著者
木村 隆之
出版者
経営哲学学会
雑誌
経営哲学 (ISSN:18843476)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.75-89, 2020-10-31 (Released:2021-06-08)
参考文献数
28

近年、地方創生やソーシャル・ビジネスへの注目の高まりから、経営学領域においても地域活性化を事例とする研究が増えている。なかでも代表的なのはソーシャル・イノベーション(SI)・プロセスモデルに関する議論があるが、そこにおける地方自治体の存在は、正当化の源泉であり資源と事業機会を提供するという行政の役割概念と同一視されてきた。しかし、地方自治体は、法制度の整備や制度設計により、地域内外の資源を新結合し地域活性化を強力に推進し得る、強力な変革主体として分析可能である。本論文は、地方自治体をSIプロセスの中心に捉え直すことで、地方自治体が社会企業家としての行動をとることの可能性について指摘するものである。社会企業家が社会問題の解決を目指し、動員可能な資源を利用した事業を開発することで社会問題の解決を図るのであれば、地方自治体もまた、地方自治を取り巻く制度的環境の下で構造的不公平に晒されている存在であり、地域活性化のために自らの裁量で動員可能な資源を用いた事業を構想し実行する。さらには地域内で生じた草の根的なSIを、国政レベルに紐づけることにより資源動員を行うという独自の役割を果たしていくことが可能な存在である。そのことを経験的に裏付けるために、島根県隠岐郡海士町の島嶼活性化事例を分析する。島嶼などの閉鎖された土地や過疎化が進む地域では特に、地方自治体が企業家的役割を担わねばならない。海士町事例では、自治体が主導となり島の資源を利用し、外需を獲得するという方策をとり、海士町でビジネスを試みようとする島外起業家たちの自助努力を取り込みつつ、民間企業が設立されていった。更に、外部人材獲得を継続するために町営の事業が進められ、多数のヒット商品や新会社設立を生み出していった。この様に海士町は自治体が企業家的役割を担うという、これまでのSI研究とは異なる地方自治体の役割を明らかにしている。

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