著者
戸梶 亜紀彦
出版者
広島大学
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.27-37, 2004-03-19
被引用文献数
3

人間は, さまざまな経験をとおして成長・発達していく。そして, 個々の体験から, 何らかの影響を受け続ける。特に, 強烈な情動を伴った出来事の影響は強いと考えられる。そこで本研究は, 「自分の何かを変えた感動的な出来事」について調査を行い, 感動の効果に関するメカニズムについて詳細な検討を行った。その結果, 感動には大きく分けて, 動機づけに関連した効果, 認知的枠組みの更新に関連した効果, 他者志向・対人受容に関連した効果という3つの効果のあることが示された。また, 感動体験は, 単に個人の何かを変化させる契機となるだけではなく, 出来事に対する総合的な評価を背景とした外的事実の成立の瞬間と, 心身の感覚および認知的作用の相乗効果とが重奏的に作用して, 個人の何かを変化させた出来事をより印象的な事象として記憶の貯蔵庫に精緻化して各効果を増強し, 持続させる役割を果たし, さらに, 個々人の問題意識に関連するような潜在的および顕在的目標行動を始発させる契機となっているという可能性が示唆された。これらの結果に基づいて, 感動的体験の応用可能性について論じられる。
著者
平岩 和美
出版者
広島大学マネジメント学会
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
no.15, pp.27-45, 2014-03

高齢者の健康維持を目的とする介護予防事業の計画及び実行の段階において,いかなる主体間連携が行われているかを把握するため,先行研究をもとに主体間連携の分析フレームを作成した。この分析フレームを用いて,広島県大崎上島町,庄原市,廿日市市の介護予防事業を実証的に分析した結果,人口規模と合併,委託先の確保の相違により事業運営は異なっていた。 実証分析の結果は次の通りである。まず,小規模の人口,合併の影響が少ない地域である大崎上島町は,ボトムアップの手法を用いている。その長所は計画初期から市民が参加すること,短所は計画策定に時間がかかることである。次に,人口規模が大きく合併の影響の大きい庄原市は,トップダウンの手法を用いている。その長所は計画策定から実行まで短時間であること,短所として市民の意見が生かされない危険性がある。この対策として,庄原市では31の自治振興区を利用し市民の声をくみ上げる仕組みを作っている。この二つの自治体ではプロセスの各段階において,多様な主体を活用しており中心となる主体の交替により,事業の硬直化,画一化を防いでいる。最後に,人口規模が大きく予算があり委託先が確保された廿日市市においては委託料方式を採用しており,事業を会社,老人クラブ,市民団体に委託していた。委託の課題として個人情報保護や事業の画一化がある。廿日市市では情報保護の契約を交わし,会社,老人クラブ,市民団体に委託することにより事業を活性化していた。
著者
大形 久典
出版者
広島大学
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
vol.2, 2002-03-20

