著者
田中 春美
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.207-214, 2005 (Released:2007-03-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

みずからの経験をもとに, 日本高次脳機能障害学会会員の言語聴覚士と学会へいくつかの提言をした。言語聴覚士へ : (1) 経験年数が同じくらいの仲間と症例検討を行う, (2) ありのままの症状を検討する, (3) 自分たち自身で考え工夫して専門性を高める, (4) 学会で良い発表や良い質問をして, 学会の発展に寄与する。学会へ : (1) 高次脳機能障害を対象とする専門家の認定をしてほしい, (2) 医師も興味を持つ内容の講習会を開催してほしい, (3) 学会総会での発表会場を減らして2つにしてほしい。
著者
小西 海香
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.207-213, 2016-06-30 (Released:2017-07-03)
参考文献数
10

顔認知の障害を示す発達障害として, 先天性相貌失認がある。先天性相貌失認では, 視覚障害や知的機能障害, 脳の器質的損傷がないにもかかわらず, 顔という視覚刺激から人物を特定することが困難である。この顔認知の障害はholistic processing の障害であると考えられている。「人の顔を覚えられない」という顔認知の障害は自閉スペクトラム障害でも認めることがある。先天性相貌失認の2 症例を紹介し, 顔再認課題の成績と課題中の視線パターンを自閉スペクトラム障害症例の結果と比較した。その結果, 先天性相貌失認と自閉スペクトラム障害では顔認知障害のメカニズムは異なる可能性が推察された。
著者
鶴谷 奈津子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.261-268, 2011-09-30 (Released:2012-10-13)
参考文献数
29

パーキンソン病 (Parkinson's Disease : PD) は運動症状を主体とする疾患であるが, 近年ではさまざまな非運動症状をきたすことが報告され, 注目を集めている。本稿では, 多岐に渡る PD の非運動症状の中でも認知機能障害に焦点を当て, とくに社会的認知機能について詳しく述べる。社会的認知とは, 他者の情動表出や内的な心理状態などのコミュニケーションに重要な情報処理を担う, よりよい人間関係を築くために必要な機能である。これまでの研究により, PD 患者では他者の表情を見て情動を読み取る表情認知や, 損得の情報を学習し適切な行動を選択する意思決定過程において, 健常者とは異なるパターンが観察されている。また最近では, 社会的認知の重要な基盤のひとつである「心の理論」機能の障害の有無が検討されている。これらの認知機能障害は PD 患者の日常生活や社会活動に影響を及ぼす可能性があり, 慎重に評価する必要があると思われる。
著者
山里 道彦 佐藤 晋爾 池嶋 千秋 朝田 隆
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.200-208, 2006 (Released:2007-07-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

Ponsford の提唱した「談話障害」に該当する症例を経験した。  症例は 37 歳男性で,脳外傷慢性期に,注意障害と記憶障害,遂行機能障害がみられた。脳外傷の部位は,両側前頭前野背内側部,右側頭葉外側部および右扁桃体であった。当症例の発言の特徴は a) 話がまわりくどい,b) 場にそぐわない話題を選ぶ,c) 自分のことを一方的に延々と話し続ける,d) 聞き手の不快感を考慮しないことの 4 点であった。これに起因して,対人関係の面で支障をきたしてきたものと思われた。こうした問題は,遂行機能障害,情動の認知障害,それに言動の自制困難の要素が合わさって生じる特有の臨床像と考察された。
著者
大東 祥孝
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.295-303, 2009-09-30 (Released:2010-10-01)
参考文献数
27
被引用文献数
2 1

広義の病態失認について,その臨床像と発現機序に論及した。(1) 皮質盲や皮質聾に対する Anton 症状,(2) ウェルニッケ失語における病識の欠如,(3) 健忘症状における病態失認,(4) 左半身麻痺の否認としてみとめられる Babinski 型病態失認,について述べ,とりわけ,(4) については,これを「身体意識」の病態と考える視点が重要であることを指摘した。身体図式と身体意識を区別し,前者は Edelman のいう「高次意識」に帰属する象徴的水準における身体像であって,その病理が自己身体失認や手指失認であるのに対し,後者は,「一次意識」に帰属するものであって,言語的判断の要因を含まない直接的で無媒介な自己意識に裏打ちされた,自己身体への背景的な気づきによって特徴づけられるような身体像であり,「身体意識」が右半球優位 (右半球:両側身体,左半球:右半身) に構造化されていると仮定することで,(4) の発現機序が説明可能になることを述べた。
著者
水田 秀子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.8-15, 2006 (Released:2007-04-01)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

