著者
西澤 晃彦
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.47-62, 1996-06-30
被引用文献数
1 1

このエッセイでは, 1950年代から80年代にかけての日本の都市社会学における背後仮説を, コミュニティ理論や町内会研究の検討を通じて明らかにすることが目指される。<BR>戦後の都市化と産業化は, 人口を流動化し, 地域社会の構造を一変させた。これに対して, イデオロギー的立場は多様であったにも関わらず, 多くの都市社会学は一様に社会目標あるいは理想としてのコミュニティの新しいイメージを提示し, その実現可能性を検証, 地域社会の再統合の道筋を探求した。<BR>これらの新しいコミュニティ像の特徴は, 以下の三点に要約されるだろう。 (1) 都市においては, コミュニティ問の境界が不明瞭で, 人口移動も激しかったにも関わらず, コミュニティをその外部から切り離して過剰に独立的に論じている。 (2) 定住民社会として地域社会はイメージされており, 流動層は周辺的存在とされるか, 地域社会の解体要因として評価されることが多い。 (3) 都市における生活世界の複数化を無視し, 「住民」のコミュニティへの同一化を強調し過ぎている。<BR>この結果, 多くの日本の都市社会学者がシカゴ学派の遺産の継承を主張しているにも関わらず, 彼らは, 都市の多様な諸コミュニティと諸個人が接触し合い変容する社会過程を捉えられていないし, 非定住の少数者の社会的世界の研究も放棄され社会病理学に譲り渡してしまったのである。

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