著者
内田 桂吉
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第61回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.1, 2009 (Released:2009-06-19)

多くの蚊の雌は吸血によって卵を発育させる。卵巣発育に関わるホルモンについては非常に多くの研究がなされているが、栄養素と卵巣発育の関連についての報告は多くない。そこで血液中の栄養成分、特に消化産物であるアミノ酸に注目し、アミノ酸と卵巣発育の関連、また発育開始後の成熟にいたる卵胞数とアミノ酸の関連について、おもにアカイエカを用い研究を行い、以下のような内容を明らかにした。 卵巣発育開始を促すアミノ酸の作用 吸血後、中腸内での血液の消化吸収にともない体液中のアミノ酸濃度が上昇する。そこで、アミノ酸の混合液を毎時0.083マイクロリッターというごく微量ずつ24時間~48時間にわたって非常にゆっくりと雌蚊の体腔に注入し、吸血によるアミノ酸濃度の上昇と同じ条件を人工的に生じさせたところ、多くの雌で卵巣の発育が引き起こされた。このことから、雌蚊体液中のアミノ酸濃度の上昇が卵巣発育の引き金になると考えられる。蚊の種類を変えて同じアミノ酸微量注入を行ったが、ハマダラカの一部を除き、多くの種で卵巣発育が誘発されたことから、このアミノ酸の効果は蚊に共通したものであると考えられる。 成熟卵数調節機構におけるアミノ酸の役割 上記の微量注入の方法を用い、アミノ酸の濃度、また注入時間を変えて卵巣の発育を調べたところ、成熟に至る卵胞の数は、アミノ酸の濃度の増加、また注入時間の延長にしたがって増加した。このことから、単純ではあるが、成熟卵の数は、卵黄タンパクに利用できる栄養素、主にアミノ酸の供給量によって決まると考えられる。蚊の場合、吸血後、多くの卵胞が一旦発育を開始するが、吸血量、すなわちアミノ酸量によって一部の卵胞が発育途中で退化して「間引き」される。細胞組織学的、また生化学的にこれらの退化する卵胞を調べたところ、卵胞上皮細胞がアポトーシスを起こすこと、また本来胚発生のために卵細胞内に蓄積されたカテプシンなどの細胞内プロテアーゼが、卵細胞自身の退化・消失にはたらいていることも明らかになった。

言及状況

外部データベース (DOI)

Twitter (1 users, 1 posts, 0 favorites)

https://t.co/4JehMV1X9v

収集済み URL リスト