著者
樋口 耕一
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.334-350, 2017 (Released:2018-12-31)
参考文献数
29
被引用文献数
7

筆者はテキスト型 (文章型) データの分析方法「計量テキスト分析」を提案し, その方法を実現するためのフリーソフトウェア「KH Coder」を開発・公開してきた. 現在ではKH Coderを利用した応用研究が徐々に蓄積されつつあるように見受けられる. したがって現在は, ただ応用研究を増やすのではなく, KH Coderがいっそう上手く利用され, 優れた応用研究が生み出されることを企図しての努力が重要な段階にあると考えられる. そこで本稿では, 現在の応用研究を概観的に整理することを通じて, どのようにKH Coderを利用すればデータから社会学的意義のある発見を導きやすいのかを探索する.この目的のために本稿では第1に, 計量テキスト分析およびKH Coder提案のねらいについて簡潔に振り返る. 第2に, KH Coderを利用した応用研究について概観的な整理を試みる. ここではなるべく優れた応用研究を取り上げて, 方法やソフトウェアをどのように利用しているかを記述する. また, なるべく多様なデータを分析対象とした研究を取り上げることで, 応用研究を概観することを目指す. 第3に以上のような整理をもとに, 計量テキスト分析やKH Coderを上手く利用するための方策や, 今後の展開について検討する.
著者
稲葉 奈々子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.238-252, 2016 (Released:2017-09-30)
参考文献数
44
著者
坂無 淳
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.592-610, 2015 (Released:2016-03-31)
参考文献数
31

本稿では, 大学教員の研究業績の男女差について分析を行う. 多くの先行研究では, 平均的には男性の業績が多い傾向が示されている. しかし, 研究業績には性別という属性以外に多くの規定要因があり, それらの要因を統制したうえでも, なお性別が規定要因となるかを明らかにする必要がある. そこで, 2010年に日本の地方国立大学で行った調査から, 大学教員の1年間の論文数を従属変数とした統計的な分析を行う. その結果, 単純に平均値を比較すると, 年1本ほど男性の論文数が多い傾向があった. つぎに, 性別に加え, キャリア年数, 研究以外の業務量 (授業担当数や学内会議数), 出張日数, 分野, 職階を独立変数に入れた重回帰分析と, 低い値に偏る従属変数の分布に適合した負の二項分布回帰を行った. その結果, 性別は規定要因とならず, むしろ分野や出張日数が強い規定要因となった. 具体的には, 分野では医歯薬学と比べて, 他分野では少なく (農学は除く), 出張日数が多い人は論文数が多い傾向がある. また, 婚姻や育児状況, それらと性別の交互作用など家族面の要因を独立変数としても, それらは規定要因とはならなかった. 結論として, 他の要因を統制すると, 性別は研究業績の規定要因とならず, 性別という属性に基づく研究業績の差は見られない. くわえて, 出張日数が研究業績に与える影響の大きさと, 多様な状況にある研究者への出張支援の重要さが示唆される.
著者
笹島 秀晃
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.106-121, 2016 (Released:2017-06-30)
参考文献数
33
被引用文献数
1

都心衰退地区に形成される芸術家街は, ジェントリフィケーションの契機となることが知られてきた. 芸術家の存在は, 不動産開発や飲食業・文化産業の集積を促し, その過程において地価は高騰し居住者階層は移り変わる. 先行研究では, ジェントリフィケーションのメカニズムを分析するにあたって, おもに不動産業者や消費者としての中産階級に注目してきた. ところが, 重要なアクターであるはずの美術作品の展示・売買を行う画廊については十分な分析がなされてこなかった. 本稿の目的は, 芸術家街を契機とするジェントリフィケーションのメカニズムを, 画廊の集積過程に着目して分析することである. 具体的な検討事例は, 1965年から71年の間に芸術家街から画廊街へと転換した, アメリカ合衆国ニューヨーク市SoHo地区である. 芸術家街であるSoHo地区に画廊が集積した要因は, 安価な地価や広い室内空間を備えた未利用の工場建築物の存在だけではなかった. むしろ, ニューヨーク市における美術業界の構造変動の中で, 画廊経営者が自身の美術的立場を明確にする際に準拠した, 芸術家街の表象という文化的要因が重要であったことを明らかにする.
著者
朴 沙羅
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.275-293, 2013 (Released:2014-09-30)
参考文献数
34

