著者
井上 悦子 七堂 利幸 北小路 博司 鍋田 智之 角谷 英治 楳田 高士 會澤 重勝 西田 篤 高橋 則人 越智 秀樹 丹澤 章八 川喜田 健司
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.635-645, 2003-11-01 (Released:2011-03-18)

風邪症状に対する鍼灸の予防、治療効果に関する多施設ランダム化比較試験 (RCT) の経緯ならびに現状について紹介した。パイロット試験では2週間の鍼治療が明瞭な効果を示したのに対し、多施設RCTによる同様な咽頭部への鍼刺激、さらには普遍的な間接灸刺激 (2週間) の効果は、いずれも300名を超す被験者を集めながら顕著なものとはならなかった。そこで、治療期間を最低8週間として、各施設においてパイロットRCTを実施した結果、より有効性が高まる傾向が認められた。これまでの臨床試験の経験や反省をふまえた議論のなかで、被験者の選択や対照群の設定、実験デザイン等の再検討の必要性が確認された。
著者
菅田 良仁 東家 一雄 大西 基代 戸田 静男 黒岩 共一 木村 通郎
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.241-245, 1989-06-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10

われわれは, 前報で透熱灸が生体内にあたえる温度変化について報告した。その際, 皮下では50℃以上に上昇することを示したが, 今回の隔物灸 (生姜および大蒜灸) でも同様に, 皮下で50℃をこえる温度変化が認められた。しかも, 透熱灸にくらべ50℃以上の状態を維持する時間が長く, 温熱刺激を緩和すると考えられている隔物灸が, むしろ透熱灸より強い刺激をあたえている可能性があることがわかった。また, その隔物灸の生体内におよぼす温度変化は, 隔物の含水量と皮膚組織の含水量の影響を強く受けることが予想された。
著者
篠原 昭二 原口 勝 福田 文彦 岩崎 瑞枝
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.2-17, 2014

世界的な長寿を誇る我が国において、 死因の第 1 位を占めるのががんであるが、 時に耐えがたい苦痛を伴う場合がある。 そういった苦痛を緩和するための専門的な施設として緩和ケア病棟や拠点病院における緩和ケアチームの設置などが積極的に行われている。 一方、 疼痛緩和の手段として WHO 方式による麻薬を使った方法も確立されているが、 それでもターミナルの中期から後期にかけての患者さんでは十分なペインコントロールが出来ていないケースが少なくない。 そんな愁訴に対して、 徐々に鍼灸治療やハウトケア始め、 種々の代替療法が行われているが、 その実態や効果等、 不明な点が多い。 そこで今回、 緩和ケアの実態を理解するとともに、 鍼灸治療のエビデンスや疼痛緩和手段の一つとしてのハウトケアを取り上げ、 討論することとした。
著者
山口 創
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.732-741, 2008 (Released:2009-03-10)
参考文献数
2

本稿では第1に、 身体心理学の立場から、 自己と環境との境界としての皮膚感覚について論じられた。 第2に、 身体接触が心に与える影響に関する実験について紹介した。実験では、 触れる側、 触れられる側、 自己接触の3群の不安低減効果について検討した結果、触れられる側にのみ心理的変化があることを紹介した。 次いで幼少期の両親との身体接触は、 成人後にも対人関係に影響を与えている事実を紹介し、 皮膚自体が記憶をもつ可能性について示唆し最後に、 鍼灸治療における皮膚の機能や役割について論じた。鍼灸は皮膚へ介入する治療であり、 それが内臓や筋肉などに変化を及ぼし、 さらにその変化が皮膚に反映される。 つまり皮膚は入力と出力の界面である。 そのような視点から皮膚を観ることや、 皮膚に直接接触することの重要性について論じた。
著者
斉藤 宗則 和辻 直 篠原 昭二
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.31-46, 2007-02-01 (Released:2008-05-23)
参考文献数
6