コミュニケーションは日常生活や社会生活に於いて最も大切である。個人間, 文化間, 国家間のコミュニケーションにおいて紛争や戦争にいたる葛藤が導かれる。コミュニケーションの歴史は人間の歴史と同じように古いにも関わらず, それが何であり, 意味, 意義が何であるかの研究は, その端緒についたばかりである。人間と最も近縁なチンパンジーのコミュニケーションを研究することで, 人間のコミュニケーションについて探求することが本論文のテーマである。コミュニケーション活動は, 約500万年まえの人類の誕生ときすでに始まっていたであろう。約4万年前に, 人類は非(前)言語的コミュニケーションから話し言葉を発展させた。時代の進展にともなって, コミュニケーション媒体が高度化したために, 人のコミュニケーションがそれだけ複雑化し, 人間組織や社会を複雑化していった。言葉を使わずに行われる非(前)言語的コミュニケーションは, チンパンジーや人間にもまったく同様に存在する。チンパンジーのコミュニケーションから, 人間行動に欠けているものを見つけることができる。チンパンジーは, 生物学的, 認識能力的, 行動学的に人間にもっとも近い。感情的, 理知的な面でも類似している。チンパンジーは高度に進化したコミュニケーション行動をすることはないが, 高度な身ぶりを使うことによってコミュニケートする。かれらのコミュニケーション行動のうちで, 「攻撃」と「仲直り」という行動を見ることによって, 人間コミュニケーション行動から生じる葛藤・紛争の原因・理解と, その解決策への示唆を得ることを目指す。チンパンジーの社会では, 順位はとても重要である。テリトリをめぐって最悪の場合殺し合う。かれらのコミュニケーションの中味は, 攻撃, 優位, 服従のパターンが中心で, また政治的な駆け引きに肉体的, 精神的エネルギーを費やす。人間の攻撃性も生物学的にはチンパンジーと多く類似している。チンパンジーも持っているライバル闘争, テリトリ, 子孫の防衛, 順位制などが, 人間の攻撃や戦争の動機・要因となる。人間やチンパンジーは抑制機能が備わっていないから同じ種族でありながら殺しあいをくり返す。人間がチンパンジーと異なるものに言葉や武器の発達などがあり, 人類滅亡の危機をももたらしうる。霊長類のなかでチンパンジーと人間はもっとも攻撃的であるが, チンパンジーは攻撃性を回避するための強力なメカニズム仲直り行動(攻撃の儀式化, 服従, 逃走などの非言語コミュニケーション)など, 非言語的コミュニケーションを巧みに使って対処法を発達させてきた。人間は音声言語, 文字言語などのおかげで高度な文明を築き, 動物と区別してきた。しかし人間は言語に依存してきたために, 非言語的コミュニケーションが退化して, チンパンジーが全身で感じて行なうコミュニケーションが十分にできなくなっている。人間は現在のところもっとも進化させた言語的コミュニケーションができるのであるが, しかし言語をもった人間の知性は, 大量殺人兵器を発達させ, 攻撃性に満ちたストレスの多い社会を発展させてきた。コミュニケーションのゆえに生じてくる諸問題(誤解, 葛藤, 戦争)を解決するには, 言語的なコミュニケーションに欠落した部分(言語ゆえに生じる複雑性, 内容が変容して伝わること, 抽象的言語からくる象徴と現実の混同)を, 本来持っているはずの非言語的な部分を取り戻し, それで欠落部分を支えて達成できるのではないだろうか。そのために類人猿の非言語コミュニケーションに観察される「合理性」から学ぶことは多いのである。
著者
阪田 正大
出版者
広島大学
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.51-63, 2003-03-20

現在,不況に伴って第三セクター法人の倒産が増加している。特に,第三セクター法人のなかでも,フェニックスリゾート株式会社は2001年2月に2,762億円の負債をかかえ会社更生法による更生手続を申請し,第三セクター法人最大の倒産といわれた。本稿は,地方公共団体が経営参加する第三セクター法人に注目し,フェニックスリゾートの第1期から第12期(1988年12月から2000年3月)を例にとり,貸借対照表および損益計算書から第三セクター法人の会計分析および財務分析を行う。その結果,同社の事業計画が不適切であり,さらに住民への会計情報公開の遅れから,経営悪化が進展するとともに,地方公共団体が出資以外に補助金を役人することになったことがわかった。このことから,第三セクター法人は地域住民に会計置報を公開するべきことを論じ,地方公共団体が第三セクター法人を支援する際の経営分析について検討する。
著者
山本 公平
出版者
広島大学
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-15, 2005-03-19