近年, 敗戦直後の連合軍占領期 (1945年9月から52年4月) における人口移動が解明されるにつれて, 在日コリアンの一部が太平洋戦争後に日本へ移住してきたことも次第に明らかにされてきた. その移動は通常, 「密航」や「不法入国」と呼ばれ, 管理され阻止される対象となった. しかし, 「密航」という言葉のあからさまな「違法性」のためか, 「密航」を定義する法律がどのように執行されるようになったかは, 未だ問題にされていない.本稿が問題とするのはこの点である. 出入国管理法が存在せず, 朝鮮半島からの「密航者」や日本国内の「朝鮮人」の国籍が不透明だった時期に, なぜ彼らの日本入国を「不法」と呼び得たのか. 「密航」はどのように問題化され「密航者」がどのように発見されていったのか. これらを探究することは, 誰かが「違法」な「外国人」だとカテゴリー化される過程を明らかにし, 「密航」をめぐる政治・制度・相互行為のそれぞれにおいて, 「合法」と「違法」, 「日本人」と「外国人」の境界が引かれていく過程を明らかにすることでもある.したがって, 本稿は, 朝鮮人の「密航」を「不法入国」と定義した法律, その法律を必要とした政治的状況, その法律が運用された相互行為場面のそれぞれに分析の焦点を当て, それによって, 植民地放棄の過程において「日本人」と「外国人」の境界がどのように定義されたかを明らかにしようと試みる.
著者
鶴田 幸恵
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.133-150, 2008-06-30 (Released:2010-04-01)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

本稿の目的は,「性同一性障害の正当な当事者であること」をめぐる当事者の語りを検討し,そこでいかなる基準が用いられているかを示すことである.まずは,サックスによる成員カテゴリーの自己執行/他者執行の区別を参照しながら,性同一性障害カテゴリーがどのように用いられているのかを見ていく.次に,「正当な性同一性障害」について当事者が語っているインタビュー・データを分析し,そこで用いられている基準を析出する.その結果,「医療への依存度」「自己犠牲の程度」「女/男らしくあることへの努力」「社会性の有無」という複数の基準が用いられていることがわかった.これらの基準はもともと医学において用いられている基準を参照したものであったものだが,現在ではそれが独り歩きし,性同一性障害コミュニティ独自の基準となっている.以上の議論によって明らかになったのは,性同一性障害カテゴリーが,それを執行する権利が医学にのみあるのではないものとして,コミュニティのなかに存在しているということである.また,そのカテゴリーを適用されるための基準が,医学の求める基準をさらに厳格化し,社会にいかに適応的であるかによるものとなっている,ということである.性同一性障害カテゴリーは,医学から離れた当事者間の相互行為においても,当事者自身によって,非常に道徳的なものとして管理されているのである.
著者
森山 至貴
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.103-122, 2011-06-30 (Released:2013-03-01)
参考文献数
15

社会的マイノリティをめぐる議論は,差別の考察と結びつくかたちで常にカテゴリー語を1つの重要な論点としてきた.しかし,当該カテゴリー成員にとっての呼称が果たす意味や意義については,考察されていない.そこで本稿では,ゲイ男性およびバイセクシュアル男性の自称としての「こっち」という表現を取り上げ,この論点について考察する.具体的にはゲイ男性またはバイセクシュアル男性13人に行ったインタビューの結果を分析する.ゲイ男性とバイセクシュアル男性の集団を指す「こっち」という「婉曲的」な呼び名が〈わたしたち〉を指すために用いられる理由はいくつかあるが,そこに「仲間意識」のニュアンスが込められている点が重要である.この点には「こっち」という言葉のもつトートロジカルな性質が関連しており,「仲間」であることは性的指向の共通性には回収されない.また,「仲間意識」を強く志向するこの語彙を用いることによって「仲間意識」を発生させることも可能である.ただし,それが投企の実践である以上,他の言葉よりは見込みがあるにせよ,「仲間」としての〈わたしたち〉が必ず立ち上がるとは限らない.反例もあるにせよ,曖昧さをもったトートロジカルな「こっち」という言葉は柔軟で繊細なかたちで〈わたしたち〉を立ち上げるための言葉として存在しており,このことは意味的な負荷の軽減がマイノリティ集団の言語実践にとって重要ではないか,との洞察を導く.
著者
稲津 秀樹
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.19-36, 2010-06-30 (Released:2012-03-01)
参考文献数
36

