
参考文献数
20

1992年6月より1992年9月までに,高野病院で経肛門的超音波検査によりcystic patternとして描出される肛門周囲膿瘍17例とmixed echoic patternとして描出される肛門周囲膿瘍5例を通じて以下の結果を得た。(1)視診,触診にて肛門周囲膿瘍と診断された症例に対して,経肛門的超音波検査を施行し,cystic patternとして描出される症例とmixed echoic patternとして描出される症例とに分けられた.前者は急性期を示し,排膿されるまでは周囲の脆弱部へ進展していく傾向が強いため,早期発見,早期外科的治療が重要で,抗生剤単独の治療は有効でなかった。それに対し,後者は排膿後に描出され,抗生剤による治療も可能であると考えられた。つまり経肛門的超音波検査により,より細かい肛門周囲膿瘍の病期の診断と治療法の判定が可能であった。
著者
小林 伸行 高野 正博 金澤 嘉昭 濱川 文彦 中島 みどり 霜村 歩 西尾 幸博 山田 一隆
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1018-1024, 2013-11-01 (Released:2017-08-01)

肛門からガスが漏れていると信じる自己臭症(自臭)患者に対して,肛門括約筋を強化するバイオフィードバック(BF)訓練を行った.対象と方法:大腸肛門科を受診した自臭患者でBF治療に同意した20名(男性9名,女性11名,平均年齢36.4±12.9歳)を対象とした. BF前後にWexnerスコアの算定,肛門内圧検査を行った.患者の自己申告をもとに総合改善度を評価した.結果:13.4±8.6回のBFを行い,自覚的漏れはWexnerスコアで8.1±3.7点から5.8±3.2へと有意に改善した(p<0.01).最大肛門静止圧は治療前後で差はなく,最大随意圧(MSP)は男性では325.2±57.6cmH_2Oから424.4±105.8へと有意に増加したが(p<0.05),女性では差はなかった.総合改善度は消失5名,改善11名,不変4名であったが, MSPの増加量とは相関しなかった.結語:自臭患者にBFを行い80%に有効であった. BFの直接的効果ではなく治療構造自体が治療的と考えられた.妄想が強くても適応可能な新しい試みである.
著者
島田 章 高野 正博 松尾 雄三
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.41-47, 1990-01-08 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
4

Takano Hospital is a coloproctological surgical center in Kumamoto, Japan. The department of psychosomatic medicine was started in April 1986 to approach to psychosomatic problems in the field. Psychosomatic aspects of adolescents with irritable bowel syndrome were studied in twenty-two patients aged 13-19 yrs, who visited the department of psychosomatic medicine during a two year period of April, 1986-March, 1988. During the same period, the numbers of the whole patients who visited our department were 167. The results are summarized as follows : 1) Twenty-two adolescent patients, 3 males and 19 females with irritable bowel syndrome took up 77.3% of the whole adolescent patients in the department of psychosomatic medicine. 2) In the clinical patterns of adolescent patients with irritable bowel syndrome the "gas" pattern was dominant (59.1%). Patients with the gas pattern have mainly severe symptoms of flatus, fullness, rumbling sound and abdominal pain as well as bowel dysfunction, diarrhea and constipation. A decline in the incidence of the gas pattern of irritable bowel syndrome was evident for other generations as there were none in childhood, 15.0% in 20-39yrs, 11.1% in 40-59yrs, 33.3% in 60yrs-. 3) School-maladjustment (53.8%) and anthropophobia (53.8%) were found in the adolescent patients with the gas pattern. The results indicate the presence of an adolescent crisis caused by gas symptoms. 4) Gas symptoms in irritable bowel syndrome could easily be distinguished from a phobia associated with self-odor by the absence of paranoid conditions. 5) It is concluded that the irritable bowel syndrome in adolescence is mainly characterized by "gas". We need a new recognition of gas in the irritable bowel syndrome in adolescence.
著者
小林 伸行 高野 正博 金澤 嘉昭 濱川 文彦 中島 みどり 霜村 歩 西尾 幸博 山田 一隆
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1018-1024, 2013-11-01
被引用文献数
1

