- 著者
-
中條 秀治
- 出版者
- 経営哲学学会
- 雑誌
- 経営哲学 (ISSN:18843476)
- 巻号頁・発行日
- vol.18, no.2, pp.100-114, 2022-01-31 (Released:2022-04-08)
- 参考文献数
- 24
21世紀の経営哲学は、「サスティナビリティ」を中核の思想とする「新しい資本主義」への歩みを進めるものでなければならない。そのためには新自由主義経済思想と「株主価値神話」が結びついた現行の「ダナマイト魚法」的経済システムからの脱却を目指さねばならない。「株主価値神話」は「死ななければならない」。「この神話を終わらせる」ために、われわれは何をしなければならないのか。イスラエルの歴史学者ハラリ(Harari,2014)は『サピエンス全史』の中で、人類の強みは巨大な規模で協力関係を作り出す能力にあるが、それを可能とするのは「虚構の物語(fictional story)」であると指摘している。さらに、人々が信じる「物語」が別の物語に取って代わることで、人々の物事の捉え方と行動が変わり、社会は変化すると主張している。われわれがこれまで教え込まれてきた「株主価値神話」から脱却しようとするなら、われわれは新たな「物語」を必要とする。再生させなければならない「物語」は中世キリスト教を起源とする「コルプス・ミスティクム(corpus mysticum:神秘体)」の「物語」である。株式会社は法人であり、株主という自然人とは次元を異にするフィクションとしての「擬制的人格」である。「株主価値神話」にはカンパニー(company)の会社観とコーポレーション(corporation)の会社観の混同がある。コーポレーションの会社観に基づく法人の論理を突き詰めることで、”生きている法人”は「誰のものでもない」という立場に立つことが可能となる。21世紀の経営哲学は、株式会社がその存在の根拠としたコルプス・ミスティクム(神秘体)という「虚構の物語」に一旦立ち返ることで、「株主価値神話」からの脱却の糸口を見つけ、「社会制度体」としての法人という観点から社会貢献活動を企業の経営実践に組み込むことが可能となる。