著者
綿引 大祐 吉松 慎一
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.49-55, 2017-04-05 (Released:2019-04-05)
参考文献数
16

ツツジ類の害虫として知られるベニモンアオリンガEarias roseifera Butlerの幼虫が,Exobasidium属菌によって引き起こされるツツジ類もち病の菌えいとその表面に生じた白色粉状の子実層を摂食する様子を野外および屋内の飼育下において観察し,本種の菌食性とえい食性を確認した.野外における記録:埼玉県ふじみ野市大井と鹿児島県屋久島町安房において,ツツジ類もち病の菌えいから合計3個体の若齢・中齢幼虫を採集した.いずれの地点においても中齢幼虫は肥大して丸まった菌えいの内側に静止,あるいは組織内部へ食入しており,菌えいには内側と外側(表と裏)の両面に生じた子実層をかじり取るように摂食した跡が残っていた.屋内における記録:屋久島町宮之浦より得られた1雌成虫から採卵・ふ化した幼虫を用いて簡易飼育実験を行った結果,菌えいと子実層のみを餌資源として全ステージを完了できることが明らかとなった.その場合,若齢幼虫期は菌えいの組織内部に食入・成長し(えい食性),中齢幼虫期以降は組織外へと完全に脱出,菌えいの表面に生じた子実層を積極的に摂食することも判明した(菌食性).さらに,茨城県つくば市で得た1個体の終齢幼虫を用いて行った60分間の低速度撮影からは,本種が菌えいの表面に生じた子実層を積極的に摂食している様子が鮮明に観察された.なお,通常本種はツツジ類の新芽や花芽の基部側面に穴をあけて植物体の組織内部へ食入・食害することが知られているが飼育下でも同様の習性を観察でき,それはほとんどが若齢幼虫によるものであることが分かった.今回の実験においてベニモンアオリンガの幼虫は,寄主植物の葉茎と菌えい,および菌類の子実層を摂食し,特に中齢~終齢幼虫が積極的に子実層を摂食していた.チョウ目の菌食性は,様々なグループで派生的に繰り返し生じたものであるとされており,今回明らかになった本種の食性は,植食性から完全な菌食性へと移り変わる進化段階を示している可能性もある.

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