【目的】五更泄は寅卯時 (朝3~7時) にのみ出現する慢性の泄瀉であるが、その時間的概念や病機については諸説があり、その定義や概念は統一されていない。そこでこれらを明確にするため文献調査を行った。【方法】『中華医典』を用いて「五更泄」「五更瀉」「腎泄」「腎瀉」をキーワードとして検索し、書籍でその記述内容を確認したものを時代ごとに並べた。次に、五更や時辰という時間の概念、五更泄の病機と証候、五更泄の発症時間と病機、五更泄の名称、五更泄と痢疾、五更泄と現代医学といった視点から考察を行った。【結果】その結果、「五更泄」は31冊37件、「五更瀉」は12冊14件、「腎泄」は91冊216件、「腎瀉」は38冊74件であった。五更泄は12世紀中頃に腎の病とされた「腎泄」を源とし、その後病機が漸増し、「腎泄」の時間が子時 (23時~) まで拡大された。病機には腎陽虚、酒積、寒積、食積、肝乗脾土、少陽気虚、?血などがあった。【考察】五更泄と腎泄は共通する部分が多いが、その主たる病機の違いを述べると、五更泄は五更に肝・少陽の旺盛や火が生じることによって生じ、腎泄は子時に腎水が旺盛になることで子時から卯時に泄瀉が起きると考えられる。これらの症状の発現と時間帯との関連には疑問が残った。一方、名称については16世紀後半には五更という時間帯が強調されているが、腎泄の発症時間が亥子まで含まれたため、五更泄という名称が主とならなかった可能性がある。
著者
宮崎 彰吾 萩原 明人
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.226-234, 2012 (Released:2012-12-10)
参考文献数
19

【目的】人々の健康増進に用いられている鍼灸療法の費用をカバーする助成金額と健康指標との関連について検討するため、 国民健康保険の保険者である各自治体が独自に設定している鍼灸療法の公的な助成金額と集団の健康状態の指標とされる平均寿命および疾病分類別の医療費との関連について検討した。 【方法】福岡県内の85市町村を対象に、 国民健康保険の保険者である各市町村が独自にその範囲を設定している助成制度から 「鍼灸療法に対する1年間当りの助成金額の上限値」 を算出し、 「健康指標 (平均寿命、 標準化死亡比)」 及び 「医療費 (疾病分類別における入院及び入院外の1人当り実績医療費)」 との関連を検討した。 【結果】鍼灸療法の公的な助成金額と平均寿命との間には有意かつ正の相関 (男性:r=0.53, P<0.001、 女性:r=0.44, P<0.001) が見られ、 標準化死亡比との間には有意かつ負の相関 (男性:r=-0.48, P<0.001、 女性:r=-0.34, P<0.005) が見られた。 更に、 鍼灸療法の公的な助成金額と医療費との間には有意かつ負の相関 (入院:r=-0.26, P<0.05、 入院外:r=-0.30, P<0.05) が見られた。 【考察及び結論】鍼灸療法を利用する多くの患者は、 主に筋骨格系の症状に対する治療目的で受診している。 助成金額が高い場合ほど平均寿命が延伸するのは、 鍼灸療法によって筋骨格系疾患が改善することにより、 日常生活動作 (ADL) や身体活動量の向上につながり、 致命的な疾患 (例えば癌、 虚血性心疾患と脳血管障害) のリスクを減少したためであると考えられる。 また、 鍼灸療法が致命的な疾患あるいはその原因となる状態に直接影響している可能性も示唆された。
著者
妻木 充法
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.684-689, 2008-08-01
被引用文献数
2

