著者
高田 伸弘 藤田 博己 安藤 秀二 川端 寛樹 矢野 泰弘 高野 愛 岸本 壽男
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第61回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.22, 2009 (Released:2009-06-19)

昨2008年7月に, 仙台市内東半部を貫流する小河川の梅田川堤防で散歩を日課とした住民が紅斑熱を発症, 特異的検査で北アジア共通Rickettsia heilongjiangensis(Rhj)の感染が強く示唆されたため, 同地区のネズミ相やマダニ相など感染環の調査を行った.同年9, 12月および本年1月の現地踏査では, まず, 梅田川中流堤防ではドブネズミおよびハタネズミの2種しか得られなかったが, ドブネズミそして植生から得られた北方系チマダニ種からRhjが高率に証明され, 同時にドブネズミ1頭の肺からは好酸球性髄膜脳炎起因性の幼虫移行症として注目される広東住血線虫Angiostrongylus cantonensis(Ac)の生虫体が見出された.梅田川がじきに七北田川に注ぐ地点の堤防では何故かネズミは捕れなかったが, 続く下流の仙台港近い河川敷ではようやくアカネズミが見出され, 一部は紅斑熱抗体を保有, またフトゲツツガムシの寄生もみた.以上から本地区のネズミ相の特性として, 梅田川周辺は市街化まもなくて郊外要素も残るに関わらず全国的普通種アカネズミが不在または超希薄という近年では稀な環境であるらしいこと, しかしそこではハタネズミと共存するドブネズミがAc(おそらく東京圏と北海道の間の東北地方では初記録)の感染環を維持し, 同時にRhj媒介チマダニ幼若期の吸血源にもなっているらしいことが挙げられる.とは言え, 重要な病原体の感染環が, 概ね密度は高くないネズミ相の中で如何に維持されているものか, 詳細な調査によって検証する必要があり, 2~3月には市内を貫流する広瀬川や名取川地区でも比較調査を予定しているので, 結果を合わせ報告する. 本調査は2008年度厚労科研(略題:リケッチア症の実態調査と警鐘システム構築)によった.<研究協力者:岩崎恵美子(仙台市副市長), 広島紀以子ほか(同市衛研)の各位>
著者
宮城 一郎 當間 孝子 金城 高子 玉城 美加子
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第61回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.66, 2009 (Released:2009-06-19)

自然界でカエルの鳴き声に誘引され吸血行動を開始するマクファレンチビカ(Uranotaenia macfarlanei Edwards)の 生態を明らかにするために,室内で累代飼育を試みた.2007年3月と5月に西表島古見(IR系)と沖縄本島北部(Yn系)の森林内でカエル鳴き声トラップにより採集したマクファレンチビカの雌に現地で捕獲したヌマガエルを一晩暴露し吸血させた.琉球大学の実験室に吸血個体を持ち帰り,いろいろな方法で累代飼育を試みた.その結果下記の方法で室内累代飼育に成功した. 成虫は大型ケージ(60 x 60 x 30cm)に,雌雄各100個体を入れて,室内・自然条件下で飼育.ケージ内には綿に染ませた2%砂糖水を吊り下げ,床全面に濡れたタオルをひいた.綿やタオルは2,3日毎に交換し,常時湿らせておいた.カエルを蚊飼育ケージ内で暴露,吸血,2-3日後,水と水草を入れた産卵容器(直径8cm,高さ5cm)をケージ内に置いた.卵(期間は2-3日)は平均40卵からなる塊状で水面に産卵され,浮遊していた.1-3卵塊からふ化した100-120幼虫をバット(32 x 23 x 5cm)に移し,毎日,餌(マウスの固型資料1+エビオス1の粉末)を与えた.バットの水を清浄に保つために,水草を入れ,エアーレイションを行って飼育した.幼虫期間は9-15日,蛹期間は2-3日,羽化率は74%であった.受精率はF1では羽化後50日でやっと10%まで上昇したが,F3では羽化後10日で10-20%,40日後には40%まで上昇した.受精率が20%以上になる頃(羽化後10-20日後)にケージ内にオオヒキガエル(南大東島産)を一晩入れて吸血させた.受精している雌は吸血欲が旺盛で,吸血率は60-70%,吸血個体の80%は産卵した.
著者
加藤 大智 Jochim Ryan 佐古田 良 岩田 祐之 Gomez Eduardo Valenzuela Jesus 橋口 義久
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第61回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.26, 2009 (Released:2009-06-19)