本稿では,非集住地域に居住する日系ペルー人の生活世界への参与観察に基づいた,彼・彼女らの「監視の経験」を取り上げ,そこに存在する権力の構成を示す視座を提供することを目的とするものである.これまで監視に関する彼らの言明は,精神医学的な知見から「妄想」とみなされてきた故に,移民と監視を巡る研究は国境管理政策の分析に終始していた.そこでは都市における監視社会化の流れも含めた,移民にとっての監視社会の展開を日常的な視点から捉えかえす視点に欠けていたと言える.従って本稿では,監視の経験=関係妄想とする主張をまず批判した上で,調査に基づく彼らの経験を,ガッサン・ハージが説く「空間の管理者」概念を援用しながら分析する方法を採った.空間の管理者とは,移民を空間的に管理する意識をもち,かつそうした態度を取る権利を有する者のことを指している.日系ペルー人への個々の聞き取りから浮かび上がるのは,過去/近い将来における空間の管理者との出会いを想起/予期する経験,更には,空間の管理者として振る舞う日本人との関係を築く過程で自らも管理者として他者と接する経験であった.そして,ある語りの中で,それらの経験が重層的にあらわれている点に着目し,日系ペルー人にとっての権力作動の要諦を,彼らの意識における空間の管理者が,時間/民族間を2つの意味で〈転移〉している点にあることを指摘した.
著者
西田 尚輝
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.482-498, 2020 (Released:2021-12-31)
参考文献数
26

失業保険の費用を労働者,雇用主,国のあいだでどのように分担するかは,福祉国家によって異なる.しかし従来の権力資源論,資本主義の多様性論,インサイダー・アウトサイダー理論は,各国の失業保険の費用分担構造の違いを体系的に説明しなかった.本稿の目的は,制度の経路依存性と長期的過程に着目して,失業保険の雇用主拠出にかんする新たな説明を提示することである. 本稿は,戦間期ヨーロッパ諸国の失業保険の比較歴史分析によって,失業保険のコスト分担パターンを決定したのは,20 世紀初頭に福祉プログラムがどのように構造化されたか(市民権ベース/職業ベース)と,どのような組織が失業保険を実施していたか(労組/他組織)という2 つの要因だったことを示す.職業ベースの福祉プログラムを採用した国のうち,フランスのように多元的な失業金庫制度をもっていた国は,その制度選択の結果として,戦間期においても労働者だけが保険料を負担する旧来の制度を維持したのに対し,ドイツのように労働組合のみが失業金庫を管理運営していた国は,第一次世界大戦後に,未組織労働者の無保険状態の解消のために失業保険を一般化し,雇用主にも保険料負担を求めた. 福祉国家の大部分は拠出金で賄われているため,その費用を誰が負担するのかという問いを考えることは重要である.本稿は失業保険という政策領域でこの問いに取り組み,今後の研究にいくつかの道を開くものである.
著者
宮田 りりぃ 石井 由香理
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.266-280, 2020 (Released:2021-09-30)
参考文献数
12