肛門からガスが漏れていると信じる自己臭症(自臭)患者に対して,肛門括約筋を強化するバイオフィードバック(BF)訓練を行った.対象と方法:大腸肛門科を受診した自臭患者でBF治療に同意した20名(男性9名,女性11名,平均年齢36.4±12.9歳)を対象とした. BF前後にWexnerスコアの算定,肛門内圧検査を行った.患者の自己申告をもとに総合改善度を評価した.結果:13.4±8.6回のBFを行い,自覚的漏れはWexnerスコアで8.1±3.7点から5.8±3.2へと有意に改善した(p<0.01).最大肛門静止圧は治療前後で差はなく,最大随意圧(MSP)は男性では325.2±57.6cmH_2Oから424.4±105.8へと有意に増加したが(p<0.05),女性では差はなかった.総合改善度は消失5名,改善11名,不変4名であったが, MSPの増加量とは相関しなかった.結語:自臭患者にBFを行い80%に有効であった. BFの直接的効果ではなく治療構造自体が治療的と考えられた.妄想が強くても適応可能な新しい試みである.
著者
槌野 正裕 荒川 広宣 石井 郁江 西尾 幸博 高野 正太 山田 一隆 高野 正博
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AcOF1012-AcOF1012, 2011

【背景】アブラハム・マズローは、人間の基本的欲求を低次元から、1.生理的欲求、2.安全欲求、3.愛情欲求、4.承認欲求、5.自己実現欲求と5段階に分類している。生きていくうえで欠かすことの出来ない生理的欲求には、食欲、性欲、睡眠欲、排泄欲などが含まれている。リハビリテーション医療分野では、排泄欲に対する機能訓練は皆無である。排泄に関する問題は、個人だけではなく、その家族や介護者にとっても社会参加の阻害因子となり、Quality of Life(QOL)の重要な要素となる。我々は、大腸肛門病の専門病院として第43回当学会から継続して、排便に関する研究を行ってきた。今回、排便時の動態を調査することを目的として、排便姿勢の違いにより、直腸肛門角(anorectal angle:ARA)がどのように変化し、また、排出量に及ぼす影響について、排便造影検査(Defecography)を用いて検討したので以下に報告する。【方法】対象は、2010年1月~6月にDefecographyを行った160例とし、以下の3項目について検討した。1.排出時(strain)での伸展姿勢と前屈姿勢を撮影できた59例(男性21例、女性38例、62.2±18.7歳)を対象としてARAを比較した。2.大腿骨頭を頂点とし、仙骨上端(岬角)と尾骨先端との為す角(α)を計測できた23例(男性13例、女性10例、60.1±25.1歳)を対象として、排便姿勢の違いによる仙骨の傾きを比較した。3.排便困難を主訴とした症例の中で、排便姿勢を変えて排出量の測定が可能であった20例(男性7例、女性13例、64.6±13.7歳)では、伸展姿勢と前屈姿勢での排出量の差を比較した。Defecographyは、小麦粉と粉末バリウムを混ぜ合わせた疑似便(1回量225g)を直腸内に注入し、安静時(rest)、肛門収縮時(squeeze)、排出時(strain)の3動態と一連の動きを動画で撮影する。撮影された画像は、放射線技師が電子ファイル上で計測を行った。検定は、関連あるT検定と相関係数を用いて、有意水準5%未満を有意と判断した。【説明と同意】当院倫理委員会の許可を得て、臨床当研究に取り組んだ。【結果】59例の主訴の内訳は、便秘(排便困難含む)22例、便失禁(尿失禁含む)9例、脱出12例、肛門痛17例、その他21例(重複あり)であった。1.StrainでのARAは、伸展姿勢で114.1°±21.0°、前屈姿勢で134.6°±16.8°となり、前屈姿勢で有意に鈍角であった。また、相関係数は、0.716と高い正の相関を示した。2.α角は、伸展姿勢で84.9°±10.8°、前屈姿勢で92.4°±10.7°となり、前屈姿勢で有意に鈍角であり、仙骨はうなずいていた。相関係数は、0.826と高い正の相関を示した。3.排出量は、伸展姿勢で90.1g±18.3g、前屈姿勢で140.7g±20.9gであり、前屈姿勢で有意に排出量が増大した。【考察】今回、Defecographyを用いて、排便姿勢の違いはARAにどのような変化をもたらすのかを検討した。ARAに関する報告は多数存在するが、排便姿勢の違いによる報告は見当たらない。臨床場面での経験から、排便困難症例では、息めば息むほど背筋を伸ばした伸展姿勢となる症例が多く存在する。そのような症例に対して、排便姿勢の指導を行うことで排便困難が改善する症例もみられていた。今回の研究結果から、排便時は前屈姿勢の方がARAは鈍化し、排出量が増大する結果となり、姿勢指導の方法が妥当であったと考えられる。排便に関しては、まず、便意の出現が重要であることは言うまでもないが、その他の要素として、前屈姿勢になることで骨盤帯は後傾方向への動きとなる。骨盤が後傾することで仙骨は前方へ倒れ、うなずき運動を伴う。直腸は、仙骨前面の彎曲と一致することから、仙骨が前方へうなずくと、骨盤底の後方ゾーンで重要とされる肛門挙筋が緊張し、直腸を後上方へ引き上げるためARAは鈍化したと考えられる。【理学療法学研究としての意義】生きていく上で、また、在宅生活を遂行する上で、排泄は大きな課題となる。日常生活動作に直結する排泄動作に関して、理学療法士が排便の仕組みを知ることで、適切なアドバイスが提供できるようになると考えられる。それは、例えば、介護分野で数年前から言われている、「寝たままのオムツでの排泄ではなく、トイレでの排泄を介助する。」ことの根拠となり、また、運動学的知識が豊富な理学療法士が、骨盤周囲の運動機能の評価・治療を行うことで、排便を行いやすくできる可能性があると考えられる。
著者
槌野 正裕 荒川 広宣 山下 佳代 石井 郁江 山田 一隆 高野 正博
出版者
日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会
雑誌
日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会誌 (ISSN:18820115)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.23-28, 2015 (Released:2020-07-17)
参考文献数
16
被引用文献数
1