呼称において多彩な誤りを呈した 1 例を検討した。症例は 77 歳,女学校卒の女性,クモ膜下出血による左側頭葉損傷後に失語症を呈した。理解は聴覚・視覚とも良好だった。自発話は構音障害なく流暢で,喚語に窮することはあるも,錯語はほとんど認めなかった。呼称では,形式性錯語 ( formal paraphasia ) ・意味性錯語・音韻性錯語・混合性錯語 ( mixed paraphasia ) などの多様な錯語を呈した。また,同時に目標語の音形の一部が産生される現象が顕著に認められた。復唱は保たれ,呼称にみられる誤りをまったく認めなかった。音読ではかなは保たれたが,漢字音読では呼称に似た誤りを呈した。漢字語の意味理解は良好だった。本例の示した呼称の詳細と経過の検討から,本例に認められた形式性錯語は,音断片と類似の基盤を有し,目標語彙の音韻形式の喚起にかかわる障害がその一因と推察された。さらに,形式性錯語の産生を促した要因に関し内的モニターなどの観点から考察した。
著者
辰巳 寛 山本 正彦 仲秋 秀太郎 波多野 和夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.514-524, 2012-09-30 (Released:2013-10-07)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

失語症者とのコミュニケーションに対する家族の自己効力感評価尺度を開発した。予備調査による内容的妥当性の検証を経て, 16 項目からなるコミュニケーション自己効力感尺度 (Communication Self-Efficacy Scale : CSE) の原案を作成した。本調査では, 失語症者の家族介護者86 名にCSE と一般性セルフ・エフィカシー尺度 (GSES) , Zarit 介護負担感尺度 (ZBI) , コミュニケーション介護負担感尺度 (COM-B) , 抑うつ評価尺度 (GDS-15) を実施した。その結果, CSEの欠損値比率は0.7 %で, 天井・床効果を示した項目はなく, Good-poor 分析にて全項目の識別力を確認した。探索的因子分析では3 因子が抽出され因子的妥当性を確認した。CSE 総得点とGSES, ZBI との相関はそれぞれrs = 0.215, -0.335, COM-B (4 因子) との相関はrs =-0.317 ~-0.440 と有意であった。CSE のCronbach's α係数は0.938 で内的整合性は優れていた。CSE は失語症者とのコミュニケーション場面に特化した家族の自己効力感を評価する尺度として高い妥当性と信頼性を有しており, 臨床的有用性を十分に備えたスケールであると判断した。
著者
豊倉 穣
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.320-328, 2008-09-30 (Released:2009-10-27)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

注意障害に関する臨床的事項を概説した。軽微な注意障害はADL に影響せず,臨床上見逃されることが少なくない。日頃から注意障害を疑う姿勢が重要である。日本高次脳機能障害学会は日本人で標準化された標準注意力検査を開発した。Trail Making Test もよく用いられる課題である。非利き手での成績が利き手での動作と同等に扱えること,施行時間は動作プロセスより認知プロセスに大きく依存すること,などの報告がある。日常生活の問題に還元しやすいとの利点から,注意障害の行動評価も検討されている。一例として著者の考案したBAAD(Behavioral Assessment of Attentional Disturbance)を紹介した。認知リハビリテーションとして多くのプログラムが紹介されている。APT(Attention Process Training)およびより軽症例を対象とするAPT IIは特異的に注意障害を改善する訓練プログラムとして開発されたものである。

6 0 0 0 OA 視覚失認

著者
太田 久晶
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.271-276, 2010-06-30 (Released:2011-07-02)
参考文献数
11

