著者
松岡 智之
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.2-11, 2008-04-10 (Released:2017-08-01)

この論文で私は、森谷明子氏の推理小説『千年の黙 異本源氏物語』(二〇〇三年)が二〇世紀前半までの古典学の成果を再生させたことについて考察した。『千年の黙』は、『源氏物語』研究の成立論で生まれた仮説-「かかやく日の宮」という現存しない巻が元来あった-を素材とする。現在の研究ではこの仮説はあまり注目されないものの、森谷氏は大野晋氏の研究書(一九八四年)によって成立論を知り、その後風巻景次郎氏の説(一九五一年)に感銘して小説の素材にした。風巻説の論証過程と推理小説の型の類似性が森谷氏の感銘の原因とみなせる。『源氏物語』の成立論は、和辻哲郎が一九二〇年代にドイツ文献学のホメロス研究の方法を導入して始まったが、後にその方法は確実性を欠いてしまった。しかし、その不安定性こそが創作を導いたのであり、新たな研究の可能性を拓くとも考えられる。

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“ミステリと『源氏物語』研究 : 森谷明子『千年の黙(しじま)』から(<特集>日本文学協会第62回大会二日目文学研究の部 <文学>の黄泉がえり)” https://t.co/G1aR74I8nj

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