【目的】排便に適した姿勢に関して、排便姿勢の違いが肛門直腸角(ARA:anorectal angle)と疑似便の排出量に及ぼす影響について検討したので報告する。【対象と方法】Defecographyを行った症例の中で、前屈座位と伸展座位によるARA、仙骨の傾きを撮影された静止画像から計測し、排便困難例では疑似便の排出量を比較した。【結果】ARAは伸展座位で114.1°±21.0°、前屈座位で134.6°±16.8°、仙骨の傾きは84.9°±10.8°、92.4°±10.7°、排出量は90.1g±82.0g、140.7g±93.3gであり、有意に前屈座位の方がARAと仙骨の傾きが大きく、排出量が多かった。【考察】前屈座位は骨盤が後傾し、仙骨はうなずくため、排出時にARAが鈍化し、排出量が多くなるため、排便に適した姿勢であると考えられる。
著者
小林 伸行 濱川 文彦 金澤 嘉昭 廣松 矩子 高野 正博
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.1380-1385, 2015-12-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
3

目的:排ガス(おなら)臭を主訴とする自己臭症の患者における腹部症状を質問紙を用いて調べた.対象と方法:当院心療内科を初診したおなら臭を主訴とした自己臭症患者47名(男性20名,女性27名,平均年齢27.7±12.4歳,以下,自己臭群)と健常者82名(男性48名,女性34名,平均年齢37.3±9.7歳,以下,対照群)を対象とした.当科初診時にRomeIII診断基準に基づいて作成した問診票を用い腹部症状を調査した.結果:過敏性腸症候群(IBS)の診断基準を満たしたのは,自己臭群25名(53%),対照群17名(21%)と自己臭群で有意に高頻度であった(p<0.001).自己臭症とIBSを併存するものは対照群のIBSと比較していきみ,排便困難感,残便感の頻度が高かった(すべてp<0.001).自己臭患者の中でIBS患者と非IBS患者を比べると排便困難感がIBSで高頻度であった(p<0.05).結論:おなら臭を主訴とする自己臭症には高頻度でIBSを併存していた.今後,下部消化管の機能異常の解明により自己臭症の病態理解を促進すると考えられる.
著者
高野 正博
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.226-229,301, 1978 (Released:2009-06-05)
参考文献数
7
被引用文献数
3 1

肛門管長には括約筋の厚さで規定される外科学的肛門管長と肛門上皮(anoderm)で規定される解剖学的肛門長とがあり,これまで両者がいささか混同されて用いられてきた.新しく作られた大腸癌取扱い規約においてもこの例にもれない.このことは一面では両者のいずれもがそれぞれ意義を有していることを示しているとも云える.著者は肛門疾患を有しない成人の男性140例,女性32例,計172例においてそれぞれ外科学的および解剖学的肛門管長を測定し,下記の如き平均値を得たので報告する.また外科学的肛門管を括約筋性肛門管,解剖学的肛門管を肛門上皮性肛門管と呼称すれば銘記が容易で混同を避けられると考え,ここに提唱したい.
著者
高野 正博
出版者
日本腰痛学会
雑誌
日本腰痛学会雑誌 (ISSN:13459074)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.186-192, 2005 (Released:2007-12-14)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