吸血性節足動物の唾液は、抗凝固、血管拡張、発痛抑制、抗炎症などの作用をもつ“生理活性物質のカクテル”で、これを宿主に注入することにより効率よく吸血行為を行っている。本研究では、中米から南米北部におけるシャーガス病の主要なベクターであるサシガメTriatoma (T.) dimidiataの唾液腺遺伝子転写産物の網羅的解析により、新規生理活性物質の探索を行った。T. dimidiata唾液腺からmRNAを抽出、それを鋳型にcDNAライブラリーを作製し、無作為に464クローンの遺伝子転写産物の塩基配列を決定した。その結果、361クローン(77.8 %)が分泌タンパクをコードしており、このうち、89.2 %が低分子輸送タンパクであるリポカリンのファミリーに属するタンパクをコードしていた。特徴的なことに、分泌タンパクのうち、52.1 %がT. protracta唾液の主要なアレルゲンとして同定されているprocalinに相同性を示しており、このタンパクが吸血の際に重要な役割を果たしていることが示唆された。この他に、T. dimidiataの主な唾液成分として、コラーゲンおよびADP誘発性の血小板凝集阻害物質、トロンビン活性阻害物質、カリクレイン・キニン系の阻害物質、セリンプロテアーゼ阻害物質などと相同性を持つタンパクを同定することができた。本研究で得られた結果は、吸血性節足動物のユニークな吸血戦略を理解する上で有用な知見をもたらすものと考えられた。また、得られた遺伝子クローンから作製することができる組換えタンパクは、研究・検査試薬および新薬の素材分子として活用できるものと考えられた。
著者
及川 陽三郎 高田 伸弘 矢野 泰弘 藤田 博己 大橋 典男 川森 文彦 森田 裕司 玉置 幸子
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第61回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.16, 2009 (Released:2009-06-19)

紀伊半島におけるツツガムシ病と紅斑熱の発生状況をみると、和歌山県の田辺市周辺では、ツツガムシ病(Kawasaki型)の発生はあるが紅斑熱の発生は認められないのに対し、これに隣接する東牟婁郡古座川町方面では、ツツガムシ病の発生はないが、田辺市に比べ人口がはるかに少ないにもかかわらず紅斑熱の発生が相当認められ、隣接するこれらの地域で両疾患が住み分けているようにみえる。そこで、これらの地域におけるベクター相や環境要因を調査し、各地域で違いがあるものか検討した。田辺市のツツガムシ病流行地域では、植生上から長時間の採集でようやくフタトゲチマダニ(Hlon)、キチマダニ(Hfl)およびヤマアラシチマダニなど、また野鼠からタイワンカクマダニ(Dt)が採取されたものの、環境は梅や蜜柑畑で藪が少なくやや乾燥した状態で、マダニの生息密度は低かった。一方、紅斑熱の流行地の古座川町では、Hlon、Hflおよびタカサゴキララマダニなどが植生上から、またDtなどが野鼠から得られ、環境は森林や藪が多く湿潤で、動物の生息密度も高いようで、多くのマダニが比較的容易に植生上から採取された。以上の結果から、いずれの地域にも紅斑熱のベクターとなりうるマダニ種が生息していたが、その生息密度には有意な隔たりがあり、地域住民がこれらのマダニの刺咬を受ける頻度(可能性)の高低が、紅斑熱の分布域を分かつ重要な要因であることが示唆された。また、紅斑熱の流行地における住民からの聞き取り調査で、生活環境へのシカやイノシシの出没が近年高まる傾向にあり、これら大動物の密度上昇により、リケッチア保有マダニの拡がりないし増殖が起こっている可能性も考えられた。 本研究は、平成20年度厚労科研の新興・再興感染症研究事業「リケッチア感染症の国内実態調査及び早期診断体制の確立による早期警鐘システムの構築」の一環である。
著者
内田 桂吉
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第61回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.1, 2009 (Released:2009-06-19)

多くの蚊の雌は吸血によって卵を発育させる。卵巣発育に関わるホルモンについては非常に多くの研究がなされているが、栄養素と卵巣発育の関連についての報告は多くない。そこで血液中の栄養成分、特に消化産物であるアミノ酸に注目し、アミノ酸と卵巣発育の関連、また発育開始後の成熟にいたる卵胞数とアミノ酸の関連について、おもにアカイエカを用い研究を行い、以下のような内容を明らかにした。 卵巣発育開始を促すアミノ酸の作用 吸血後、中腸内での血液の消化吸収にともない体液中のアミノ酸濃度が上昇する。そこで、アミノ酸の混合液を毎時0.083マイクロリッターというごく微量ずつ24時間~48時間にわたって非常にゆっくりと雌蚊の体腔に注入し、吸血によるアミノ酸濃度の上昇と同じ条件を人工的に生じさせたところ、多くの雌で卵巣の発育が引き起こされた。このことから、雌蚊体液中のアミノ酸濃度の上昇が卵巣発育の引き金になると考えられる。蚊の種類を変えて同じアミノ酸微量注入を行ったが、ハマダラカの一部を除き、多くの種で卵巣発育が誘発されたことから、このアミノ酸の効果は蚊に共通したものであると考えられる。 成熟卵数調節機構におけるアミノ酸の役割 上記の微量注入の方法を用い、アミノ酸の濃度、また注入時間を変えて卵巣の発育を調べたところ、成熟に至る卵胞の数は、アミノ酸の濃度の増加、また注入時間の延長にしたがって増加した。このことから、単純ではあるが、成熟卵の数は、卵黄タンパクに利用できる栄養素、主にアミノ酸の供給量によって決まると考えられる。蚊の場合、吸血後、多くの卵胞が一旦発育を開始するが、吸血量、すなわちアミノ酸量によって一部の卵胞が発育途中で退化して「間引き」される。細胞組織学的、また生化学的にこれらの退化する卵胞を調べたところ、卵胞上皮細胞がアポトーシスを起こすこと、また本来胚発生のために卵細胞内に蓄積されたカテプシンなどの細胞内プロテアーゼが、卵細胞自身の退化・消失にはたらいていることも明らかになった。