著者
杉山 純一 蔦 瑞樹
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.457-465, 2013-09-15
参考文献数
16
被引用文献数
5

光の指紋の説明をする前に,まず既存の蛍光という現象を説明する。通常,蛍光とは,図1(左)に示すように,ある特定波長成分だけからなる光(励起光)を試料に照射し,それによって生じる様々な波長の光(蛍光スペクトル)のことを指す。日常では,蛍光灯の白色光は,蛍光管の内側から目に見えない短波長の光が蛍光管内側に塗られた蛍光体に照射され,白色光を生じる蛍光現象である。また,よく遊園地のお化け屋敷などの暗闇で,ブラックライトという,これも目に見えない光が白いYシャツにあたると,青白く光ってみえるのも,洗剤やシャツ等に含まれるリン(p)による蛍光現象である。そして,このような蛍光現象を利用して,さまざまな化学成分の判別・定量を行うのが蛍光分析法である。しかし,この場合は,刺激(特定の励起波長)が1種類,それに対する応答(蛍光スペクトル)が1本というひと組の刺激と応答の情報を解析することになる。しかしながら,情報は多ければ多いほど,その中に含まれる有用な情報が抽出できる可能性が高い。そこで,情報量を多くすることを考える。それには,刺激を複数にし(つまり,複数の励起波長を順次走査して照射),それに対する応答(蛍光スペクトル)も複数本,得られれば,図1(右)のような3次元の膨大な情報が得られる。この3次元データを上から見れば,等高線図のようなパターンが観察される。このパターンは,その試料特有の蛍光特性が全て表現されたものと考えられ,蛍光指紋(Fluorescence Fingerprint),または励起蛍光マトリクス(Excitation Emission Matrix)と呼ばれ,本稿が主題とする「光の指紋」である。

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