従来,仙骨痛,仙尾関節痛,尾骨痛などと言われる慢性疼痛の症状があった.しかしよく診察すると陰部神経に沿って圧痛ある硬結を触れ,この痛みの部位と性質は患者の訴えと一致することが分かった.この中には肛門括約不全の症例が多く肛門内圧も有意に低下し,また排便障害の症例も多く,直腸肛門機能障害がみられる.加えて過敏性腸症候群様の腹部症状もみられる.以上,直腸肛門痛,括約不全,排便障害,腹部症状を四症状とし,仙骨神経障害をもととするsyndromeがあることが分かり,これを仙骨神経障害症候群と名づけた.これら四徴のお互いの合併率は50~90%で,さらには腰椎の症状や治療歴も高率で,MRIでも腰椎病変を60%に認める.治療としてはバイオフィードバックを含む保存療法と理学療法の組み合せにより,症状の消失が32%,軽減が44%,計76%に効果が得られている.今後,この症候群のさらなる病態の解明が必要とされる.
著者
高野 正博 緒方 俊二 野崎 良一 久野 三朗 佐伯 泰愼 福永 光子 高野 正太 田中 正文 眞方 紳一郎 中村 寧 坂田 玄太郎 山田 一隆
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.201-213, 2011 (Released:2011-04-01)
参考文献数
43

陰部神経に沿って圧痛ある硬結が存在し,肛門痛,括約不全,排便障害,腹部症状,腰椎症状を訴える症例がある.これらの症候の合併率は85.1%と高く,仙骨神経と骨盤内臓神経の両者の障害が関与していることがわかり,神経因性骨盤臓器症候群(Neurogenic Intrapelvic Syndrome,NIS)と名付けた. この症候群と診断した537例に,病態に応じて,肛門痛には主としてブロック療法,括約不全にはバイオフィードバック療法,腸管の運動不全には薬物療法,神経障害には理学療法と運動療法,また症候群に附随する精神障害には心理療法を組み合わせて治療した. その結果,肛門痛74.2%,括約不全83.3%,排便障害78.1%,腹部症状81.5%,腰椎症状66.0%で症状が改善し,これらの治療法は治療効果が高率に得られる適切なものであると判断した.多症候を有する症例でもそれぞれの病態に対する治療法を組み合わせ,総合的な治療を加え行うことによって高い効果が得られた.
著者
宮崎 道彦 黒水 丈次 豊原 敏光 竹尾 浩真 石橋 憲吾 皆川 紀剛 高野 正博
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.151-155, 2001-03
参考文献数
16
被引用文献数
2

