著者
加藤 元一郎
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 : 日本高次脳機能障害学会誌 = Higher brain function research (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.311-318, 2011-09-30
参考文献数
31

前頭前野の損傷では, 特定の記憶障害は生じるが, エピソード記憶の障害である健忘症候群は生じない。前頭前野損傷で生じる特定の記憶障害は, 一言でいうとワーキングメモリの障害であり, 短期記憶システム内にコードされた情報 (表象) の保持とその処理・操作の障害である。前頭前野の障害では健忘が生じないが, 長期記憶のコード化と検索におけるある特殊な側面の障害, すなわち, 時間的順序の記憶障害, 虚記憶の亢進, 展望記憶の障害などが認められることが示唆されている。前頭前野損傷で見られるワーキングメモリの障害に関連して, 動物で見られる前頭葉ドーパミンD1 受容体刺激とワーキングメモリ反応との間の逆転 U 型曲線が, ヒトにおいて, 前頭葉ドーパミン D1 受容体結合能とワーキングメモリ関連の遂行機能検査の成績との間でも認められることを示した研究を紹介した。

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