- 著者
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下屋 聡子
牧野 邦彦
大村 文秀
天津 睦郎
- 出版者
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
- 雑誌
- 日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
- 巻号頁・発行日
- vol.101, no.8, pp.1029-1037, 1998-08-20
- 参考文献数
- 23
- 被引用文献数
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ヒトの弛緩部型真珠腫は弛緩部が内方に向かって伸展陥凹し嚢状となって,その中に表皮角化物をいれた状態をいう.モンゴリアンジャービル(以下ジャービル)は高率に真珠腫を自然発生する動物であり,その真珠腫では一見ヒトの外耳道真珠腫に類似した所見を呈する。その一方で本動物では鼓膜弛緩部表皮が肥厚角化し,弛緩部内側に貯留液を認め真珠腫へ進展する所見が報告されている.このジャービルの弛緩部の変化がヒトの弛緩部型真珠腫の実験モデルとして適するかを確認するため予備実験を行った.その結果,無処置耳および耳管咽頭口焼灼耳で弛緩部表皮の肥厚角化と同時に弛緩部の内陥が出現し,その弛緩部内陥部を中心として表皮角化物の堆積が高率に認められた.このような病態は,ヒトの弛緩部型真珠腫と類似した所見である.<br>次にヒトの弛緩部型真珠腫形成要因を明らかにすることを目的にジャービルを用いて以下の実験を行った.<br>対象は13匹22耳で,上皮の増殖能をBrdUを用いて検討し,中間層の変化を血管数を指標として墨汁灌流により算出た.BrdU陽性細胞数(以下陽性細胞数)は鼓膜弛緩部粘膜層において初期変化耳では正常耳と比較すると有意に増加し,真珠腫耳では変化はなかった.緊張部,外耳道表皮では真珠腫形成過程で陽性細胞数の増加する傾向は認めなかった.また鼓膜弛緩部の血管数は初期変化耳で有に増加し,特に粘膜側に多く認められた.鼓膜緊張部の血管数は少数であり,真珠腫形成過程で増加する傾向は認められなかった.<br>これらのことから真珠腫形成過程では初期変化耳の鼓膜弛緩部粘膜層において最も増殖能が亢進していることが明らかとなつた.この変化に対応して,鼓膜弛緩部の漸生血管が増加したと考えられた.このような弛緩部粘膜層の変化は弛緩部内側の貯留液が刺激となって生じると思われた.