著者
林 達哉
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.3, pp.168-174, 2014-03-20 (Released:2014-04-20)
参考文献数
9

2013年, 日米両国で小児急性中耳炎のガイドラインが改訂された. 本邦のガイドラインの基本骨格に変更はなかった. すなわち, 年齢, 症状, 鼓膜所見により疾患の重症度を決定し, 重症度に応じた一次抗菌薬選択と治療効果の有無による二次および三次抗菌薬へのスイッチが, 2006年の初版以来変わらぬ要点である. 一方, 米国のガイドラインは骨格にかかわる部分に大きな変更があった. すなわち, 従来と異なり, 急性中耳炎の診断は厳格な鼓膜所見が必須となった. 診断が抗菌薬治療に直結する構造となっているため, 本邦と同様, 厳格な鼓膜所見が治療選択に必須になったといえる. 本邦2013年版の主な変更点は, 治療効果判定時期が抗菌薬投与後3日に短縮された点と, 新規抗菌薬が中等症の三次治療および重症の二次と三次治療の選択抗菌薬候補に明示された点であろう. 何故, 米国のガイドラインは本邦のガイドラインに近い形に姿を変える必要があったのか, 本邦のガイドラインの変更点, 非変更点の意味するところは何かを理解することが, ガイドラインの最も重要な目的である抗菌薬の適正使用につながると期待される.
著者
野村 研一郎 片山 昭公 高原 幹 長門 利純 岸部 幹 片田 彰博 林 達哉 原渕 保明
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.58-63, 2016 (Released:2016-08-01)
参考文献数
6

Video-Assisted Neck Surgery(以下 VANS 法)は,前胸部外側に作成した皮膚切開部から皮弁を吊り上げることでワーキングスペースを作成し,内視鏡補助下で甲状腺切除を行う術式である。創部が衣服で隠れるため,若年女性にとって有益な術式であるが,特殊な手術器具を要するため,小児での報告は少ない。当科で2009年から VANS 法で手術を行った210例のうち15歳以下の小児 3 例を認めた。よって,これらの症例の治療経過と小児甲状腺結節に対する手術適応についての検討を行った。全例甲状腺に約 3 cm 大の充実性の結節性病変を認めており,全例合併症なく成人と同様に手術を行うことが可能であった。3 例とも摘出病理は良性の結果であったが,濾胞腺腫と思われた一例で,実際は濾胞癌であり,術後半年後にリンパ節転移を認めたため,手術を含めた追加治療が行われた。成人同様,3 cm を超えるような甲状腺結節の際には手術治療を念頭におく必要があると考えられ,VANS 法は小児にも適応可能であった。
著者
住吉 啓伸 吉岡 賢二 三島 修治 廣木 次郎 竜 彰 黒田 俊介 岩塚 良太 植島 大輔 水上 暁 林 達哉 木村 茂樹 松村 昭彦
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.344-350, 2020-03-15 (Released:2021-04-23)
参考文献数
14

Paget-Schroetter症候群は特発性鎖骨下静脈血栓症および付随する静脈性胸郭出口症候群を特徴とした疾患である.当院で異なる治療方針を選択した2例のPaget-Schroetter症候群を経験した.2例ともに右鎖骨下静脈の血栓閉塞に伴う右上腕の浮腫および肺血栓塞栓症を認め,1例は患者の意思から直接経口抗凝固薬による保存加療を選択し,もう1例は右第一肋骨部分切除術,右鎖骨下静脈内血栓摘除術,右鎖骨下静脈形成術を施行した.両症例とも治療後経過は良好である.本疾患はワルファリンによる抗凝固療法では再発が多いことが報告されており,根治的な手術療法が第一選択と考えられるが,本保存加療例は抗凝固薬に直接経口抗凝固薬を用い,再発なく経過している.Paget-Schroetter症候群に対する直接経口抗凝固薬による保存加療に関する報告は乏しく,その有効性を今後検証してゆく必要があると考えられる.
著者
関根 一郎 岸部 幹 高原 幹 片田 彰博 林 達哉 原渕 保明
出版者
日本鼻科学会
雑誌
日本鼻科学会会誌 (ISSN:09109153)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.169-174, 2021 (Released:2021-07-20)
参考文献数
21

神経内分泌細胞癌(neuroendocrine carcinoma; NEC)は頭頸部では比較的稀である。また,遠隔転移しやすい腫瘍としても知られている。2003年から2020年までに当科で経験した鼻・副鼻腔に発生した神経内分泌細胞癌について検討した。症例は7例で,男性4例,女性3例であり,年齢中央値は60歳(45歳~79歳)であった。原発部位は上顎洞3例,篩骨洞2例,蝶形骨洞1例,鼻腔1例であった。治療は化学放射線療法が中心で,手術治療が行われたのは2例のみであった。7例中1例は1次治療が奏功せず原病死となった。他の6例は全例で1次治療が奏功した。1次治療が奏功した6例のうち,2例が5年無病生存となったが,3例が遠隔転移をきたし原病死し,1例は他病死となった。鼻・副鼻腔原発のNECは手術や化学放射線療法による局所制御は比較的良好であるが,遠隔転移をきたす症例が多く,遠隔転移の制御が予後に関与すると考えられた。
著者
林 達哉
出版者
日本鼻科学会
雑誌
日本鼻科学会会誌 (ISSN:09109153)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.118-120, 2019 (Released:2019-04-23)
参考文献数
3
著者
高原 幹 板東 伸幸 今田 正信 林 達哉 野中 聡 原渕 保明
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.104, no.11, pp.1065-1070, 2001-11-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
12
被引用文献数
9 7