視覚失認は,統覚 (知覚) 型と連合型に古典分類で分けられていたが,視覚情報の処理過程にもとづいて,近年,これら 2 つのタイプに統合型を加えた 3 つのタイプによる症状分類が提唱された。病巣分析より統覚 (知覚) .型は両側内側後頭皮質が,統合型と連合型は左内側側頭後頭皮質が責任部位として報告されている。その一方で,脳機能画像研究において,外側後頭皮質が視覚形態処理に関与することが明らかとなっている。これらの結果を総合すると左内側後頭皮質から外側後頭皮質までの経路が著しく損傷されると統覚 (知覚) 型となり,この経路が部分的にでも機能していれば統合型となると考えられる。また,左外側後頭皮質までの経路は保たれているものの,そこから吻側の経路に損傷があれば連合型になると考えられる。このように,視覚情報の神経経路を推定することによって,3 タイプの視覚失認のそれぞれに対する責任部位は理論上,説明可能であった。
著者
藤田 郁代
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.1-11, 2013-03-31 (Released:2014-04-02)
参考文献数
45
被引用文献数
1 1

統語機能は非常に複雑な機能であり, その障害は多様な現れ方をする。統語機能の神経学的基盤を解明するには単純な局在論を超えたアプローチが必要と考えられる。本稿では統語障害のうち表出面の問題である失文法を取り上げ, 近年の研究の動向を解説した。次に自験例を用いて日本語の表出面における統語障害を分析し, その特徴と発現メカニズムについて検討した。その結果, 統語障害には複数のパタンがあり, これには動詞, 動詞の項構造, 統語構造, 格助詞, 助動詞の処理が関係すると考えられた。病変部位との関係については統語構造の構成障害には左前頭葉下部の病変が関与し, 格助詞と動詞の障害には左側頭葉病変も関与する可能性が示された。統語機能は単一の脳部位のみに依存するのではなく, 複数の脳部位からなる神経ネットワークの協調作用に支えられていると考えられる。
著者
松元 健二
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.165-174, 2014-06-30 (Released:2015-07-02)
参考文献数
28

内発的に動機づけられていた課題に対して,成績に応じた外的金銭報酬を付加すると,内発的動機は低下する(アンダーマイニング効果)。内発的に動機づけられて課題を行っているときは,外的金銭報酬がなくても,課題開始の合図に対して前頭前野外側部が反応し,課題をうまくこなすことができただけで線条体が反応したが,アンダーマイニング効果によって内発的動機が低下すると,課題開始の合図に対する前頭前野外側部の反応も,課題をうまくこなすことができたときの線条体の反応も,外的金銭報酬なしには見られなくなった。課題で用いる道具を指定されたときと自分で選んだときとでは,後者を人は好み,課題成績も高い。指定されたときは,課題に失敗すると前頭前野腹内側部の活動が顕著に下がったが,自分で選んだときにはそのような活動低下は見られなかった。これらの結果は,内発的動機づけとその変動には,前頭前野の外側部と腹内側部そして線条体が重要な役割を果たしていることを示唆している。
著者
小野 武年 西条 寿夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.116-128, 2005 (Released:2006-07-14)
参考文献数
40
被引用文献数
2 3

近年, 理性的な情報処理に中心的な役割を果たしていると考えられてきた前頭葉が, 感情や情動発現においても重要な役割を果たしていることが注目されている。すなわち, 1) 前頭葉背外側部は, 情動や感情に中心的な役割を果たしている大脳辺縁系の活動を制御 (抑制, あるいは促進) することにより, その個体が生存する確率を上げるように機能している, 2) 眼窩皮質は, すべての外界環境情報を脳内に再現し, それにもとづいて生物学的な行動戦略を形成することに関与する, 3) 前部帯状回は, 前頭葉背外側部や眼窩皮質からの高次情報を受けて, 自己の行動を生物学的に評価し, 適切な行動を導くことに関与していることなどが示唆されている。本稿では, これら領域のヒトの神経心理学的な研究やサルを用いてニューロン活動を記録した研究を紹介し, これら前頭葉の機能について考察する。
著者
菊池 大一
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.319-327, 2011-09-30 (Released:2012-10-13)
参考文献数
30