本論文は起業の持続的競争優位について以下の4点で構成されている。1点目は,研究に至る問題意識を述べ,本論文の研究対象である起業を定義する。2点目は,最近の持続的競争優位を保つための経営戦略として,4つに分類される研究アプローチを相互関係も含め概要を考察する。続いて,本論文の研究対象である起業は,自らが選択した市場に限られた資源を集中的に投入することで起業し,起業後は競合他社とは異なる活動によって成長を図るとした特徴を持つことから,市場に独自の戦略ポジションを掴む経営戦略であるポジショニング・アプローチを用いてこれを考察する。3点目は,ポジショニング・アプローチを分析フレームワークとして用い,起業における持続的競争優位とは何かを,施策の抜本的改革により市場経済における,競争力強化のため,法人化が推進される農業法人をケースとして考察を試みる。4点目は,この研究の成果及び今後の課題を述べる。
著者
江 向華
出版者
広島大学マネジメント学会
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
no.11, pp.1-10, 2011-03

本稿は, 多角化戦略を中心とした成長戦略に関する先行研究の様々な議論をまとめて, 中国企業の多角化戦略に関する検討を行い, さらに重回帰分析で製品多角化戦略とパフォーマンスに関する実証研究を行った。その結果, 他の国とは異なり, 中国企業は他の戦略パターンよりも主力事業戦略のほうがより良い経済成果に結びつくことを明らかにした。この結果は既存の理論では説明できないため, 一考察として中国企業はある程度多角化しているが, 多角化するためのリソースがまだ蓄積されていないことが挙げられる。しかし, この結果は既存の多角化戦略を中心とした諸理論をそのまま中国企業に適用することが困難であるということも示唆する。したがって今後の課題として, ①先進経済と新興経済の相違②経済体制の相違という2つの視点から, 独自の多角化理論を検討する必要がある。これにより, 従来の理論をより精緻化させることが期待できる。
著者
小玉 一樹 戸梶 亜紀彦
出版者
広島大学マネジメント学会
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
no.10, pp.51-66, 2010-03

組織に対する労働者の帰属意識を説明する概念は, 組織論の観点から組織コミットメントが幅広く研究されてきた。本研究では, 社会心理学の観点から帰属意識を自己の側面からも検討した。本研究では, 社会的アイデンティティ理論および自己カテゴリー化理論を組織の文脈に援用した概念である組織同一視(Organizational Identification)に着目し, 先行研究のレビューを行った。その目的は, (1)組織同一視の再定義, (2)組織同一視および, その類似概念である組織コミットメントの構成概念の明確化, (3)組織同一視と組織コミットメントを弁別した上での理論モデルの検討であった。まず, 先行研究を検討し, 組織同一視を再定義した。つぎに, 組織同一視には認知的要素と情緒的要素があり, それらが相互に作用していることを指摘した。さらに, 組織同一視と組織コミットメントの構成概念の比較を行い, 双方を統合した理論モデルを提示した。以上の研究により個人の組織への帰属意識に関する研究に新たな視点を加えた。
著者
林 幸一
出版者
広島大学マネジメント学会
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
no.21, pp.10-11, 2020-03-26
著者
中原 好冶
出版者
広島大学
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
vol.2, 2002-03-20

