著者
灘井 雅行
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.111-123, 2006-11-15 (Released:2007-07-25)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

一般に,薬物の薬理効果および有害作用の発現強度は薬物の血中濃度によって決定されることから,十分な薬物の効果を得るためには,作用部位において適切な薬物濃度を維持することが必要である。また,個々の患者において,有効かつ安全な治療効果が期待できる血中薬物濃度に基づいて薬物投与設計を最適化することにより,有害作用発現の危険性を回避し,薬物治療の成績を向上することが可能である。しかし,生体に投与された薬物は体内で吸収,分布,代謝,排泄を受けることから血中の薬物濃度は経時的に変化する。したがって,患者における血中濃度の時間的推移(体内動態)を速度論(薬物速度論)に基づいて理解することが必要である。そこで本稿では,薬物速度論の基礎と,薬物速度論に基づいた薬物投与設計の構築,さらに治療薬物モニタリング(TDM)における個々の患者の血中薬物濃度を用いた薬物投与計画の妥当性の評価について概説する。
著者
灘井 雅行
出版者
岐阜薬科大学
雑誌
岐阜藥科大學紀要 (ISSN:04340094)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.23-34, 1998-06-30

グラム陰性菌の細胞壁の構成成分であるエンドトキシンは,アジュバント活性,抗腫瘍活性やマクロファージ活性化など免疫機能を亢進ずる。また,エンドトキシンは腎機能や肝機能を低下させることも知られている。特に,エンドトキシンによって誘発される急性腎不全は,薬物の体内動態ならびに腎排泄挙動を変化させると考えられる。エンドトキシンを静注することにより作製したエンドトキシン血症モデルラットにおいて,糸球体濾過速度の低下に伴ってアミノ配糖体系抗生物質の腎排泄が低下したが,尿細管からの再吸収は増加した。一方,有機アニオン性薬物の尿細管分泌は低下したが,有機カチオン輸送系による尿細管分泌は変化しなかった。エンドトキシンの活性本体であるリピドA部分を投与したところ,エンドトキシン血症時と同様の腎機能低下と薬物排泄能の低下が認められ,リピドAが急性腎不全の発現に関与すると考えられた。また,エンドトキシンによる薬物腎排泄の低下は時間依存的に回復した。さらに,アデノシン拮抗薬であるテオフィリンを前投与した場合にはエンドトキシンによる腎機能の低下が防御されたことから,エンドトキシンによる急性腎不全発現にはアデノシンが関与していることが明らかとなった。以上の知見は,エンドトキシン血症時の薬物腎排泄挙動ならびにグラム陰性菌感染症患者の治療に対して有益な情報を与えるものである。