本稿では,2016 年から大阪新世界エリアの女装コミュニティにおいて不定期開催されている,当事者主体の交流イベントに着目する.そこで,一連のイベントに関わった人々へのインタビューから,イベントの成立過程および当事者たちの自己語りについて描き出す.その上で,そこでは女装の逸脱的意味づけがどう組み替えられているのかを考察する.第1 に,この交流イベントは,当事者同士の連帯と結びついた「楽しみの増加」を目指す女装者たちと,長期的観点からの「売り上げの増加」を目指す商業施設側との間の利害や合理的判断が一致するかたちで成立していた.第2 に,女装者たちが語る自らの性別越境とは,女装と男性とを自由に往来するような可逆的なものであり,また気軽に実践できるような楽観的なものでもあった.これらの結果から,一連のイベントは,女装という行為に対する娯楽化と経済化という異なる逸脱的意味づけの組み替えが共存することで支えられており,さらに逸脱の娯楽化は当事者たちによる固定的な性別越境のあり方との差異化によって可能となっていることがわかった.以上の知見は,これまで医療化によって支援から周縁化されたり,犯罪化によって差別的扱いを受けたりする傾向にあった女装という行為を捉え直すための,新たな視角を提起するものである.
著者
小宮 友根
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.134-149, 2017 (Released:2018-06-30)
参考文献数
45

本稿の目的は, 「概念分析の社会学」の立場から構築主義社会問題論を再解釈することである. 構築主義社会問題論は, OG問題を乗り越え, 経験的研究に取り組むだけの段階にあると言われて久しい. けれど, 「クレイム申し立て活動」を調べることが社会学方法論上どのような意義をもつのかについては, これまで決して十分に注意が払われてこなかったと本稿は考える.本稿はまず, OG問題をめぐる議論がもっぱら哲学的立場の選択をめぐるものであり, 「クレイム申し立て活動」の調査から引き出せる知見の身分に関するものではなかったことを指摘する. 次いで, 社会問題の構築主義のもともとの関心が, 犯罪や児童虐待といった問題を, 社会問題として研究するための方法にあったこと, そしてその関心の中に, 社会のメンバーが社会の状態を評価する仕方への着目が含まれていたことを確認する. その上で, 「概念分析の社会学」という方針が, そうした関心のもとで社会問題研究をおこなうための明確な方法論となることをあきらかにする.「概念分析の社会学」は, 私たちが何者で何をしているのかについて理解するために私たちが用いている概念を, 実践の記述をとおして解明しようとするものである. この観点からすれば, 構築主義社会問題論は, 「クレイム申し立て活動」をほかならぬ「社会問題」の訴えとして理解可能にするような人々の方法論に関する概念的探究として解釈することができるだろう.
著者
筒井 淳也
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.572-588, 2013 (Released:2015-03-31)
参考文献数
45

本稿では, ポスト工業化社会における排他的親密性の現状と行く末について, おもに経験的研究の成果に依拠しつつ論じている. 戦後の工業化と経済発展に伴う男性稼ぎ手夫婦の段階を経て, 現在女性の再労働力化が進んでいる. おもな先進社会のなかでも各国ごとにバラつきがあるとはいえ, 女性の所得水準が全体的に上昇していくなかで見られるのは, カップル関係の衰退ではなく維持である. しかしその内実には, 同棲の広がりに代表される深刻な変化が生じている. この変化について, 関係性は外部の社会的要因から自由になっていくのか, 持続的関係は衰退するのか, 排他性は弱まっていくのかという3点について, おもに同棲についての欧米社会における実証研究を手がかりとしつつ検討を行った. さらに, 男女の経済状態が均等化するなかで, 人々が自発的に関係構築をするための生活条件が整備されていくと, 関係性やそれから得られる満足は自発的選択の結果として理解されていくのか, という問いを立て, 必ずしも自己責任論が徹底されるとは限らないこと, しかし親密な関係性を首尾よく構築できないことに対して公的な補償が充てられることは考えにくいことを論じた. 他方で日本社会はこういった生活条件が整備されつつある段階であり, 関係性の実践が男女で非対称的な経済的条件にいまだに強く拘束されている段階である, といえる.
著者
松永 伸太朗 永田 大輔
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.358-376, 2020 (Released:2021-12-31)
参考文献数
16

