- 著者
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永松 有紀
- 出版者
- 九州歯科学会
- 雑誌
- 九州齒科學會雜誌 : Kyushu-Shika-Gakkai-zasshi (ISSN:03686833)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.3, pp.515-531, 1996-06-25
- 被引用文献数
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B型肝炎ならびにエイズの知識が広まるに伴って, 院内感染対策に大きな関心がもたれるようになった.印象は血液あるいは唾液の混入による感染の危険性が高いため確実に滅菌する必要があるが, 消毒・滅菌方法の中には, 印象および模型の寸法ならびに表面性状に影響をおよぼすものがある.本実験では, 顕著な殺菌効果であり, 歯科臨床においても広く用いられるようになった電解酸性水のアルジネートおよびシリコーンゴム印象に対する適切な滅菌方法を考察するために, 種々の処理を施した場合の殺菌効果を調べた.印象採得時に, プラスチック原板(1.0×10^6個の生菌を塗布)からアルジネート印象に4.0×10^5個(40.0%), シリコーンゴム印象表面には2.1×10^5個(21.0%)の生菌が付着した.蒸留水によりこれらを処理した場合に, シリコーンゴム印象では物理的作用により4.5×10^2個(0.2%)まで除菌可能であった.電解酸性水は, アルジネート印象に対して浸漬・超音波洗浄あるいは洗浄後浸漬の処理で, シリコーンゴム印象ではこれらに洗浄・スプレー噴霧およびガーゼによる拭き取りを加えたすべての処理により100個以下に生菌数は低下しており, 顕著な殺菌効果を示した.電解酸性水によるアルジネート印象材の練和を行った場合には殺菌効果はまったくみられなかった.印象の採得時に, ほとんどの菌はアルジネート印象の表面から1mm深さまで浸入しており, 1∿3mm深さではわずかな菌が点在しているだけであった.一方, シリコーンゴム印象では菌の浸入は認められなかった.電解酸性水への単純な浸漬はわずか1分間で被検菌を数個までに減少させており, 超音波洗浄の物理的効果を付加した場合と比較して有意差はみられなかった.浸漬処理を行う前に洗浄による前処理を行うことで, いずれの印象でも菌は検出されず, この組合わせ処理により印象表面を無菌状態にできた.以上の結果より, 電解酸性水はアルジネートおよびシリコーンゴム印象に高い殺菌効果を示すことが示唆された.