本論文は, 「こんなに経済的に豊かな日本で, どうして「終わり良ければすべて良し」という福祉が実現できないのであろうか」という問題意識からスタートしている。自ら祖母の介護を通じてみた在宅介護・家族介護・特別養護老人ホームで暮す人達・老人病院の現状は今の日本がこの分野において, 決して豊かになっていないということを示していた。むしろ私たちは, 人生のまさに最終局面で大きな不安を抱えている, というのが現実ではなかろうか。このような中で, 2000(平成12年)年4月から高齢者福祉の分野で介護保険制度が導入された。この制度は果たして日本の高齢者福祉をもっと充実させ, 本当に人生の幸せを実感できる老後を保障できるのであろうか。我が国の高齢者福祉政策は, 家族介護を中心とした日本型福祉社会論と, 1980年代半ば以降の福祉費抑制政策によって特徴づけられる。介護保険制度もその延長線上にあると考えられ, そのことは広島県におけるサービス需給の状況や, 将来計画である「ひろしま高齢者プラン2000」を見てもわかる。また, 保険者である広島市の介護保険財政の状況も, 公費負担という観点から見ると43億円の減である。実際に広島県の施設サービスの現状分析を, 老人福祉施設指導台帳・老人保健施設台帳をもとに行っていった。特別養護老人ホームでは, 職員一人当たりの入所者数で2.5倍, おむつ交換の回数で6倍, 食費で2倍, 職員給与で3倍の格差がみられた。また老人保健施設においては, 職員一人当たりの入所者数で3倍, おむつ利用者の割合で14倍, 食費で1.6倍の格差がみられ, 1年以上の入所者数や家庭への退所率においても施設ごとに大きな格差がみられた。本来はこうした施設間の格差の解消や, サービスの質の向上に努め, どこの施設に入居しても安心して暮せることや, 家族の満足度を高めていくことが求められていたはずである。介護保険導入後もサービスの質の向上についての取り組みは遅れており, 第3者評価の促進や実地指導の強化が求められている。次に, 在宅サービスについてである。(財)広島市福祉サービス公社の分析を通じて明らかになったことは, 介護保険が導入されて, 在宅サービス特に訪問介護の分野で実際に起こっている現象は, 訪問介護だけでは採算が合わないということである(福祉サービス公社の場合は1.6億円の公費投入でしのいでいる)。収益を目的としない公的な福祉サービス公社においてすらこのような状況であり, ましてや新たに進出した民間企業の状況はよくない。その結果, ホームヘルパーのパート化がおこり, 「1回あたりの派遣時間」の低下によるサービスの質の低下も心配される。こういった高齢者福祉の問題は日本固有の問題ではない。福祉先進国と考えられるスウェーデンとドイツの場合, 在宅サービスを充実させることによって, 問題に対応している。スウェーデンにおいては, 痴呆性老人グループホームの大量増設やケア付き住宅の整備によって昔は施設と呼ばれたものがグレードアップされた結果, 理想的な在宅介護が可能になった。これらの国の例をみても, これからの高齢者福祉は在宅サービスの充実と痴呆性高齢者対策といっても過言ではない。痴呆性高齢者については, 広島県内における介護サービス利用者は57,033人なのに対して, 痴呆性高齢者は約38,000人いるものと推計される。痴呆の進行度にもよるが, この数字は2020年には倍増するものと予想されている。痴呆性高齢者に対するケア, サービスの質を高めていくことは今後の大きな課題である。そのため, 広島市内のグループホームを中心に実地調査を行った。さまざまな形態のグループホームがあり, 設置主体も多様であるが, 基本的に数が少なすぎる。グループホームの実地調査を通じて得られた課題は, 介護保険の不公平(介護報酬の低さ), 増設に向けた政策補助のあり方, グループホーム入居者の自己負担が施設サービスの倍である, 入居者の重度化の問題, 等である。これらの解決に向け, また増設に向けた政策が必要である。
著者
王 文娟
出版者
広島大学マネジメント学会
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
no.16, pp.1-16, 2015-03

「ホスピタリティ」概念の受容と共に,「ホスピタリティ産業」の主張も見られ,既存の概念「接客業」を振り返ることが必要になった。本稿は文献調査をもとに,「接客業」という概念をめぐって,無償の「接客」行為が「接客業」まで発展してきた流れ,及び「接客業」という概念の外延と内包の変遷を考察してみた。元来礼儀作法・社交文化の一部とする「接客」が,経済発展や産業化の進行につれて,家庭内から社会へ広がってきたことを明らかにした。「接客業」は,一時的に,専門用語として取り上げられたが,戦後「サービス業」に置き換えられた。その理由は,言語外から考えれば,政治・経済などの社会状況及び産業構造の変化といった要因が挙げられ,言語内から考えれば,「接客業」に付加された「暗示的な意味」がその一因だと思われる。現在専門用語として扱われていないが,日常語としてまだ広く使われている。それは,「接客業」という概念が「接客」の定着と共に,すでに日本語に定着しており,また,「暗示的な意味」で敬遠されている時もあるが,逆に言うと,婉曲語のような便利さもあるからだと考えられる。
著者
驛場 恵子
出版者
広島大学
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
vol.2, 2002-03-20

