- 著者
-
灘井 雅行
- 出版者
- 岐阜薬科大学
- 雑誌
- 岐阜藥科大學紀要 (ISSN:04340094)
- 巻号頁・発行日
- vol.47, pp.23-34, 1998-06-30
グラム陰性菌の細胞壁の構成成分であるエンドトキシンは,アジュバント活性,抗腫瘍活性やマクロファージ活性化など免疫機能を亢進ずる。また,エンドトキシンは腎機能や肝機能を低下させることも知られている。特に,エンドトキシンによって誘発される急性腎不全は,薬物の体内動態ならびに腎排泄挙動を変化させると考えられる。エンドトキシンを静注することにより作製したエンドトキシン血症モデルラットにおいて,糸球体濾過速度の低下に伴ってアミノ配糖体系抗生物質の腎排泄が低下したが,尿細管からの再吸収は増加した。一方,有機アニオン性薬物の尿細管分泌は低下したが,有機カチオン輸送系による尿細管分泌は変化しなかった。エンドトキシンの活性本体であるリピドA部分を投与したところ,エンドトキシン血症時と同様の腎機能低下と薬物排泄能の低下が認められ,リピドAが急性腎不全の発現に関与すると考えられた。また,エンドトキシンによる薬物腎排泄の低下は時間依存的に回復した。さらに,アデノシン拮抗薬であるテオフィリンを前投与した場合にはエンドトキシンによる腎機能の低下が防御されたことから,エンドトキシンによる急性腎不全発現にはアデノシンが関与していることが明らかとなった。以上の知見は,エンドトキシン血症時の薬物腎排泄挙動ならびにグラム陰性菌感染症患者の治療に対して有益な情報を与えるものである。