著者
久保 雄生
出版者
全国農業構造改善協会
雑誌
農業経営研究 (ISSN:03888541)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.12-22, 2013-09-25
参考文献数
11

我が国における農業者の高齢化と担い手の減少は歯止めがかからず,荒廃した農地は2010年農林業センサスで39.6万haに達し,農山村を取り巻く環境は深刻さを増している。このような状況のもと,地域農業の担い手として集落営農法人が脚光を浴びており,本稿の対象とした山口県では177法人が設立されている(2013,1末時点)。しかし,農業集落における中核的な担い手としての役割を果たすためには,若い人材を受け入れ,法人経営の核となる後継者として育成する仕組みが必要だが,法人の中には,法人化の前から後継者問題を抱える組織も散見される。また,受入れた人材の能力向上を図るうえで,法人経営の部門構成や日常的な業務の偏りは能力形成や資質向上を左右する可能性があり,法人に受入れた人材の就業実態は,その後の行政支援のあり方・進め方にも少なからず影響するほか,後継者として認知し育成した場合でも,将来の法人経営を担う代表者としての定着に繋がらなければ,法人の組織としての存続や集落の農地活用等にも支障がでるため,法人内部での就業実態の把握や後継者の代表者としての動機付けとなる要因の抽出は不可欠である。この中で,農業分野における後継者問題を扱う研究には,建設業等の農外企業や個人農業者,農業生産法人を対象として,労働条件や雇用就農者の活動実態を明らかにする事例や就業意識の形成過程を整理した事例,また,農業技術や知識を雇用就農者等の第3者に継承する際の課題及び手法を扱う研究等,多くの領域で蓄積がみられる。しかし,調査対象を集落営農法人における後継者に絞り込み,法人毎の確保状況や就業実態,集落への定着条件をもとに,後継者による将来の代表就任意向を規定する要因にアプローチした研究はない。そこで本稿では,山口県内における集落営農法人への就業者のうち,代表者から将来を担う後継者として認知された者を対象としたアンケート調査から,法人への就業経緯や方法,集落への定着条件等を整理するとともに,将来の法人代表者としての就任意向を規定する要因を明らかにする。
著者
桑原 考史 加藤 恵里
出版者
全国農業構造改善協会
雑誌
農業経営研究 (ISSN:03888541)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.49-54, 2012-09-25

野生動物による農作物被害が深刻化している。こうした中で鳥獣被害防止特措法が2008年に成立し,市町村や集落を主体とした被害防止対策に助成金を支給する仕組みが整備された。本稿は,効率的な獣害対策が実現している事例として団地的土地利用下における単位面積当たりの防除柵設置・管理コストを試算し,政策支援額の目安を提示するとともに,制度設計に示唆を与えた。事例として,集落内のほぼ全ての水田圃場を集積している営農法人における,イノシシ被害防止を目的とした山際のワイヤーメッシュ柵設置・管理を取り上げる。柵の物財費や設置・管理にかかる労働費等のデータの収集は,柵設置主体である営農法人からの聞き取り調査により行なった。
著者
敖 登花 松下 秀介 双 喜
出版者
全国農業構造改善協会
雑誌
農業経営研究 (ISSN:03888541)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.112-117, 2012-06-25

中国内モンゴル自治区における草原地帯では,牧畜農家1人あたりの利用可能草地面積の減少と飼養家畜頭数の増大は,牧畜農家における過放牧の問題を深刻化させている。そこで,本研究では,中国内モンゴルの草原地帯における牧畜農家行動について,固有の資源制約下にある特定の地域内における過放牧の発生要因の視点から,定量的に評価することとした。具体的には,34戸の牧畜農家を対象としたアンケート調査結果に基づき,過放牧と非過放牧の間における農家行動の比較分析を行った。
著者
山本 淳子 梅本 雅
出版者
全国農業構造改善協会
雑誌
農業経営研究 (ISSN:03888541)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.24-35, 2012-12-25
参考文献数
17

農業労働力の減少や高齢化は年々深刻化しており,近年では大規模層でも後継者が確保できていない場合が少なくない。従来の直系家族制の下での農業の継承については,もはや限界が生じてきている。このような中,農家あとつぎによる従来の「農家型経営継承システム」に加えて「非農家型継承システム」を構築することの必要性が指摘されている(柳村)。この「非農家型継承システム」は,「農家型」,すなわち農家家族内での継承に基づかない方式として位置づけられるが,そこにはいくつかの方式が内包されていると見るべきであろう。この家族内での継承とは異なるタイプとしては,一つは組織法人における経営継承があり,複数農家から成る共同経営に新規参入者が加わり継承するタイプ(泉谷,原)や,血縁関係にこだわらず従業員の中から優れた者を経営者に登用し継承するタイプ(迫田)について,その実態や課題の検討が行われている。また,近年では,後継者不在の家族経営が行ってきた事業を技術・ノウハウを含めて家族外の第三者(新規参入者)へ継承するという「第三者継承」が,各地で取り組まれるようになってきている。まだ事例は少ないものの,平成21年度からは農林水産省の補助事業として,このような第三者継承を推進する「農業経営継承事業(実施主体は全国農業会議所)」が開始されている。この第三者継承により,経営内で後継者を確保できなかった場合にも事業が次の世代へと引き継がれ,同時に新たな担い手の育成を図ることができる。
著者
宮武 恭一
出版者
全国農業構造改善協会
雑誌
農業経営研究 (ISSN:03888541)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.49-54, 2014

