- 著者
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近内 トク子
- 出版者
- 山野美容芸術短期大学
- 雑誌
- 山野研究紀要 (ISSN:09196323)
- 巻号頁・発行日
- vol.4, pp.37-48, 1996-03-25
Shakespeareは,劇作家としてデビューした直後に若い貴族をパトロンとして仰ぐ幸運に恵まれた。二人の間には身分の違いを越えた交友関係が生まれたようである。ルネッサンス期における男性同士の友人愛は,彼の初期喜劇The Two Gentlemen of Veronaにも描かれているように,一切の価値に優先する聖なる絆であった。Shakespeare's Sonnetsは謎の多い作品である。作品が誰に捧げられ,歌われているライバル詩人が誰か,また詩人が愛した黒髪の婦人は誰か,という疑問が解決に到っていないからである。作品の構成は,6分の5が友人である美貌の貴公子を歌ったソネットで,残りの6分の1が上に述べた黒髪の婦人を歌ったソネットである。1番から17番ソネットでは,貴公子の美貌とその若さが讃美され,美と青春を失なう前に結婚し,子孫を儲けなさいという,結婚の薦めになっている。二人の交友が深まっていく間に,詩人が全く予想しなかった事が起こる。黒髪の婦人が貴公子を誘惑したのである。この事件が元で二人の交友関係にひびが入り,やがて二人は別れる。美貌の友人は,詩人にとってライバル関係にある文人達とつき合うようになる。だが二人の関係は後に修復され,交友関係は甦る。作品の前半は友人讃美が中心であるが,その裏には当時猛威をふるっていたペストの流行から来る「破滅の時」への警告と,「時の猛威」にも勝利する「ペンの力」が歌われている。作品の後半は友人と別れた詩人の嘆きと怨みが歌われている。しかし作品の最後では,友人と和解した詩人が,貴公子から得たものの大きさを見直し,友人の大きな愛を認め,変わらない愛こそ永遠に生きると,愛の絶唱を歌う。