芸能などの芸術産業に比して,労働集約性が高く熟練した制作人口を大規模に必要とするアニメ産業では,制作者の定着への志向がいかに維持されるかが課題となる.定着が維持されるためには,制作者が仕事を獲得し続けられる見通しをもてることが必要である.アニメ産業ではプロジェクトベースの契約が主流である制作者を,労務管理側が評価することが難しいため,制作者同士の相互評価が産業への定着志向を持ち続けるうえで重要になる.本稿ではアニメ産業の制作者同士の相互評価が機能しうる場としてのインフォーマルなコミュニティを支える構造的条件とその限界について,アニメーターへの2つのインタビュー調査に基づいて検討した. 近年の技術革新に伴い現場の管理側が若手中心になり,管理側からのアニメーターへの評価がさらに難しくなり,アニメーター同士の相互評価の重要性は増していた.ベテランはインフォーマルな相互評価を行っていることを語っていたが,若手は自らが適切に「評価されていない」という感覚をもっており,コミュニティの衰退が示唆されていた.このような差異を導く原因として,分業による評価の曖昧化と,放映期間の短期化によるコミュニケーション機会の減少があった. 産業への定着志向が維持されるためにはインフォーマルなコミュニティが必要である.本稿はそのコミュニティがどのように揺らいでいるかの構造的条件の解明の重要性を指摘した.
著者
栗田 宣義
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.516-533, 2015
被引用文献数
1

<p>現代日本の若年層女性, 具体的には高校生を含むハイティーン女子に焦点を当て, 他者からの承認を意味するリア充, および, 容貌身体の美醜評価による序列に基づいたルックス至上主義ならびに美醜イデオロギーの視角から, 彼女たちの生きづらさを, 探索的因子分析と共分散構造分析を用いて, 計量社会学的に明らかにした. 高校生全学年を含む15歳から19歳の就学層を被調査者とした, ウェブ上の質問紙経由での回収数458名のインターネット調査を用いた分析の結果, 非リア充であるほど生きづらさを抱える傾向があり, また, リア充であるほど容姿外見の変身願望が強い傾向があることが判った.</p>
著者
古市 憲寿
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.376-390, 2012-12-31 (Released:2014-02-10)
参考文献数
46
被引用文献数
1 1

本稿は, 1990年代後半以降に政府や経済界から提出された「起業」や「起業家」像の検討を通して, 日本の社会秩序が「起業」や「起業家」をどう規定し, 受け入れてきたのかを分析するものである.バブル経済が崩壊し日本型経営が見直しを迫られる中で, 「起業家」は日本経済の救世主として政財界から希求されたものだった. しかし, 一連の起業を推奨する言説にはあるアイロニーがある. それは, 自由意志と自己責任を強調し, 一人ひとりが独立自尊の精神を持った起業家になれと勧めるにもかかわらず, それが語られるコンテクストは必ず「日本経済の再生」や「わが国の活性化」などという国家的なものであったという点である. 自分の利益を追求し, 自分で自分の成功を規定するような者は「起業家」と呼ばれず, 「起業家」とはあくまでも「日本経済に貢献」する「経済の起爆剤」でなければならないのである. さらに, 若年雇用問題が社会問題化すると, 起業には雇用創出の役割までが期待されるようになった.1999年の中小企業基本法の改正まで, 日本の中小企業政策は「二重構造」論の強い影響下, 中小企業の「近代化」や大企業との「格差是正」を目指すという社会政策的側面が強かった. その意味で, 起業家に自己責任と日本経済への貢献を同時に要求する理念は, 1990年代後半以降の時代特殊的なものと言える.
著者
三具 淳子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.305-325, 2007-12-31 (Released:2010-04-01)
参考文献数
23
被引用文献数
2 2