大規模稲作経営においては,米価低迷が続く中で,規模拡大を加速するとともに米の直接販売を強化する動きが広がっている(納口2005,西川2012)。しかし,米販売に関しては,改正食糧法の施行以降,単位農協も直接販売を進めるために,こだわり米の生産に注力しており,大規模稲作経営が米の差別化を図るためには,一層の工夫が求められている。そうした差別化製品の有力な候補として,JAS有機米がある。農水省の委託調査によると,農薬と化学肥料を削減した特別栽培米に関しては,卸売り・小売り・外食向けの場合,明確な高値傾向はみられず,消費者への直接販売の場合は,むしろ一般小売価格よりも安値で販売する傾向がある(食品需給研究センター2009)。一方,JAS有機米に関しては,一般米と比べて1.6倍程度の高値を維持しているからである(MOA自然農法文化事業団2011)。
著者
恒川 磯雄
出版者
全国農業構造改善協会
雑誌
農業経営研究 (ISSN:03888541)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.31-36, 2013-09-25
参考文献数
5

2011年度の農業白書には,国産粗飼料の生産拡大を図る上で受託組織(コントラクター)等による生産の外部化,労働負担の軽減及び作業の効率化・低コスト化を促進することの重要性と作業受託経営体数の大幅な増加が指摘されている。コントラクターについては,特に北海道の酪農経営を中心に飼養規模拡大に伴う飼料生産部門の外部化の担い手として展開してきた。2008年時点のコントラクターによる飼料生産作業受託面積は北海道約10.8万ha(13.4ha/利用1戸),都府県で約1.4万ha(同1.2ha),またコントラクターの作業内容は北海道で飼料作物関連の比重が大きいのに対し,都府県では飼料生産以外の作業を兼営する割合が高いという特徴がある。地域別では九州と東北で都府県全体の7割を占める。コントラクターの意義と活動状況の類型化,組織運営上の課題等はすでに福田によって詳しく整理され,組織の法人化や経営問題の重要性の指摘がなされている。また,全国コントラクター等情報連絡会議などにより各地の情報も蓄積されてきた。ただし従来の紹介事例には活動期間が短いものも多く,活動体制以外の,組織体の経営経済・収支実態や運営上の課題については未解明の点も多い。さらに戸別所得補償政策下の新規需要米生産への助成拡充により飼料イネ(これによる発酵粗飼料を以下ではWCSと表記)や飼料米等の作付面積が急拡大するなど,水田の畜産的利用をめぐる最近の情勢も変化している。わが国畜産の最大の課題が飼料自給率の低さにあること,その一方で水田転作政策下でその畜産的利用が大きな意義を有することは縷々指摘されてきたが,最近の政策展開と新技術の開発により,水田を利用した耕畜連携の可能性は増大している。府県でのコントラクターによる飼料生産は九州の畑作地帯などで先行しているが,耕種農家による生産を考えると,今後は水田地帯におけるコントラクターの活動が重要性を増すと考える。その場合,飼料を利用する畜産経営も大規模化しており,これに対応した機械施設投資や運営コストの増大,経営持続に向けた管理運営の必要性を踏まえると,飼料を生産するコントラクター側にも一定の組織規模と経営的な安定性が求められよう。こうした意味でコントラクターの組織体制が整った水田利用型耕畜連携に関して,今のところ少数ではあるが先駆的な取り組みも現れており,今後の方向を示すものと考える。そこで本稿では代表的と思われる2つの事例を取り上げ,耕種・畜産双方との関わりの下でどのように組織体制が展開し経済的基盤が形成されてきたのかを明らかにすることを目的に検討を試みる。
著者
内山 智裕 西嶋 亜矢子
出版者
全国農業構造改善協会
雑誌
農業経営研究 (ISSN:03888541)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.1-11, 2011-12-25
参考文献数
17
被引用文献数
1

米国におけるとうもろこし・大豆の最大の生産地であるアイオワ州における穀物流通業者を調査対象として,これら業者の動向と我が国の今後の食料の安定供給に向けた展望および含意を明らかにすることを目的とする。
著者
大野 備美 納口 るり子
出版者
全国農業構造改善協会
雑誌
農業経営研究 (ISSN:03888541)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.79-84, 2013

企業による農業参入数は年々増加している。図1は,農地リース方式により参入している一般法人数(累積)の推移である。2003年の構造改革特別区域法において貸借が始まってから順次増加傾向にあるが,2009年の農地法改正により,貸借できる農地の限定がなくなったため,急速に参入が増加している。図2で,農地リース方式を利用して参入している法人を業務形態別に見ると,食品関連企業が中心を占めている。室屋によれば,食品関連企業の中でも,2003年に阪急百貨店,2008年にイトーヨーカドーと東急ストア,2009年にイオンと,大手小売が続々と農業に参入している。このように存在感の増している小売業の農業参入事例はマスコミでも大きく取り上げられている。なかでも小売り最大手であるイオンやイトーヨーカドーの事例は,小売業の農業参入における先進事例として多くの論文に取り上げられている。既往研究では,イトーヨーカドーの法人形態や生産・販売体系を明らかにしたものとして仲野,山本,渡邊,両社の参入形態を明らかにしたものとして山本,両社の事例を参入形態別に分類したものとして渋谷が挙げられる。これらの研究では,両社がどのような形態で参入しているかが明らかにされており,両社の参入形態には大きな違いがあることが指摘されている。しかし,この参入形態がどのような参入目的に基づいて選択されたのか,さらには参入目的に照らして参入形態をどう評価すべきかという点について,比較分析を行った文献はない。そこで本論文では,これらの既往研究をもとに,両社の参入形態が異なる理由に着目する。そして参入目的と参入形態との関係性を明らかにし,両社の参入形態が農業参入目的に即したものであるか一定の評価を加えること目的とする。