解離性健忘は, 脳の器質的損傷ではなく, 精神的ストレス・外傷を契機として発症し, 自伝的記憶を想起することが持続してできない状態をいい, 心因性あるいは機能性健忘とも呼ばれる。解離性健忘は従来, 精神医学的な視点から論じられてきたが, 近年は神経科学的なアプローチがなされ, とくに機能画像を用いた研究により脳の水準での機能異常が示されるようになってきた。解離性健忘の脳内機序として, 前頭葉の遂行機能システムの活動による内側側頭葉の記憶システムの抑制という説, 自伝的記憶の想起の始動に関わる右半球の前頭-側頭領域の機能的離断という説があり, 最近の研究からはそれぞれを支持する結果がともに得られている。本稿では解離性健忘の神経基盤について, 機能画像研究の結果を中心に最近の神経科学的知見をまとめ, 神経学的な視点から概説し考察する。
著者
小林 康孝 筒井 広美 木田 裕子 大嶋 康介 富田 浩生
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.581-589, 2012-12-31 (Released:2014-01-06)
参考文献数
20

軽度外傷性脳損傷 (MTBI) は, 診断が困難な故に診断までに時間を要する。MTBI による高次脳機能障害の場合, さらにその診断は困難で時間を要し, 発症早期のリハビリテーションを受けずに病院を渡り歩く症例が多い。今回, MTBI により高次脳機能障害を来した 3 例をもとに, その問題点を検討した。症例 1 は, 診断までに時間を要し, 十分なリハビリテーションを受けられなかった。また病態に対する家人の理解が不十分であることが, 本人の負担を重くしていた。症例 2 は身体症状の訴えが多く, 十分なリハビリテーションを行えなかった。また, 自賠責保険の等級認定に関する裁判を抱えている。症例 3 は神経心理学的検査結果からの客観的所見はないが, 記憶障害等の自覚症状が強く, ドクターショッピングを続けた。3 症例とも頭部 MRI 上は明らかな異常を認めなかった。今後 MTBI による高次脳機能障害者への支援を進めるには, 病態の解明, 医療従事者の理解, 画像診断の進歩が望まれる。
著者
鈴木 雄介 種村 留美
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.38-46, 2012-03-31 (Released:2013-04-02)
参考文献数
22
被引用文献数
1

外傷性脳損傷患者の多くは神経行動学的変化を生じ, そのために家族介護者の多くが抑うつや不安などの心理学的苦痛を抱えている。本研究の目的は外傷性脳損傷患者の家族介護者の心理学的苦痛の軽減を図るための介入プログラムの効果を検証することである。16 名の参加者に週 1 回, 1 回4 時間で全 5 回の介入プログラムを実施した。内容は外傷性脳損傷の基礎知識, 高次脳機能障害への対応方法, アサーティブネストレーニングを応用したコミュニケーション技法訓練を中心に構成した。効果判定は GHQ-30, SDS, STAI, RAS を評価尺度とし, 介入前後およびフォローアップ (3 ヵ月後と 6 ヵ月後) の時点で分析した。介入前後およびフォローアップの分散分析では SDS は介入前とフォローアップ 6 ヵ月後に, STAI (状態不安) は介入前と介入後における平均値の比較で統計学的に有意な減少を認めた。
著者
望月 聡
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.263-270, 2010-06-30 (Released:2011-07-02)
参考文献数
29
被引用文献数
2

古典的失行とされる観念性失行 / 観念運動性失行の分類を再考する試みを行った。はじめに,臨床場面において病態把握のための検査を施す際に考慮すべき,行為のカテゴリー,入力刺激提示様式・出力様式,誤反応分析の3 つの観点を整理した。次に,Liepmann モデルから Rothi-Ochipa-Heilman モデルまでの拡張の経緯を概観したうえで,失行症状が出現すると想定される7 つの原因を示し,症状発現機序を考察するうえでの有用性を論じた。最後に,他の高次脳機能障害と失行症状 (行為表出障害) との関連について言及し,むしろ積極的に他の高次脳機能との関係で「行為」を捉える視点の必要性を論じた。これらの理由から,観念性失行 / 観念運動性失行の分類体系は,今日の視点からみると症状を過度に矮小化して捉えてしまうおそれがあり,症状も発現機序も適切に把握することができないことから,解体すべきであると思われた。
著者
梅田 聡
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.265-270, 2016-06-30 (Released:2017-07-03)
参考文献数
25

