- 著者
-
佐藤 哲彦
- 出版者
- 日本犯罪社会学会
- 雑誌
- 犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
- 巻号頁・発行日
- vol.38, pp.124-137, 2013-10-15 (Released:2017-03-31)
本稿は,欧州連合(EU)において薬物問題対策として採用され,こんにち広く影響を及ぼしている「欧州アプローチ(European Approach)」について,その来歴と概要および実践をアムステルダム市のケースを題材として検討し,その施策の含意について論じている.まずEUにおける薬物政策の成立過程について,EU自体の成立過程やその過程における諸機関との関係を含めて論じたのちに,それらを現行の形として成立させ維持する制度と仕組みについて論じた.そこではとくに補完性の原則が重要な役割を果たしていること,さらに欧州委員会の管轄領域との関係が重要であることなどが指摘されている.次に欧州アプローチの一事例としてアムステルダム市におけるハーム・リダクション施策を具体的に論じ,その施策が現在の福祉政策に影響を受けていること,とくに勤労福祉政策がコミュニティという視点の強調によりハーム・リダクションに組み込まれている最近の傾向を指摘している.最後に,脱犯罪化統制であると同時に社会政策として広がりつつあるハーム・リダクションが「逸脱の経済化」の一つの現れであることを示唆している.