- 著者
-
篠原 盛慶
- 出版者
- 日本音楽表現学会
- 雑誌
- 音楽表現学 (ISSN:13489038)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, pp.1-12, 2013-11-30 (Released:2020-05-25)
- 参考文献数
- 15
1889 年、物理学者の田中正平 (1862-1945) は、唸りの少ない協和性を追求し、エンハルモニウムの名で知られる 1 台の画期的なリードオルガンを製作した。この楽器は、「純正調オルガン」であると広く認識されている。しかし、田中とともに、当時の日本の音律研究を牽引した音響学者の田辺尚雄 (1883-1984) は、主著『音楽音響学』(1951) のなかで、 エンハルモニウムに 53 平均律が用いられたことを示唆している。田辺は、同書でその根拠を示していないため、本当にそうであったかどうかについては、詳細な検証が必要となる。本論では、その検証と考察を行った。 その結果、田中の音律理論を集約した格子図に、彼の理論の基礎に53平均律が据えられていた可能性が確認された。また、田中の純正 7 度の代用音程の捉え方に、エンハルモニウムに 53 平均律が適用された可能性が認められた。さらに、エンハルモニウムの最大の独自性である移調装置に、同楽器に純正律が施されていない証拠を見つけることができた。以上から、田中正平のいわゆる「純正調オルガン」、すなわちエンハルモニウムは、実は 53 平均律を適用した楽器であったと結論づける ことができる。