- 著者
-
林 達哉
- 出版者
- 日本口腔・咽頭科学会
- 雑誌
- 口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
- 巻号頁・発行日
- vol.23, no.1, pp.17-21, 2010 (Released:2010-09-01)
- 参考文献数
- 16
抗菌薬の適正使用の第一歩はウイルス性と細菌性を鑑別し, 細菌性疾患にのみ抗菌薬を投与することである. 咽頭・扁桃炎の場合, 膿栓や白苔の付着は細菌感染を連想させるが実際にはウイルス感染が多く注意が必要である. 扁桃炎の起炎菌として最も重要なA群β溶血連鎖球菌が起こす扁桃炎の診断には, 症状と所見のみならず, 迅速診断キットの結果, 場合によっては培養結果を参考にする必要がある.溶連菌性扁桃炎の抗菌薬治療として, 従来ペニシリン系の10日間投与がゴールドスタンダードとされてきた. しかし, 最近, セフェム系抗菌薬の方が除菌率が高く, 臨床的効果にも優れるとのメタ解析の結果が報告された. この報告に対する反論もすぐに発表され, 現在, ペニシリンvs. セフェムの議論が内外ともに盛んである. 溶連菌に関しては現在までのところ, ペニシリン系, セフェム系のいずれに対しても耐性株は出現していない. しかし, 扁桃炎に対して投与した抗菌薬が上咽頭細菌叢に与える影響も考えに入れる必要がある. セフェム系抗菌薬は小児急性中耳炎難治化の主因である中耳炎起炎菌の耐性化に大きく関わってきたとされる. セフェム濫用の反省から抗菌薬の適正使用が漸く緒に就いた本邦の現状もよくよく考慮に入れた上で, 抗菌薬の適正使用を進めていく必要がある.