近年, 高度医療機器の普及により医療過誤の量と質に変化が現われただけでなく, 従来であれば, 潜行しがちであった医療事故が法廷の場に登場することも多くなった。看護婦関連の医療過誤の増大は, 現場の看護婦に大きな不安を抱かせている。このような事実を背景に, 看護婦個人に対する保険制度が発足した。この保険制度は, 一面では医療事故の被告となり有責とされた看護婦個人の賠償責任を代位することにより, 看護婦には金銭的な不安を取り除かせるという要素もあるが, 他方では, 従来の医療事故における民事上の責任主体が主として病院や医師だけであったものに, 変化をもたらそうとしている。本稿においては, まず, 看護婦に関する医療過誤の民事責任について限定し, 不法行為の成立要件, 特に過失の認定について考察する。その際, 医療事故による刑事責任との比較を行う。さらに, 最近創設された看護職賠償責任保険が看護婦の民事責任にどのような影響を与えるか, 並びに損害の公平な分担のために看護婦の民事責任を減少させる可能性はないのかなどについて考察することとする。不法行為の一般的成立要件は(1)行為者に故意または過失があること(故意・過失)(2)他人の権利ないし利益に対する違法な侵害があること(権利侵害・違法性)(3)違法な侵害行為により損害が発生したこと(損害発生)(4)違法な侵害行為と発生した損害の間に因果関係が存在することを要件とする。患者と契約関係にない看護婦が医療過誤事件で責任を追及される法的根拠は, 原則として民法709条の不法行為の一般規定である。看護婦の過失に関する不法行為の成立要件, 使用者の責任(民法715条), 使用者からの求償(民法715条3項), 共同不法行為(民法719条)の観点から考察する。保健婦助産婦看護婦法は昭和23年(1948年)に成立した法律であるが, その後一部改正があったものの抜本的な改正はなされていない。50年以上前の創設時と現在の社会状況とでは, 医療の高度・専門分化, および社会の医療・看護に対する価値観の変化からも隔たりがあると言わざるをえない。看護業の独立・自律のためには, 看護婦の裁量の範囲と看護婦にも許容するような業務に関する法改正が必要であると考え改正案を提案する。2001年(平成13年)11月, 看護職賠償責任保険制度の創設がなされた。看護職賠償責任保険は, 法的責任のうち, 民事責任である賠償責任に関するものである。高度な医療の参画にはそれに伴うリスクも大きい。これは, 看護婦は民事責任, つまり損害賠償責任を負わないという従来の趨勢に変化をもたらさざるを得ない状況である。看護婦手足論の終焉, 看護水準論の導入, さらに看護職賠償責任保険制度の導入は, 看護業務を医業から独立した独自の業務と解することになろう。看護婦が医師または病院などとは個別独立して責任を負うべきであるか否かは, 看護業務にどの程度独自性を認めるかにかかっている。医療活動に対する結果が思わしくなかった場合, 医師の過失のみに留まらず, 看護婦の過失が問題とされる事例が増加している。看護婦個人が刑事告訴されるというだけでなく, 医療機関や医師の損害賠償責任を問われる民事告訴においても, 看護婦の過失が争点となるものはその態様自体も深刻かつ複雑化している。看護職賠償責任保険制度が日本看護協会により発足した今, 看護婦の裁量でなされた医療過誤においては, その責任はこれまでのように使用者責任としての病院または医師の責任ではなく, 使用者責任として問われる病院または医師の責任の双肩として看護婦個別の独立した責任としての民事事件として損害賠償の責任を問われるということになるであろう。医療過誤は, 看護婦個人の責任問題を超え, 医療機関の構造に根本的な原因がある。そのような責任を民事上看護婦個人に課することは, 一層看護婦に萎縮効果を与え, 国民のより質の高い医療を受ける利益に反し, 適切な看護業務が提供されないという問題も生じよう。これを理論的に解決するには, 刑法上, 利用される「期待可能性」の理論を民事責任にも適用すべきである。医療過誤に関しては, 看護婦個人が考えなければならない問題であることはもちろんのこと, 看護職全体として取り組まなければならない問題, また従事する組織全体としての問題, 他の医療従事者との関係における問題等, 医療の現場で解決すべきことは多々あるが, そのベースとなる法的な視点を加味した検討が必要であると考える。今後, 法的視点での看護業務の見直し, 看護職賠償責任保険の動向, それに伴う求償権の問題, 判例からの過誤に対する解決の変遷の検討, さらに看護職の質的向上を目指した法的提言をしていきたいと考えている。
著者
戸梶 亜紀彦
出版者
広島大学
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.31-40, 2002-03-20