平成4年12月から平成11年10月1日までに当院で手術を施行した「ホワイトヘッド肛門」16例の病態をretrospectiveに検討した.男女比は14:2,年齢は32~85歳(平均64.4歳).術前肛門管最大静止圧の平均値は60.8cmH<SUB>2</SUB>Oと低値であるが術前肛門管最大随意収縮圧の平均値は正常であった.観察期間は平均21カ月であった.年齢分布は60~69歳が最多で70~79歳がそれに続いて多かった.無症状期間は平均10.6年,病悩期間は平均26.6年であった.手術は16症例41病変に行った.そのうちわけはligation and excision,with sliding skin graft法(LE・SSG併用法)が21病変,ligation and excision法(LE法)10病変,sliding skin graft法(SSG法)4病変,McGivney rubber band ligation法(RBL法)6病変であった.術前症状としては出血,脱出,疼痛,分泌物付着の頻度が高かったがこれらの症状は手術治療により改善が認められた.しかし便失禁に関しては術後で症状の改善は認められなかった.
著者
槌野 正裕 濱邊 玲子 山下 佳代 辻 順行 高野 正博
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0570, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】 近年,排泄障害に関する研究が進み,排泄障害における骨盤底機能障害の関与が示唆されている.また,臨床の現場では,排泄障害を有する患者において,脊椎の視診において,腰椎の生理的前彎の減少や骨盤の後傾など,姿勢制御機構の障害が示唆される症例を多く経験する.今回われわれは,排便障害を有する患者における骨盤底機能と姿勢に関して調査を行ったので報告する.【対象と方法】 2004年4月から2005年4月までの期間で,排便障害を主訴として当院を受診した70歳以下の42例(男性13例,女性29例,平均年齢54歳±16歳)を対象とした.方法は,まずDefecography(排便造影)検査を通して,骨盤底機能障害の指標となるPerineal Descent (以下PD)を,擬似便を直腸内に注入した後ポータブルトイレ上座位にて,安静時,肛門収縮時,怒責時の3動態における腰部骨盤帯部の単純X線側面像を撮影し,その画像上で恥骨下縁と尾骨下縁を結んだ線から肛門縁までの距離を測定した.更に肛門内圧を行い,左下側臥位にて,圧センサー(スターメディカル社製直腸肛門機能検査キットGMMS-200)を用いて,安静時の肛門内圧(以下静止圧)と外肛門括約筋随意収縮時の肛門内圧(以下随意圧)を測定した.姿勢に関しては,仰臥位にて安静時の腰部骨盤帯部MRIT1 saggital像を撮影し,その画像上で腰椎前彎角度と仙骨角度を計測した.診断には安静時におけるPDが50mm以上を骨盤底機能障害群(以下E群),PDが50mm未満の骨盤底機能正常群(以下C群)として統計学的に比較した.なお統計学的解析にはMann-Whitney’s U testを用い,P値<0.01は有意とした.【結果】 C群25例(男性11例、女性14例、平均年齢53±16歳),E群17例(男性2例、女性15例、平均年齢54±15歳)では,両群間で平均年齢と年齢分布に有意差はなかった.C群と比較してE群は女性に多かった.肛門内圧に関して,静止圧,随意圧は, C群では91.5±34.9,273.4±143.7,E群では62.1±33.7,140.8±108.1で,ともにC群に対してE群で有意に低下していた.姿勢に関しては,腰椎前彎角度,仙骨角度ともにC群が39.8±8.5,37.0±6.6,E群が31.4±8.5,30.9±6.3で,ともにC群に対してE群で有意に減少していた.【考察】 排便障害を有する患者のなかには骨盤底機能が障害されている症例が存在し,それらの症例において認められる肛門内圧の低下は排便障害の一因となっていることが示唆された.さらに,骨盤底機能障害を有する症例において認められる腰椎前彎角度および仙骨角度の減少は,姿勢と骨盤底機能との関連性を示唆するものであり,骨盤後傾位における骨盤底筋群への伸張負荷の増大など,姿勢制御機構の障害による骨盤底機能障害発生の可能性が考えられた.
著者
槌野 正裕 山下 佳代 坊田 友子 甲斐 由美 高野 正太 高野 正博
出版者
日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会
雑誌
日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会誌 (ISSN:18820115)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.34-38, 2008 (Released:2021-10-30)
参考文献数
10
被引用文献数
1

排泄リハビリテーション領域では日常生活動作訓練の一環としての起居からトイレへの移動など、一連の動作としてのアプローチがほとんどであり、排泄そのものに目を向けた直接的アプローチは皆無に等しい。 今回、直腸性便秘のため当院にて排泄訓練を行った10例に対し、ポータブルトイレでの排便姿勢の評価に加えて、排便時の直腸と肛門の怒責圧測定を行った。 結果排便時姿勢不良例では直腸圧が低く、肛門圧が高い値を示しており、排泄を困難にさせていた。また、排便姿勢不良例に対して姿勢指導を行うことで、直腸圧が上昇し肛門圧は低下した。排便姿勢の変化により骨盤機能が改善し、腹圧が加わりやすくなりスムーズな排便が可能となったと考える。
著者
高野 正博 松田 保秀 松田 正和
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.380-385, 1987 (Released:2009-06-05)
参考文献数
23
被引用文献数
2 1