クラブワールドカップは、 6大陸のクラブ王者が世界一を決める大会であり、 その審判もアジア、 アフリカ、 南米、 北中米カリブ、 オセアニア、 ヨーロッパより選出される。 今回、 世界サッカー連盟 (FIFA)、 日本サッカー協会より依頼を受け、 鍼灸師が審判団のメディカルサポートを行った。 業務は、 練習及びフィットネステスト時のトレーナー活動、 試合帯同、 トリートメント業務 (鍼治療、 マッサージなど) であった。 16日間で59回の鍼治療、 63回のマッサージを行った。 大会期間中の外傷はハムストリングス肉離れ2名、 障害は、 腰痛、 アキレス腱周囲炎、 頚部痛などがあり鍼治療を行い改善した。 しかし2度の肉離れを起こした1名は、 帰国した。 鍼を知らない審判もいて、 日本の鍼治療を理解してもらう工夫が必要であった。 今後は、 感染防止の対策、 鍼の効果や傷害についての英語での説明法、 各国の食事やサプリメントの正確な知識を持つことの必要性を痛感した。
著者
山下 仁 津嘉山 洋 若山 育郎 川喜田 健司
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.136-140, 2009 (Released:2009-09-15)
参考文献数
9

来る2009年6月12日、 "腰痛症に対する鍼灸治療効果のエビデンスの現状"と題して、 埼玉で第2回JSAM鍼灸国際シンポジウムが開催される。 このシンポジウムのテーマの背景と、 議論になると予想されるポイントについて概説する。 シンポジウムでは、 (1)腰痛に対するRCTの現状、 (2)日中韓におけるデータベースに基づいた腰痛治療法の紹介、 (3)Sham鍼、 という3つのセッションが設けられている。 EBMの枠組みの中で鍼灸の腰痛に対する有効性を検討する場合、 次のような議論が予想される。 1) 偽鍼の治療的効果:プラセボ効果は区別できるのか? 2) 偽鍼によるマスキング:ダブルブラインドは可能か? 3) 具体的な治療テクニック:鍼灸施術の優劣に影響する因子は何か? 招待発表者の多くは、 RCTや偽鍼開発で世界のトップジャーナルに鍼の論文を掲載している。 今回のシンポジウムで、 EBMの時代における他の医療職種との連携や医療政策への反映など、 今後の鍼灸の発展ために取り組むべき課題がより明確になることを望んでいる。
著者
前田 見太郎 清川 朝栄 小林 章子 西口 理恵 矢野 忠 大山 良樹
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.120-124, 1993-09-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
7

これまで視力回復に対する鍼治療の効果については近視の分類上, 軽度近視に対する治療が多く, 中等度ならび強度近視に対しての鍼治療の効果に関する報告は少ない。筆者らは中等度及び強度近視に対して裸眼視力回復を目的に置鍼術による鍼治療を行った。裸眼視力の回復を認めた3症例については, 治療を一時中断し, 鍼治療後の持続効果を観察した。また, 裸眼視力の回復が認められなかった3症例については, 置鍼術を鍼通電治療に変更し, 治療効果について観察を継続した。その結果, 置鍼術治療で裸眼視力の回復を認めた3症例は治療を中断してもなお, 初診時裸眼視力よりも高い視力を維持し, 鍼治療の持続効果を示した。一方, 視力の回復の認められなかった3症例に対しては鍼通電治療に変更してからは徐々に回復を示し, 初診時裸眼視力よりも高くなり, 鍼通電治療による効果を認めた。
著者
山口 創
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.732-741, 2008-11-01
参考文献数
2

本稿では第1に、 身体心理学の立場から、 自己と環境との境界としての皮膚感覚について論じられた。<BR> 第2に、 身体接触が心に与える影響に関する実験について紹介した。実験では、 触れる側、 触れられる側、 自己接触の3群の不安低減効果について検討した結果、触れられる側にのみ心理的変化があることを紹介した。 次いで幼少期の両親との身体接触は、 成人後にも対人関係に影響を与えている事実を紹介し、 皮膚自体が記憶をもつ可能性について示唆し最後に、 鍼灸治療における皮膚の機能や役割について論じた。鍼灸は皮膚へ介入する治療であり、 それが内臓や筋肉などに変化を及ぼし、 さらにその変化が皮膚に反映される。 つまり皮膚は入力と出力の界面である。 そのような視点から皮膚を観ることや、 皮膚に直接接触することの重要性について論じた。
著者
山口 創
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.132-140, 2014

