- 著者
-
形井 秀一
- 出版者
- 社団法人 全日本鍼灸学会
- 雑誌
- 全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
- 巻号頁・発行日
- vol.62, no.1, pp.12-28, 2012 (Released:2012-07-05)
- 参考文献数
- 39
鍼灸を含む東洋医学の発祥は、 おおよそ2000年前の黄河流域の中国文明にまで遡る。 東洋医学発祥の要因は、 都市文明が発達史、 国が統一される中で国民の健康を為政者が政策の対象にしなければならなかった背景が大きな理由ではないかと考える。 鍼灸が日本に伝播されるのは、 6世紀半ばのことであり、 701年の大宝律令の制定以降明治7年の 「医制」 が公布されるまで鍼灸は国の医学の一翼を担い続けた。 奈良・平安時代は中国の鍼灸を受け入れ、 学ぶことが中心であったが、 同時に、 日本鍼灸の萌芽が見え始めた時期でもあった。 そして、 鎌倉時代を経て、 室町時代~安土桃山時代は、 日本の独自性が育ち始め、 江戸期に特徴的に発展する。 また、 特筆すべきことは、 1543年にポルトガル船が種子島に漂着し、 その後、 スペインそしてオランダが、 日本の文化に影響を与えたことである。 この影響は、 もちろん、 日本鍼灸にも及んだ。 江戸期には、 日本は緩やかな鎖国を行い、 中国、 朝鮮、 オランダとのみ交易をする政策をとった。 この貿易は、 即時的ではないにせよ、 海外の情報を日本に伝える重要な役割を果たした。 医学の分野では、 中国や朝鮮との交易から東洋医学の、 また、 オランダ交易から西洋医学の情報を入手した。 日本は、 常に世界最先端の医療情報を入手しつつ、 それを選択的に利用していたと言えよう。 その結果、 日本鍼灸は、 東洋医学の古典研究を深めながら、 中韓の医学情報を活用し、 また、 日本独特の管鍼法を発案し、 腹診法を深化させ、 さらには西洋医学の考え方をも取り込むなど、 明治期以降、 近・現代鍼灸に繋がる発展をこの江戸時代に見せている。