消散性肛門直腸痛は,発作性に起こり,かつ消褪する痛みで,発作が治まるとまったくその痕跡を留めないとされ,この点で他の器質的疾患と大いに趣きを異にしている。その原因についてはさまざまの仮説があるが,いずれも推定の域を脱せず,現在まで原因不明の疾患とされている,われわれは過去32例の当疾患を経験したが,いずれの症例においても骨盤後面,特に仙骨,尾骨,肛門挙筋などに限局性の圧痛点が認められ,われわれはこれがいわゆる疼痛のtrigger pointであると判断した。この部分に診断と治療を兼ねたブロックを行うことによって,ほとんどの症例で症状は軽快,消褪した。以上のことより,当疾患の原因解明に大きなアプローチを得たと思われるので報告する。
著者
国武 ひかり 佐藤 郷子 野明 俊裕 荒木 靖三 高野 正博
出版者
日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会
雑誌
日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会誌 (ISSN:18820115)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.72-82, 2015 (Released:2020-07-17)
参考文献数
20

高齢者を中心とした2,250名を対象として、WexnerスコアやConstipation Scoring System(以下、CSS)スコアを参考に質問票を作成し、排便に関連したアンケート調査を実施した。アンケート回答者のうち、60歳以上の1,709名から得られた結果を分析した。その結果、便失禁、尿失禁、ガス失禁の有症率はそれぞれ、5.3%、20.5%、29.8%であった。便失禁に着目して分析した結果、便失禁の有症率は、男性では尿失禁がある場合20.1倍、女性では尿失禁がある場合は5.8倍、ガス失禁がある場合は5.0倍になることが分かった。
著者
槌野 正裕 荒川 広宣 中島 みどり 山下 佳代 高野 正太 高野 正博
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.21, 2009

【背景】<BR> アブラハム・マズローは,人間の基本的欲求を低次元から,1.生理的欲求,2.安全欲求,3.愛情欲求,4.尊敬欲求,5.自己実現欲求と5段階に分類している.生きていくうえで欠かすことの出来ない生理的欲求には,食欲,性欲,睡眠欲,排泄欲などが含まれている.リハビリテーション医療分野では,排泄欲に対する機能訓練は皆無である.当院は大腸肛門病を専門に扱っており,理学療法士は大腸癌術後の離床促進による呼吸器合併症予防と,排泄の機能障害に対しての直腸肛門機能訓練を行っている.<BR> 今回,直腸肛門機能障害に対して取り組んだ,物理療法機器を用いての治療を報告する.なお,症例には当院倫理指針に則り患者への同意を得ている.<BR>【症例紹介】<BR> 症例は,60代,男性,排便時出血と肛門痛を主訴として来院.直腸肛門機能検査では,外肛門括約筋筋電図収縮力(S/R)1.5,その他問題なし.外肛門括約筋の収縮に対するバイオフィードバック療法を実施したが,筋の単独収縮が出来ず,主治医より治療を依頼された.括約筋を収縮させようとしてもS/Rに変化は無く,逆に息むような奇異収縮を認めた.腰仙椎MRI画像では腰椎の過度な前彎と,代償的な骨盤後傾を認めた.<BR>【治療方法と経過】<BR> まず,骨盤帯の前傾を促すため,骨盤前後傾運動を指導した.骨盤帯の運動が可能となってからは,米国Chattanooga社製,Intelect Advance Combo 2762ccを用い,電流は筋電図誘発電気刺激(Electromyography-Triggered Neuromuscular Stimulation:ETMS)を使用した.電極パットを尾骨先端の肛門縁とS2~4仙骨部に貼付し,アースを臀部に貼付した.最初の訓練姿勢は左下側臥位で,骨盤帯は前傾位とした.治療開始4週間を経過した時点で括約筋の収縮は出来るようになってきたが,弛緩が上手く出来なかった.6週後,外肛門括約筋の収縮と弛緩をコントロール出来るようになった.収縮方法を学習したので,抗重力位での訓練方法を指導し,更に動的な訓練を行った.退院時S/R比は2.6へ上昇し,肛門痛も軽快した.<BR>【考察】<BR> 大腸肛門の専門病院として,直腸肛門機能障害に対するバイオフィードバック療法を行っているが,視覚を用いたフィードバックのみでは患者自身の感覚の理解が得がたい症例に対して,感覚と視覚を利用した治療を行った.外肛門括約筋は収縮しても目に見えないため,視覚を用いたバイオフィードバック療法は有効な治療手段である.しかし,感覚入力も同時に行うことで収縮感覚を理解し易くなったことが考えられる.また,訓練姿勢に関しても以前の研究結果を基に骨盤帯を軽度前傾位へ誘導して取り組んだ.外肛門括約筋を含む骨盤底筋群が筋収縮を行いやすいアライメントに調整したことが治療効果を高めたと考える.
著者
高野 正博 緒方 俊二 野崎 良一 久野 三朗 佐伯 泰愼 福永 光子 高野 正太 田中 正文 眞方 紳一郎 中村 寧 坂田 玄太郎 山田 一隆
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.134-146, 2010 (Released:2010-03-05)
参考文献数
34
被引用文献数
1 1

