- 著者
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井鷺 裕司
- 出版者
- 日本生態学会暫定事務局
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.1, pp.89-95, 2010 (Released:2011-03-28)
タケ類の生活史は、長期間にわたる栄養繁殖と、その後の一斉開花枯死で特徴づけられる。タケ類に関しては、地下茎の形態と稈の発生様式、開花周期と同調性、開花後の株の振舞いなどにいくつかのパターンが知られており、それぞれの特徴をもたらした究極要因や至近要因が解析・考察されてきた。しかしながら、タケ群落で観察される繁殖生態上の特性は、種が本来的に持つ特徴というよりは、たまたまその地域に人為的に導入された系統の性質であったり、あるいは群落を構成するクローン数が極端に少ないという事に起因する可能性がある。また、タケ類は開花周期が長いため、世代交代時に働く選択のフィルターが機能する頻度も低く、人為による移植の影響や移植個体群の遺伝的性質が長期間にわたって維持される可能性も高い。本論では、単軸分枝する地下茎を持つマダケ属(Phyllostachys)とササ属(Sasa)、仮軸分枝する地下茎を持つBambusa arnhemicaの事例をとりあげ、群落の遺伝的多様性の多寡と開花同調性の有無に基づいて、開花現象を4つのタイプにわけ、タケ類の繁殖生態研究で留意すべき点を考察した。