本研究は, 近年, 脳の血流を改善する働きがあるとされ, 痴呆症の治療薬として注目されてきているイチョウ葉エキス(EGB)と, 脳を活性化する働きがあるとされる咀嚼という両者に着目し, EGBの含まれたガム咀嚼を一定期間継続することによる記憶への効果について実験的な検討を行った。実験参加者は, 3つの大学から集められ, 無作為に統制群, ガム咀嚼群, EGBタブレット群, EGB入りガム咀嚼群のいずれかに振り分けられた。実験課題には, 改訂版ウェクスラー成人知能検査の中の数唱課題, および, 有意味語と無意味語からなる単語記憶課題が用いられた。また, 別室で歯科医によって実験参加者全員の咀嚼機能(咀嚼面積と咀嚼力)の測定が行われた。これらの測定は, 一週間間隔で2度行われ, その変化の程度が検討された。分析の結果, EGB入りガム咀嚼群がその他の群よりも数唱課題において成績が向上する傾向のあることが示された。また, 咀嚼機能は有意味語の記憶に関する正方向への変化と関連し, さらに, 咀嚼機能と単語の記憶に関する正方向への変化の傾向には, EGB入りガム咀嚼群が関与していることが示唆された。本研究では, EGB入りガム咀嚼の記憶における効果が若干ではあるが確認された。しかしながら, 咀嚼機能の訓練効果はみられなかったことから, 咀嚼による継続的な脳への刺激とEGBの働きが相乗的に働き, 記憶の促進効果を生みだしたのではないかと推断される。今後の課題として, EGB入りガム咀嚼の効果を明確にするためには, 対象年齢層や訓練期間, 認知・記憶課題等に対する多様な検討を行う必要性が示された。
著者
阪田 正大
出版者
広島大学マネジメント学会
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
no.2, 2002-03-20

