- 著者
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恒川 磯雄
- 出版者
- 全国農業構造改善協会
- 雑誌
- 農業経営研究 (ISSN:03888541)
- 巻号頁・発行日
- vol.51, no.2, pp.31-36, 2013-09-25
- 参考文献数
- 5
2011年度の農業白書には,国産粗飼料の生産拡大を図る上で受託組織(コントラクター)等による生産の外部化,労働負担の軽減及び作業の効率化・低コスト化を促進することの重要性と作業受託経営体数の大幅な増加が指摘されている。コントラクターについては,特に北海道の酪農経営を中心に飼養規模拡大に伴う飼料生産部門の外部化の担い手として展開してきた。2008年時点のコントラクターによる飼料生産作業受託面積は北海道約10.8万ha(13.4ha/利用1戸),都府県で約1.4万ha(同1.2ha),またコントラクターの作業内容は北海道で飼料作物関連の比重が大きいのに対し,都府県では飼料生産以外の作業を兼営する割合が高いという特徴がある。地域別では九州と東北で都府県全体の7割を占める。コントラクターの意義と活動状況の類型化,組織運営上の課題等はすでに福田によって詳しく整理され,組織の法人化や経営問題の重要性の指摘がなされている。また,全国コントラクター等情報連絡会議などにより各地の情報も蓄積されてきた。ただし従来の紹介事例には活動期間が短いものも多く,活動体制以外の,組織体の経営経済・収支実態や運営上の課題については未解明の点も多い。さらに戸別所得補償政策下の新規需要米生産への助成拡充により飼料イネ(これによる発酵粗飼料を以下ではWCSと表記)や飼料米等の作付面積が急拡大するなど,水田の畜産的利用をめぐる最近の情勢も変化している。わが国畜産の最大の課題が飼料自給率の低さにあること,その一方で水田転作政策下でその畜産的利用が大きな意義を有することは縷々指摘されてきたが,最近の政策展開と新技術の開発により,水田を利用した耕畜連携の可能性は増大している。府県でのコントラクターによる飼料生産は九州の畑作地帯などで先行しているが,耕種農家による生産を考えると,今後は水田地帯におけるコントラクターの活動が重要性を増すと考える。その場合,飼料を利用する畜産経営も大規模化しており,これに対応した機械施設投資や運営コストの増大,経営持続に向けた管理運営の必要性を踏まえると,飼料を生産するコントラクター側にも一定の組織規模と経営的な安定性が求められよう。こうした意味でコントラクターの組織体制が整った水田利用型耕畜連携に関して,今のところ少数ではあるが先駆的な取り組みも現れており,今後の方向を示すものと考える。そこで本稿では代表的と思われる2つの事例を取り上げ,耕種・畜産双方との関わりの下でどのように組織体制が展開し経済的基盤が形成されてきたのかを明らかにすることを目的に検討を試みる。