会陰部に慢性の鈍痛を訴える症例があり,括約不全・排便障害・腹部症状・腰椎症状を加え5症候が症候群を形成する.我々は2001~2005年に537例を経験し,女性に多く,平均58.5歳である. 症候別に他症候を合併する率は,肛門痛では括約不全27%と低い他は,排便障害67%,腹部症状56%,腰椎症状56%である.括約不全で排便障害78%,肛門痛72%,腹部症状56%と高い.排便障害で括約不全31%,肛門痛71%,腹部症状63%,腰椎症状54%.腹部症状でも括約不全が29%と低い他は肛門痛75%,排便障害80%,腰椎症状60%.腰椎症状では括約不全が31%と低い他は,肛門痛77%,排便障害77%,腹部症状71%と高い.括約不全が低いのは肛門機能障害のあと一つの排便障害が第3症候の排便障害と混同されたことによる.その他の症候の合併率は60~80%と高く,この症候群の存在意義は大きい. この症候の病態はS2,3,4より出る仙骨神経と同じ部位の骨盤内臓神経との障害で,前者支配の会陰・肛門部と,後者支配の直腸の機能障害との合併発生によると考える.
著者
小林 伸行 濱川 文彦 松尾 雄三 高野 正博
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.1201-1207, 2009-11-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
16

初診時の問診や質問紙が治療中の自傷行為の予測に有用かを検討した.対象と方法:2000〜2005年に初診した1,665名を対象とした.(男性605名,女性1,060名,年齢36.4±18.6歳).カルテ記載から精神科・心療内科受診歴(受診歴),希死念慮,自傷行為の既往(自傷既往),受診直前の自傷行為(直前自傷),治療経過中の自傷行為(治療中自傷)などを調べた.初診時にGHQ28を行った.結果:全対象の22.6%に受診歴,24.7%に希死念慮,5.1%に自傷既往,1.5%に直前自傷を認めた.初診以降も治療を継続した1,132名中,治療中自傷は4.3%にみられ,非自傷者より低年齢で,受診歴,希死念慮,自傷既往が多く,GHQ28の重症抑うつ尺度が高く,診断別では摂食障害,うつ病に多かった.多変量解析では年齢,希死念慮,自傷既往が治療中自傷予測に有意な変数だが,自傷者の正分類率は4%だった.結語:初診時の希死念慮と自傷行為の既往が治療中自傷の予測に最も有用だが,十分ではない.
著者
辻 順行 高野 正博 久保田 至 徳嶺 章夫 嘉村 好峰 豊原 敏光
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.48, no.9, pp.1026-1032, 1995 (Released:2009-06-05)
参考文献数
12
被引用文献数
12 7

1994年1月から12月までに当院外来を受診した症例の中で,直腸肛門病変を有しない20歳代から70歳代までの男性50例,女性49例を対象として,直腸肛門機能検査を行い以下の結果を得た.(1)肛門管最大静止圧,肛門管最大随意圧,排出圧は,男女ともに20歳代から60歳代までは,有意な差を認めなかった.しかし,70歳代では他の年齢と比較して男女ともに有意な低下を認めた.また性差で比較すると肛門管最大静止圧においては70歳以上では,有意な差を認めなかったが,69歳以下においては有意に女性の方が男性より低かった.肛門管最大随意圧と排出圧においては,69歳以下や70歳以上の群でも有意に女性が男性より低かった.(2)機能的肛門管長では,男女ともに20歳代が他の年齢群と比較して有意に短く,30歳代から70歳代では男女ともに有意な差を認あなかった.また性差で比較すると29歳以下や30歳以上の群においてもそれぞれ女性が男性より有意に短かった.(3)直腸感覚閾値,最大耐用量,直腸コンプライアンス等は,20歳代から70歳代までの,どの年齢群においても,男女ともに有意な差を認めなかった.以上より,肛門機能は直腸機能に比べて性差や加齢による影響が及びやすく,直腸肛門の手術の際には性や年齢を加味して手術術式の選択をすべきであると思われた.