著者
杉山 幹雄
出版者
日本海水学会
雑誌
日本塩学会誌 (ISSN:03695646)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.128-136, 1961 (Released:2013-05-17)
参考文献数
7

(1) 各種無機塩類の単独飽和溶液の組成および蒸気圧に関する既存のデータについて調査した結果, 一般的な関係が存在することを知り, この知見に基ずいて混合飽和溶液の組成と蒸気圧に関する数ケの仮定を立てて検討した. 実験は湿度を測定する間接的な方法であり, 簡便な装置を考案して用いた. 実験誤差は全データについて±2%以内である.(2) 各種無機塩類の単独飽和溶液における蒸気圧降下ΔPn (mmHg, 脚符号nは塩の種類を示す. 以下同様) とイオン濃度ZnCn (Cnはモル濃度mol/1,000 molH2O, Znは1分子当りのイオン数) の間には温度をt (℃) とすると, 多少の例外はあるが次の関係がある.ΔPn=b・10aZnσna=-0.0000320t+0.00565b=0.0130・100.00734t・Psただし, Psはt℃における飽和蒸気圧 (mmHg) である.(3) 無機塩類の混合飽和溶液の蒸気圧降下についてはダルトンの分圧の法則に類似した理論が成立する. すなわち, 蒸気圧降下ΔP (mmHg) は各塩の蒸気圧に関する分降下ΔP'n (mmHg) の和に等しく, 式で表わすとΔP=ΣΔP'nである. ただし, 上式においてΔP'n=C'n・ΔNnであつて, C'nは混合飽和溶液中における各塩のモル濃度であり, ΔNnは各塩の蒸気圧に関する分子降下であつて下式により求められる.ΔNn=ΔPn/CnΔPnのtに対する変化は前述のとおりであるから, ΔNn, ΔP'n, ΔPのtに対する変化も全く同様である.(4) 食塩その他の無機塩類の結晶において不純分がその吸放湿性におよぼす影響は, 従来定性的にばくぜんと表わされていたにすぎないが, これを各塩の蒸気圧に関する分子降下という形で定量的に表現することができた. 希薄な水溶液においては蒸気圧降下は溶質の種類に関係なく濃度により定まるが, 飽和溶液においては各塩に特有な蒸気圧降下作用, すなわち分子降下がある. これはイオンの水和現象に関する考察により解釈することができる.(5) 食塩の表面は食塩を液底体の一部とする食塩と不純分との混合飽和溶液の薄膜で覆われていると見なされるので, 本報の理論により食塩表面の呈する蒸気圧, 吸放湿速度等は不純分組成と水分から求められ, また外囲の湿度変化に応じた食塩の溶解析出量および吸放湿量等を不純分組成から算出することもできる.本報の理論は食塩以外の無機塩類の結晶に対しても適用できることは明らかである. 本報の理論による固結現象の定量的解析は続報において行なう予定である.

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