皮膚と心の関係について、特に癒しとの関連ついて生理学や心理学の研究をもとに紹介した。まず皮膚は脳と同じ外胚葉から発生し、皮膚も情報処理器官であることを指摘し、皮膚感覚が心に及ぼす影響について述べた。次に皮膚をなでることによって生じる振動には、1/fゆらぎの特徴をもつ振動が発生し、それが快の気分を生じさせる可能性について述べた。また触れることによってオキシトシンという生理物質が脳内で分泌され、それが相手との親密な人間関係の構築に役立つことや、 癒しをもたらす実験について紹介した。さらに触れる際に重要な点は、ゆっくりした速度で手を動かして触れることと、弱い圧で触れることである点を指摘した。前者はC触覚線維の発火によってもたらされる効果あり、後者は副交感神経が高まるためである。 これらの特徴をもつ触れ方によって、人は最大の癒しを得ることができ、快の感情が最大に高まると考えられる。<BR>最後に、皮膚を入力と出力の両面の視点で捉える必要性について述べた。皮膚に触れることは刺激の入力としての視点であるが、皮膚は内臓など身体内部や心の働きが表出される部位でもあるため、 出力としての視点もまた重要である。従って皮膚に触れることを通じて、相手の内部状態を把握する態度が重要になると考えられる。
著者
山下 仁 形井 秀一
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.142-148, 2004-05-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
41

鍼治療後に両側性気胸を起こしたとされる症例報告文献について、臨床鍼灸学の立場から概説した。解剖所見が示されている論文から、鍼灸臨床において肺または胸膜まで鍼が到達する例が予想以上に存在しており、その中の一部が気胸を発症し、さらにその中の少数例が重篤な症状に陥ることが示唆された。文献検索では国内外で23例の両側性気胸の症例が見出された。我々はこれらの症例から教訓を学ぶだけでなく、その背景にある教育内容の再検討やフェイルセーフの発想の導入についても考えるべきである。
著者
妻木 充法
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.684-689, 2008-08-01
参考文献数
6
被引用文献数
2

クラブワールドカップは、 6大陸のクラブ王者が世界一を決める大会であり、 その審判もアジア、 アフリカ、 南米、 北中米カリブ、 オセアニア、 ヨーロッパより選出される。 今回、 世界サッカー連盟 (FIFA)、 日本サッカー協会より依頼を受け、 鍼灸師が審判団のメディカルサポートを行った。 業務は、 練習及びフィットネステスト時のトレーナー活動、 試合帯同、 トリートメント業務 (鍼治療、 マッサージなど) であった。 16日間で59回の鍼治療、 63回のマッサージを行った。 大会期間中の外傷はハムストリングス肉離れ2名、 障害は、 腰痛、 アキレス腱周囲炎、 頚部痛などがあり鍼治療を行い改善した。 しかし2度の肉離れを起こした1名は、 帰国した。 鍼を知らない審判もいて、 日本の鍼治療を理解してもらう工夫が必要であった。 今後は、 感染防止の対策、 鍼の効果や傷害についての英語での説明法、 各国の食事やサプリメントの正確な知識を持つことの必要性を痛感した。
著者
形井 秀一 大田 美香 辻内 敬子 大塚 素子 伊田屋 幸子
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.2-13, 2015