近年, 自然人, すなわちいわゆる一般個人の自己破産申立件数が増加していおり, 大きな社会問題となっている。この自己破産件数の増加の理由には, 「多重債務」によって支払不能に陥った債務者の数が増加したことがあげられる。多重債務とは, 貸金業等からの金銭の借入れやクレジット利用により発生した債務が本人の返済能力を超え, そして債務の返済のためにさらに借金をして債務が重なることをいう。この多重債務の理由には, 遊興費のための借金, クレジットカードの利用による自己の返済能力を超えた商品の購入がある一方, 生活費のための借金や悪質商法により商品, サービスを契約させられたため等の様々なものがある。そして, 「消費者信用」は年々その市場規模を拡大させており, 多重債務者の増加の一因となっている。この消費者信用とは, 「消費者に供与された信用」のことであり, 大きく販売信用と消費者金融に分けることができる。またその一方で, 消費者信用は今や消費生活に不可欠なサービスになっているともいわれる。まず, 多重債務の原因となる消費者金融の高金利について検討する。わが国においては, 年29.2%以上の金利は利息制限法第1条により無効であり, さらに出資法第5条にも違反して処罰の対象となる。しかし, 出資法による罰則金利以下で利息制限法の上限金利を超過する利息について, 債務者は支払いの義務を負わないけれども債務者が任意に支払った場合には, 貸金業規制法第43条により有効な弁済とみなされ, 支払った利息の返還を求めることができない「グレーゾーン」といわれる曖昧な利息部分が存在している。次に, わが国の倒産法制において個人債務者が利用可能広島大学大学院社会科学研究科マネジメント専攻平成13年度(2002年3月)修士論文要旨
著者
木村 和也
出版者
広島大学
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
vol.2, 2002-03-20

自動車メーカー同士が激しい競争を繰り広げ, 終わりのないコスト削減をしている。自動車業界においては, 従来のような, グループ内での実質的な継続的取引の保証は, もはや期待することはできなくなってきている。したがって, 今後はグループ外企業との競争に勝てるような競争力を身に付けなければ, 子会社といえども取引を獲得することができなくなるばかりか, 企業として存続することすら危うくなる可能性がある。とりわけ, わが国の会計制度が連結決算重視へとシフトしたことにより, 事態は深刻である。連結対象企業の業績がグループ全体に反映されることになったため, 子会社の業績がグループ全体の足を引っ張ってしまうからである。すなわち, 過去によくみられた, 業績不振のグループ企業があればたとえ料金が高くとも優先的に発注してきたような行為は, 市場の評価の低下につながって資金調達を困難にさせ, やがては財務状況を悪化させる要因ともなる。そうなると, 競争力のない子会社はもはや親会社としても株式を保有し続ける意味はなくなり, 処分してしまうという選択肢も生まれてくるからである。本研究は, 再編が著しい自動車業界における物流サービス企業の自立化の可能性について検討する。筆者が勤務するマロックス株式会社の視点から, 新規事業を立ち上げ, グループ外企業への販売比率を高めて自立化していくための条件と成功要因を抽出する。そのベンチマーキングの対象として取上げられたのが株式会社バンテックである。バンテックは, 日産の物流を担うグループ企業であったが, 経営陣による企業買収方式(MBO)によって日産自動車との資本関係を絶ち, 自立化に成功している。バンテックの自立化の成功要因(KFS)を要約すると以下の7点になる。(1)高度なノウハウがあった(2)集中性と広域性を兼ね備えた拠点ネットワークがあった(3)一般向け事業の初期の段階で良質の顧客を確保することができた(4)プロジェクトチームをうまく機能させ, 分野・顧客別の事業部制組織に発展させた(5)投資に関してある一定の範囲で自由度があり, 一般向けに設備投資できた(6)経営危機を契機に, 親会社が一貫して自立を促した(7)系列内取引の受注量の減少と共に一般売上拡大のインセンティブが高まったこれらのKFSのうち, マロックスが容易に満たしうる要因は, (1)に限られる。したがって, マロックスがバンテックと同じビジネスモデルで自立していくのは, きわめて困難である。しかし, マロックスとしてはマツダ向け以外の顧客を開拓していかなければ将来はない。この危機感をテコに, 並々ならぬ決意をもって事業, 組織, 戦略を抜本的に見なおす必要がある。そのために, 以下の問題を創造的に解消しなければならない。(1)既存のノウハウを活かして自動車産業内で取引の拡大を図る(2)営業力の強化(3)一般向けのノウハウの蓄積(4)キャリアパスの再構築をして組織を活性化させる(5)戦略の一貫性基本的には, 本業に近い領域で短期的なキャッシュフローを稼ぐ間に, 着々と一般向けの新規事業の領域でビジネスを展開するノウハウを蓄積するという事業展開である。九州地区には自動車関連市場において高い成長性が見こまれる(工場の生産台数が1995年の80万台弱から2010年140万台を超えると推計)。マロックスは山口県の防府地区に拠点を有しており, これを活かせば, 九州から広島への物流サービスを供給することができる。その一方で, 外部との提携関係を結び, 一般向けの物流サービスのノウハウを蓄積する。自立化を前提にした事業展開を継続的に行うためには, 戦略の一貫性を保って組織を活性化させる必要がある。バンテックが行ったように, プロパー社員と転籍社員を区別した二元的人事処遇制度を取りやめ, 年功的な要素を排除して, 実力主義の考え方のもとで, より高い目標にチャレンジし, より高い成果を上げ会社へ貢献した人が高い成果を得る仕組みを構築して組織を活性化させる必要がある。そのためには, この人事制度を支えるような戦略的な一貫性が不可欠なのである。
著者
虫明 千春
出版者
広島大学マネジメント学会
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
no.11, pp.111-118, 2011-03