情動に関する神経科学的アプローチによる研究は, 近年, 急速に発展しており, その背景にあるメカニズムについて, さまざまな事実が明らかにされつつある。情動のメカニズムを理解するうえで特に重要な点は, (1) 情動は, 精神活動と脳活動だけでは捉えきれず, 自律神経を介した身体活動に着目する必要があること, (2) 脳活動について検討する際, 関連する脳部位レベルの局在論に限定せず, ネットワークとして理解すべきであること, の 2 点である。本稿では, 情動に関連する概念についてまとめ, 関連する脳部位とネットワークの機能に焦点を当てる。そして, 共感という側面から, 各ネットワークがどのように関与しているかについて考察する。

3 0 0 0 OA 失語 : 書字面

著者
佐藤 睦子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.198-204, 2011-06-30 (Released:2012-07-01)
参考文献数
5

文字の読み書き機能は口頭言語の獲得と密接に関わっている。そのため,「聴く」・「話す」・「読む」・「書く」のすべての言語様式が何らかの機能低下をきたす失語症の場合,書字の症状には書字機能自体の問題のみならず語想起障害など他の言語様式の困難さが反映されることが少なくない。書字の脳内機構を論じた大槻 (2006) によれば,書字達成には左中前頭回,左頭頂葉 (上頭頂小葉,角回) ,左側頭葉後下部がさまざまなレベルで関与している。これらの領域は失語症をもたらす Broca 野や Wernicke 野に隣接していることから,失語症例で書字障害をきたすのは必然である。本論では,失語症におけるさまざまな書字障害の実例を提示した。
著者
中島 明日佳 船山 道隆 小嶋 知幸 稲葉 貴恵 川島 広明 青木 篤美
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.439-448, 2011-12-31 (Released:2013-01-04)
参考文献数
37
被引用文献数
1

語義失語は, 井村 (1943) が, 日本語の特性を考慮した上で超皮質性感覚失語を捉え直した失語型であり, (1) 良好な復唱能力, (2) 言語理解障害, (3) 語性錯語を伴う発話障害, (4) 特徴的な漢字の障害, などを特徴とする。近年, 前頭側頭葉変性症の 1 亜型である意味性認知症 semantic dementia (SD) に伴う失語型として論じられることが多いが, 語義失語と意味記憶障害との関連は十分には調べられていない。今回われわれは, 静脈性の脳梗塞によって左側頭葉を前方から広範に損傷した後, 語義の理解障害と喚語困難を中核とする語義失語 (超皮質性感覚失語) を呈した 1 例について, 意味記憶の検討を行った。その結果, われわれが調べ得た範囲で, 意味記憶障害を示唆する所見は認められなかった。以上より, (1) 語義失語=SD ではないこと, (2) 記号である語彙項目とリファレントである意味記憶との間の相互の記号変換 (coding) の障害が存在すれば, 語義失語の定義を満たす失語像が出現することを指摘した。
著者
熊崎 博一
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.214-218, 2016-06-30 (Released:2017-07-03)
参考文献数
29

嗅覚機能は, 危険認識, 生殖活動の誘発をはじめ多岐にわたりそのいずれもが生命を営むにあたり重要な機能となっている。アルツハイマー型認知症や統合失調症では予後の予測因子として嗅覚は注目を集めている。自閉スペクトラム症 (Autism Spectrum Disorder: ASD) においてもDSM-5 (American Psychiatric Association 2013) において, 嗅覚をはじめとした感覚の問題が診断基準に取り上げられた。 現在までの質問紙を用いた嗅覚研究では, 質問紙を用いた感覚スコアと自閉症の程度との間に相関関係があることがわかっている。臨床場面において認めるASD 児の嗅覚特性は社会機能との関係が示唆される。 一方で自叙伝では嗅覚に関する記述は少なく, 生理的な指標を用いた嗅覚検査の結果も一貫したものとはなっておらず課題も多い。嗅覚特性を把握し, 支援を行うことでASD 者の大幅なQOL 改善につながる可能性があり今後の研究が待たれる。