お灸が、 現代の日本の鍼灸治療においてどのような役割を担えるのか、 その可能性を探るために、 灸の基礎的・臨床的効果や現代における灸の有り方を検討した。 <BR> 大田美香氏は、 バイオインフォマティクスにより灸の実験対象を絞り込むことが可能である事を紹介し、 バイオインフォマティクス解析から灸の"熱"をキーワードとした研究結果を報告し、 今後、 灸の作用予測研究の発展の可能性を示した。 辻内氏は、 1980年代から、 開業鍼灸師の立場で灸の魅力を伝えるお灸の普及活動を始め、 産科領域の臨床研究に取り組み、 同領域に於ける灸の効果について、 多くの成果を明らかにしてきたことを述べた。 また、 大塚素子氏は、 灸が 「治療文化」 として愛媛で継承されてきたことの意味を明らかにし、 また、 愛媛県立中央病院漢方内科鍼灸治療室での鍼灸臨床や、 周産期母子センターでのセルフ灸指導の実践等を紹介し、 時系列分析を踏まえて、 灸が人生の途上で重要な役割を担った例を紹介した。 そして、 米国在住の伊田屋幸子氏は、 2008年にMoxafricaが、 アフリカにおいて始めた結核に対する直接灸の実践とその成果を報告し、 その成果を踏まえて、 今後、 鍼灸がさらに大きく発展する可能性があることを強調した。
著者
東郷 俊宏 矢野 忠
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.510-525, 2003-08-01
参考文献数
39
被引用文献数
1

灸療法は湯液、鍼療法とともに日本、中国の伝統医学において中心的な治療法としての位置を占めてきた。交の原料であるヨモギは菖蒲とともに、古くから毒気を祓う力を持つ植物として採集され、古代中国で成立した『四民月令』や『荊楚歳時記』等では毎年五月五日にこれらを採集する習俗が年中行事の一環として記載されるほか、『詩経』、『楚辞』においても採集したヨモギを身にまとう習俗が歌い込まれている。<BR>1973年に中国長沙馬王堆漢墓より発掘された医学書 (畠書) には、支を治療手段として扱う文献が見られる。すなわち『五十二病方』で外科的処置が施された患部の薫蒸を目的として支を用いたことが記録されるほか、『霊枢』経脈篇の原型と考えられる『陰陽十一脈灸経』『足腎十一脈灸経』は各経脈の変動に由来する症候群と治療経脈との関係を指摘する。<BR>ツボ (孔穴) と疾病を対応させて灸治の方法を体系的に記述したのは『黄帝明堂経』が最初であり、同書の記述は『鍼灸甲乙経』をはじめ、多くの医学書に採録され、鍼灸治療の基本文献とされた。孫思遡と王煮はともに唐代を代表する医家だが、孫思遡が鍼灸両方を同等に扱ったのに対し、王煮は『外台秘要方』編纂に際して灸治のみを採録し、思遡と対照的な姿勢を取ったことがしばしば指摘される。しかし子細に検討すると、孫思遡の医書 (『千金要方』『千金翼方』) においても灸治の優越性を指摘する部分があり、また予防医学、養生手段としての灸治の意義を明確にしたほか、阿是穴を紹介するなど、灸療法の可能性を広げるうえで孫思遡の医書が果たした役割は大きい。『外台秘要方』も孫思遡の医書をベースに灸治を重視する立場を展開したものと考えられる。<BR>古代から中世までの日本医学を鍼灸に限定してみると、官職として鍼博士は置かれたものの、鍼は主に患部の切開や瀉血を目的とした外科器具として用いられ、実際の臨床は灸治が中心であったこと、また人神や日月の運行に基づく灸治の禁忌が忠実に守られ、吉日の選定にあたっては陰陽師が関わっていたことなどが『玉葉』、『明月記』などの日記資料から窺われる。十世紀末に丹波康頼によって編纂された『医心方』も、その構成は『外台秘要方』に類似し、灸治の記述に重点をおいている。<BR>近世に入ると、明代までに成立した医学書の大量の舶載を背景に経穴部位や治療経穴の文献学的研究、考証が進むと同時に、中世以降はじまった日本独自の灸治法 (和方灸、家伝灸) が集大成された。また養生法の一環としての灸療法が普及し、民間向けの灸治専門書の出版を見るようになる。15世紀末に始まる大航海時代以降、イエズス会士を筆頭に多くの西洋人が日本を訪れ、灸療法の知識を西洋にもたらした。17世紀初頭に長崎で印刷された『日葡辞書』には灸に関連する用語が多く採録されるほか、元禄期にはオランダ商館医として来日したケンペルによって本格的な紹介がなされた。ハンセン氏病 (らい病) の治療に灸が用いられていたことはやはりオランダ商館医であったテン・ライネの著作に記録されているが、明治期に東大医学部教授として日本に滞在したベルツの撮影した写真の中にも多くの灸痕を有するハンセン氏病患者の写真が残されている。
著者
西谷 郁子
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.188-193, 1987-09-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
7