近年において, 外国子会社合算税制(以下, 「タックス・ヘイブン対策税制」という。)が適用されたことにより, 納税者から課税当局に対し不服申し立てを行うケースが多く見受けられる。その争いの原因の一つには, 企業が中国特有の事業形態を採用したことにより, タックス・ヘイブン対策税制の適用除外基準の枠からはみ出したものと課税当局に判断され, 課税の対象となることが挙げられる。本稿では, タックス・ヘイブン対策税制の適用除外基準に該当しない場合において租税回避行為が確認されるのかを, 来料加工貿易の事案を基に論議する。
著者
王 屏 西本 志乃 盧 濤
出版者
広島大学マネジメント学会
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
no.4, pp.261-269, 2004-03

2000年間の中日関係の進展の中で, 日本人の"中国観"は3回の大きな変遷があった。そして今4回目の大きな変化の初期段階を迎えている。その変化は日本社会内部の構造の変動や刷新, 外的な国際社会秩序の調整や再構築がその前提とされ, "実力主義", "現実主義", "国家利益優先"の価値基準により方向づけられてきた。日本人の"中国観"の変遷を眺めると, その変化には次のような法則がある。それは, 中国の国勢が盛んなときは日本人の中国観は中国尊重の傾向にあり, 中国が衰退にあるときは日本人の中国観は中国蔑視の傾向にある。これは明らかに"実用主義"の特徴を示している。本稿の原文,"論日本人'中国観'的歴史変遷"は,『日本学刊』(中国社会科学院日本研究所 中華日本学会)2003年第2期に刊行されたものである。
著者
安藤 正人
出版者
広島大学マネジメント学会
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
no.11, pp.21-42, 2011-03
被引用文献数
1

ワーク・モチベーション研究の歴史は古いが, 多くは研究開発者など特定の職種のものであり, 正社員についての研究である。現在, 職場では正社員のほか契約社員, パートタイマー, 派遣社員など様々な雇用形態の労働者が共に働いているが, これまで多様な雇用形態の労働者のワーク・モチベーションに対する影響因を比較した研究はほとんど行われていない。本研究では, ワーク・モチベーションの構造を4つに分け, 正社員と非正社員のワーク・モチベーションに対する影響因として6つの満足要因を設定して影響関係を分析した。その結果, 職務満足がすべての雇用形態に影響を与えており, 雇用形態別で特徴的なものとしては, 正社員は対経営者・会社方針満足, 有期雇用フルタイム社員は対上司・リーダー満足, パートタイマーは処遇納得感や労働環境満足が有意な影響因であった。
著者
高木 潤
出版者
広島大学マネジメント学会
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
no.15, pp.85-85, 2014-03-27

広島大学大学院社会科学研究科マネジメント専攻 平成25年度修士論文要旨〈学会員の論文要旨のみ掲載〉