著者
木村 和也
出版者
広島大学
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
vol.2, 2002-03-20

自動車メーカー同士が激しい競争を繰り広げ, 終わりのないコスト削減をしている。自動車業界においては, 従来のような, グループ内での実質的な継続的取引の保証は, もはや期待することはできなくなってきている。したがって, 今後はグループ外企業との競争に勝てるような競争力を身に付けなければ, 子会社といえども取引を獲得することができなくなるばかりか, 企業として存続することすら危うくなる可能性がある。とりわけ, わが国の会計制度が連結決算重視へとシフトしたことにより, 事態は深刻である。連結対象企業の業績がグループ全体に反映されることになったため, 子会社の業績がグループ全体の足を引っ張ってしまうからである。すなわち, 過去によくみられた, 業績不振のグループ企業があればたとえ料金が高くとも優先的に発注してきたような行為は, 市場の評価の低下につながって資金調達を困難にさせ, やがては財務状況を悪化させる要因ともなる。そうなると, 競争力のない子会社はもはや親会社としても株式を保有し続ける意味はなくなり, 処分してしまうという選択肢も生まれてくるからである。本研究は, 再編が著しい自動車業界における物流サービス企業の自立化の可能性について検討する。筆者が勤務するマロックス株式会社の視点から, 新規事業を立ち上げ, グループ外企業への販売比率を高めて自立化していくための条件と成功要因を抽出する。そのベンチマーキングの対象として取上げられたのが株式会社バンテックである。バンテックは, 日産の物流を担うグループ企業であったが, 経営陣による企業買収方式(MBO)によって日産自動車との資本関係を絶ち, 自立化に成功している。バンテックの自立化の成功要因(KFS)を要約すると以下の7点になる。(1)高度なノウハウがあった(2)集中性と広域性を兼ね備えた拠点ネットワークがあった(3)一般向け事業の初期の段階で良質の顧客を確保することができた(4)プロジェクトチームをうまく機能させ, 分野・顧客別の事業部制組織に発展させた(5)投資に関してある一定の範囲で自由度があり, 一般向けに設備投資できた(6)経営危機を契機に, 親会社が一貫して自立を促した(7)系列内取引の受注量の減少と共に一般売上拡大のインセンティブが高まったこれらのKFSのうち, マロックスが容易に満たしうる要因は, (1)に限られる。したがって, マロックスがバンテックと同じビジネスモデルで自立していくのは, きわめて困難である。しかし, マロックスとしてはマツダ向け以外の顧客を開拓していかなければ将来はない。この危機感をテコに, 並々ならぬ決意をもって事業, 組織, 戦略を抜本的に見なおす必要がある。そのために, 以下の問題を創造的に解消しなければならない。(1)既存のノウハウを活かして自動車産業内で取引の拡大を図る(2)営業力の強化(3)一般向けのノウハウの蓄積(4)キャリアパスの再構築をして組織を活性化させる(5)戦略の一貫性基本的には, 本業に近い領域で短期的なキャッシュフローを稼ぐ間に, 着々と一般向けの新規事業の領域でビジネスを展開するノウハウを蓄積するという事業展開である。九州地区には自動車関連市場において高い成長性が見こまれる(工場の生産台数が1995年の80万台弱から2010年140万台を超えると推計)。マロックスは山口県の防府地区に拠点を有しており, これを活かせば, 九州から広島への物流サービスを供給することができる。その一方で, 外部との提携関係を結び, 一般向けの物流サービスのノウハウを蓄積する。自立化を前提にした事業展開を継続的に行うためには, 戦略の一貫性を保って組織を活性化させる必要がある。バンテックが行ったように, プロパー社員と転籍社員を区別した二元的人事処遇制度を取りやめ, 年功的な要素を排除して, 実力主義の考え方のもとで, より高い目標にチャレンジし, より高い成果を上げ会社へ貢献した人が高い成果を得る仕組みを構築して組織を活性化させる必要がある。そのためには, この人事制度を支えるような戦略的な一貫性が不可欠なのである。

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こんな論文どうですか? <平成 13 年度(2002 年 3 月)修士論文要旨>外資系自動車メーカーにおける物流子会社の比較研究(木村 和也),2002 https://t.co/qZHNThLKuA

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