著者
井東 廉介
出版者
石川県農業短期大学
雑誌
石川県農業短期大学研究報告 (ISSN:03899977)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.111-127, 1988

英語の知覚動詞は種々の形態の述語補文を取る。英語の動詞はそれに後続する補文形態の下位区分によって下位範時化されるが,その基準として各動詞の意味が決定的な役割を果たしている。従って,各知覚動詞の意味がその述語補文形態と平行関係にあるという事実を究明することにより補文形態を意味論的に類型化できるばかりではなく,上位節の知覚動詞そのものの意味の広がり(比喩的用法も含めて)をも意味論的に類型化できることになる。一方,各補文形態は統語論的に深層構造から派生された表出形態であるという考え方は一般的ではあるが,その根底に釈然としないものを残している。即ち論理学的に命題構造をもつということが前提とされる補文構造の派生を考えるとき,全ての補文形態の根底にその内部構造に区別を付けない定形節を想定することが問題なのである。本論は,知覚動詞の補文形態を定形節,不定詞節,分詞/動名詞節に類型化し更に不定詞節をto付きと原形に分けて異なった類型とし,分詞節の中に過去分詞節を加える。知覚動詞が定形節,to付き不定詞節及び'-ing'型の節の一類型を取る場合は,本来(第一義)的な感覚器官を通じた知覚ではなく,(比喩的用法も含め)程度の差はあるにしても,いずれも内部感覚化された心的知覚である。この場合統語論的には定形節はその特性上ASPECTからMODALに至る統語論上の各階層に亘るAUX構成素を内包することが可能である。これに対して,to付き不定詞節及び'-ing'型の節はMODAL成分を排除したAUX構成素しか内包できない。心的知覚という共通の領域をもつこの類型の補文は推論,叙述等に見られるように心的知覚の発現形態が同一であれば相互に意味を損なうことなく書き換える事が可能である。知覚動詞が裸不定詞または分詞形態の節を補文として取る場合は,知覚の第一義的な意味である肉体的な感覚器官を通じた知覚を意味することになる。各感覚器官の知覚特性により,補文形態の下位区分の中の或るものは特定の感覚動詞には後続しないことがある。これは五つの感覚器官が外部情報を感知する際の相互補完性と外部情報を言語化する際の表現内容の意味論的類型(即ち,命題の三類型(=状態,過程,行為))との結合可能性(相性)から理解されるものである。本論は,現行の変形生成文法で頻繁に行なわれている述語補文派生の仮説とは根本的に異質な基盤に基いている。これまで補文生成の統語素性としては,WH,(if),that,for,to,(for-to),POSS,-ing,(POSS-ing)か上げられてきているが,WH,(if),thatは,埋め込み節の動詞の定形性と直接関連し,for及びPOSSは上位動詞の述語項構造とto-inf及び-ingの主語の照応関係との間で規定され(Bresnan(1982),Itoh(1986)など参照),bare-inf及びそれと同類型の分詞の補文形態は上位の(知覚)動詞の統語素性によって選択されるものである。そうすれば,従来定形,非定形,および不定詞,動名詞の補文形態を引き出す統語素性として一般化が試みられていた心的現象の表記,未来性,仮定性,推論性の表記および既遂的,叙述的表記という意味論的素性は知覚動詞補文の統語論的類型化の基準とするには根拠の弱いものと言わさるを得なくなる。本論は,知覚動詞の補文形態を過不足なく網羅する補文選択の基盤として文構造の意味論的階層性(中右実(1984)参照)およびその各階層と上位動詞の意味論的整合性に置くべきであるとする仮説に基づくものである。これによって従来語彙項目を補文化詞として扱うことによって生じた矛盾(thatとWH,for-toとWHの共起に見られる二重補文化子の違反,裸不定詞節の派生に関する意味論的非整合性)が無理なく説明されるものである。

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