著者
保坂 和彦 井上 英治 藤本 麻里子
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第22回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.15, 2006 (Released:2007-02-14)

〔目的〕 野生チンパンジーがツチブタの死体に遭遇した事例を報告する。他の動物(チンパンジーを含む)の死体に遭遇したときの反応については、先行研究ないし未発表資料がある。これらと比較しつつ、本事例が「チンパンジーにおける異種・同種死体に対する反応」「狩猟における獲物認識」「初期人類における屍肉食仮説」といった話題に投げかける意味を論じたい。 〔資料と方法〕 調査地マハレ(タンザニア)の約40年の調査史において、チンパンジーがツチブタの死体に遭遇した事例は観察されていない。今回報告するのは、2005年8月17日(事例1)と9月3日(事例2)の2例である。前者は爪痕等からヒョウが殺したと推定される新鮮な死体、後者は死後4、5日の腐乱死体との遭遇であった。いずれも、野帳記録またはビデオ録画によるアドリブサンプリング資料である。〔結果〕(1)「恐れ」の情動表出と解釈される音声が聞かれた。とくに事例1においては遭遇直後にwraaが高頻度で聞かれ、たちまち多くの個体が集まった。(2)死体を覗き込んだり臭いをかいだり触ろうとしたりする好奇行動の一方で、忌避/威嚇をするというアンビヴァレントな反応が見られた。事例2については、未成熟個体のみが強い関心を示した。(3)屍肉食はいっさい起きなかった。〔考察〕(1)チンパンジーが死体に対して示す「恐怖」と「好奇心」が入り混じった反応の基本的なパターンには、死体の種による本質的な違いは見出されない。(2)チンパンジーに恐怖を喚起したものの実体としては、1.近傍にいると推測できる潜在的捕食者(ヒョウ)、あるいは死因としてのヒョウの殺戮行為、2.死因とは無関係に、「死体」あるいは「死体現象」、3.死体とは限らず、未知のもの、生得的に不安を呼び起こすもの一般、の三通りが挙げられる。(3)チンパンジーは狩猟対象ではない動物は屍肉食の対象としても認知しないらしい。

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