尋常性乾癬7例に対する扁摘の効果とその病理学的特徴について検討した. 7例の内訳は男性3例, 女性4例であり, 年齢は9歳から46歳であった. 扁摘による効果は3例が消失, 2例が著効であり, 治療効果は約70%に認められた. 病理学的な検討として, CD20抗体と抗ssDNA抗体による扁桃組織の免疫染色を行い, B細胞, T細胞, BT混合領域の面積とB細胞領域のアポトーシス細胞数を測定した. その測定値を習慣性扁桃炎, IgA腎症, 掌蹠膿疱症と比較した. 結果は, 乾癬と掌蹠膿疱症において有意なT領域の拡大, Bリンパ濾胞の縮小, リンパ濾胞内でのアポトーシス細胞の増加が認められた. このような結果から, 乾癬の中には, 臨床的のみならず組織学的にも掌蹠膿疱症と同様に扁桃病巣感染症の特徴を持つ症例が存在することが示唆された. また, 掌蹠膿疱症, IgA腎症, 乾癬症例における消失群と著効・改善群を比較すると, 消失群では有意にT領域の拡大を認めた. このような結果から, T領域の測定は術後の扁摘効果を反映する組織学的検査に成り得る可能性が期待された. 今後症例数を増やし更なる検討を加える予定である.
著者
林 達哉
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.17-21, 2010 (Released:2010-09-01)
参考文献数
16

抗菌薬の適正使用の第一歩はウイルス性と細菌性を鑑別し, 細菌性疾患にのみ抗菌薬を投与することである. 咽頭・扁桃炎の場合, 膿栓や白苔の付着は細菌感染を連想させるが実際にはウイルス感染が多く注意が必要である. 扁桃炎の起炎菌として最も重要なA群β溶血連鎖球菌が起こす扁桃炎の診断には, 症状と所見のみならず, 迅速診断キットの結果, 場合によっては培養結果を参考にする必要がある.溶連菌性扁桃炎の抗菌薬治療として, 従来ペニシリン系の10日間投与がゴールドスタンダードとされてきた. しかし, 最近, セフェム系抗菌薬の方が除菌率が高く, 臨床的効果にも優れるとのメタ解析の結果が報告された. この報告に対する反論もすぐに発表され, 現在, ペニシリンvs. セフェムの議論が内外ともに盛んである. 溶連菌に関しては現在までのところ, ペニシリン系, セフェム系のいずれに対しても耐性株は出現していない. しかし, 扁桃炎に対して投与した抗菌薬が上咽頭細菌叢に与える影響も考えに入れる必要がある. セフェム系抗菌薬は小児急性中耳炎難治化の主因である中耳炎起炎菌の耐性化に大きく関わってきたとされる. セフェム濫用の反省から抗菌薬の適正使用が漸く緒に就いた本邦の現状もよくよく考慮に入れた上で, 抗菌薬の適正使用を進めていく必要がある.
著者
野澤 はやぶさ 國部 勇 柳内 充 片田 彰博 林 達哉 野中 聡 原渕 保明
出版者
The Society of Practical Otolaryngology
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 (ISSN:00326313)
巻号頁・発行日
vol.96, no.1, pp.9-13, 2003-01-01
被引用文献数
1

Anti-phospholipid syndrome (APS) was first reported by Harris in 1985 as one of a variety of clinical features associated with episodes of arterial or venous thrombosis. We report a rare case of acute sensorineural hearing loss due to APS. A 40-year-old woman complained of acute sensorineural hearing loss. She had been diagnosed with APS because of positivity for serum anti-phospholipid antibody and 3 episodes of natural abortion. The hearing loss was improved by treatment with predonisolone, but after 4 months, hearing loss recurred. Since she refused steroid therapy and anticoagulation therapy, continuous administration of aspirin was performed. Six months later, her hearing had recovered. If a patient presents with sudden sensorineural hearing loss, it is important to suspect APS and inquire into histories such as thrombosis and recurrent abortion.
著者
高原 幹 野澤 はやぶさ 岸部 幹 柳井 充 片山 昭公 今田 正信 林 達哉 野中 聡 原渕 保明
雑誌
耳鼻咽喉科免疫アレルギー (ISSN:09130691)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.84-85, 2003-06-30

著作権は学会に属す出版社版旭川医科大学医学部付属病院耳鼻咽喉科にて掌蹠膿疱症群の扁桃摘出術で得られた口蓋扁桃を用いて,RT-PCRでSmad 7 mRNA過剰発現を蛋白レベルで検討した.Smad 7のウエスタンブロットにより,掌蹠膿疱症群にてバンド濃度の上昇が認められた.CD3,α-Tublinのバンド濃度は比較的均一であった.Smad 3のウエスタンブロットでは,疾患群間に明らかな差は認められなかった.α-Tublinで補正後したバンド濃度の解析で,掌蹠膿疱症扁桃Tリンパ球においてSmad 7蛋白が有意に過剰発現していた