- 著者
-
中原 好冶
- 出版者
- 広島大学
- 雑誌
- 広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
- 巻号頁・発行日
- vol.2, 2002-03-20
本論文は, 「こんなに経済的に豊かな日本で, どうして「終わり良ければすべて良し」という福祉が実現できないのであろうか」という問題意識からスタートしている。自ら祖母の介護を通じてみた在宅介護・家族介護・特別養護老人ホームで暮す人達・老人病院の現状は今の日本がこの分野において, 決して豊かになっていないということを示していた。むしろ私たちは, 人生のまさに最終局面で大きな不安を抱えている, というのが現実ではなかろうか。このような中で, 2000(平成12年)年4月から高齢者福祉の分野で介護保険制度が導入された。この制度は果たして日本の高齢者福祉をもっと充実させ, 本当に人生の幸せを実感できる老後を保障できるのであろうか。我が国の高齢者福祉政策は, 家族介護を中心とした日本型福祉社会論と, 1980年代半ば以降の福祉費抑制政策によって特徴づけられる。介護保険制度もその延長線上にあると考えられ, そのことは広島県におけるサービス需給の状況や, 将来計画である「ひろしま高齢者プラン2000」を見てもわかる。また, 保険者である広島市の介護保険財政の状況も, 公費負担という観点から見ると43億円の減である。実際に広島県の施設サービスの現状分析を, 老人福祉施設指導台帳・老人保健施設台帳をもとに行っていった。特別養護老人ホームでは, 職員一人当たりの入所者数で2.5倍, おむつ交換の回数で6倍, 食費で2倍, 職員給与で3倍の格差がみられた。また老人保健施設においては, 職員一人当たりの入所者数で3倍, おむつ利用者の割合で14倍, 食費で1.6倍の格差がみられ, 1年以上の入所者数や家庭への退所率においても施設ごとに大きな格差がみられた。本来はこうした施設間の格差の解消や, サービスの質の向上に努め, どこの施設に入居しても安心して暮せることや, 家族の満足度を高めていくことが求められていたはずである。介護保険導入後もサービスの質の向上についての取り組みは遅れており, 第3者評価の促進や実地指導の強化が求められている。次に, 在宅サービスについてである。(財)広島市福祉サービス公社の分析を通じて明らかになったことは, 介護保険が導入されて, 在宅サービス特に訪問介護の分野で実際に起こっている現象は, 訪問介護だけでは採算が合わないということである(福祉サービス公社の場合は1.6億円の公費投入でしのいでいる)。収益を目的としない公的な福祉サービス公社においてすらこのような状況であり, ましてや新たに進出した民間企業の状況はよくない。その結果, ホームヘルパーのパート化がおこり, 「1回あたりの派遣時間」の低下によるサービスの質の低下も心配される。こういった高齢者福祉の問題は日本固有の問題ではない。福祉先進国と考えられるスウェーデンとドイツの場合, 在宅サービスを充実させることによって, 問題に対応している。スウェーデンにおいては, 痴呆性老人グループホームの大量増設やケア付き住宅の整備によって昔は施設と呼ばれたものがグレードアップされた結果, 理想的な在宅介護が可能になった。これらの国の例をみても, これからの高齢者福祉は在宅サービスの充実と痴呆性高齢者対策といっても過言ではない。痴呆性高齢者については, 広島県内における介護サービス利用者は57,033人なのに対して, 痴呆性高齢者は約38,000人いるものと推計される。痴呆の進行度にもよるが, この数字は2020年には倍増するものと予想されている。痴呆性高齢者に対するケア, サービスの質を高めていくことは今後の大きな課題である。そのため, 広島市内のグループホームを中心に実地調査を行った。さまざまな形態のグループホームがあり, 設置主体も多様であるが, 基本的に数が少なすぎる。グループホームの実地調査を通じて得られた課題は, 介護保険の不公平(介護報酬の低さ), 増設に向けた政策補助のあり方, グループホーム入居者の自己負担が施設サービスの倍である, 入居者の重度化の問題, 等である。これらの解決に向け, また増設に向けた政策が必要である。