第1子出産は女性の労働者としての地位を大きく変える分岐点である.「妻の就業」は本人の経済的自立の基盤であり,夫婦の平等志向を実現させる重要な要因であるとともに,夫婦の内と外のジェンダー・アレンジメントの結節点でもある.この点をふまえ,本稿は,第1子誕生を間近に控えた夫婦へのインタビューをもとに,出産後の妻の就業継続等の行動を決定する過程を分析した.その際,Komterによる3つの権力概念の適用を試みた.その結果,夫婦の個別的相互関係においては「顕在的権力」の作用は認められず,確認されたのは,マクロなレベルに規定要因をもつ「潜在的権力」と「目に見えない権力」の作用であった.「目に見えない権力」の背景には,ジェンダー・イデオロギーとともに合理主義的判断の優位性がみられ,こうした複合的な規定要因が補強しあって作用するため,妻の多くが不満をもたずに労働市場から「スムーズ」に退出していく態様がとらえられた.これらの分析結果は,Komterの権力概念の再考を迫るものとなった.1つ目は,「潜在的権力」が社会構造的レベルにも規定要因をもつという点,2つ目は,「目に見えない権力」はジェンダー・イデオロギーのみによって規定されているわけではく,複合的な要因を考慮する必要があるという点である.
著者
北村 匡平
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.230-247, 2017 (Released:2018-09-30)
参考文献数
44

敗戦から1950年代にかけて, 大衆娯楽として最も隆盛していた映画は, 多くの国民的スターを輩出した. この時代のスターダムにおけるスターイメージの変遷とそれを価値づける言説に, 大衆の欲望モードの変化がみられるのが1955年頃である. 本稿は, 原節子と高峰三枝子に代表される占領期的な欲望を体現する‹理想化の時代›から, 1955年以降の若尾文子を代表とする‹日常性の時代›への推移を見取り図として, 映画スターに対する大衆の欲望モードの偏差を浮上させることを目的とする.この転換期, 大衆の集合的欲望を最も引き受けていたのは若尾文子であった. 超俗的な美貌をもった占領期のスター女優とは異なり, 若尾文子を価値づける言説は, 「庶民的」「親近感」「平凡」であり, 大衆の‹日常性›を体現するペルソナを呈示していたからこそ彼女はスターダムの頂点にのぼりつめることができた. 本稿は, 娯楽雑誌におけるスターの語られ方を分析することによって, 経済発展だけでは説明できない言説空間の変容を捉える. そこで見出されるのは, 占領期の‹理想化›された社会を象徴するスターへの反動として, 大衆文化を具現する‹日常›の体現者を称揚する言説構成である. スターを媒介にして自己を見つめ返すようなまなざしの構造が生成する1950年代中頃, 若尾文子は「平均的」であることによって大衆の‹日常性›を演じ, 若者の「リアリティ」を体現したのである.
著者
浦野 茂
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.492-509, 2013 (Released:2014-12-31)
参考文献数
22
被引用文献数
1

本稿は, 発達障害をもつ高校生を対象にした社会生活技能訓練 (SST) においてその参加者たちがこの訓練に抵抗していく事例を検討する. とりわけ本稿は, 社会生活技能訓練とそのなかでの抵抗について, それぞれの実践を組み立てている手続きを記述することを通じ, 発達障害者に対する制度的支援の実践が当事者に対していかなる行為と自己アイデンティティの可能性を提供しているのかを明らかにする.制度的実践を介した医学的概念とその対象者の行為およびアイデンティティとの関係については, 医療化論の視点からすでに批判的検討がなされてきた. しかしこうした批判的視点にあらかじめ依拠してしまうことは, 発達障害者と呼ばれる人びとがこの概念に基づいて行いうる実践の多様なあり方を見失わせてしまう. したがって本稿はこの視点からひとまず距離をとりながら, この実践を構成している概念連関の記述を試みる.この作業を通して本稿が見出すのは, 医療化論の視点とは対立する次の事態である. すなわち, 発達障害者への制度的支援の実践は, その参加者が発達障害の概念を批判的に捉え返していくための可能性をも提供しており, したがってまたこの実践のあり方に抵抗し, さらにはそれをあらためていく可能性をも提供しているという事態である. これに基づき本稿は, 当事者のアイデンティティ形成とその書き換えの積極的な契機として制度的支援の実践を捉えていく必要のあることを示すことになる.