The effect of moxibustion on warts has been known since ancient times and some modern medicalbooks contain descriptions of such treatment. The cure mechanism of moxibustion on warts is still unknown. But it is assumed that, in moxibustion treatment, the burned products of moxa which penetrate the warts are the acting agents.Now I report two clinical cases. One case showed that moxibustion treatment and the application of burned moxa products on warts together were effective against the warts. The other showed that moxibustion treatment alone was able to cure the wart with black mole.
著者
下市 善紀 春木 淳二 若山 育郎
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.37-53, 2014 (Released:2014-04-23)
参考文献数
53

【目的】日本で実施された腰痛に対する鍼の randomized controlled trial (RCT) をレビューし、 「日本の鍼治療」 が 「日本人の腰痛」 に対して有効であるかどうかを検証する。 【方法】医学中央雑誌、 PubMed などのデータベース検索およびデータベース掲載のない論文については日本鍼灸治療学会誌、 日本東洋医学会誌などの雑誌のハンドサーチを行い、 論文を抽出した。 収集した論文は、 Modified Jadad Quality Score と改編 Chalmers Score (Chalmers Score を一部鍼灸用に改編したもの) を用いて質を評価し、 Cochrane Review Manager 5 を用いて meta-analysis (MA)を行った。 【結果】19 編の研究論文が抽出された。 Modified Jadad Quality Score は、 最高 5 点で最低 1 点、 平均 3.5 点であった。 改編 Chalmers Score は、 50 点以上が 2 編、 平均 34 点であった。 19 編の研究論文から 2 つのサブグループを作り 3 つの MA を行った。 (1)マニュアル (置鍼) と偽鍼を比較した 5 編で、 Visual analogue scale (VAS) を評価項目としたものは、 VAS の standardized mean difference (SMD) が-1.79 (95%信頼区間-2.89~-0.69) となり、 マニュアル刺激に置鍼を加えた治療は、 偽鍼と比較し有意な腰痛軽減効果が確認された(P =0.001)。 (2)マニュアル (置鍼) と偽鍼を比較した 3 編で、 Roland Morris Disability Questionnaire (RDQ) を評価項目としたものは、 RDQ の SMD が-1.23 (95%信頼区間-2.07~-0.38) となり、 マニュアル刺激に置鍼を加えた治療は、 偽鍼と比較し有意な腰痛軽減効果が確認された(P =0.004)。 (3)マニュアル (雀啄術) と偽鍼を比較した 3 編で、 VAS を評価項目としたものは、 VAS の SMD が-0.49(95%信頼区間-0.98~-0.00) となり、 マニュアル (雀啄術) 刺激は、 偽鍼と比較し有意な腰痛軽減効果が確認された (P =0.05)。 【結論】今回収集した研究論文の質については、 簡便な評価法である Modified Jadad Quality Score は比較的得点が高い傾向にあったが、 より詳細な質の評価を行う改編 Chalmers Score では得点が低く今後の改善が期待される。 MA では、 鍼治療は偽鍼に比べ有効性が示唆されるという結果であったが、 研究者に偏りがあった。 日本における腰痛に対する鍼治療の効果を確定するには、 今後同様の手法を用いた複数の研究者による再現性の確認とさらに大規模な臨床試験が必要と考えられた。